Scope3カテゴリ15- 投資、投資(株式投資、債券投信、プロジェクトファイナンス)の算定

Scope 3カテゴリ15(投資)は、企業の投資活動に伴う温室効果ガス(GHG)排出量を対象とし、特に金融機関や投資家にとって重要な指標です。
株式、債券、プロジェクトファイナンス、プライベートエクイティなど、多様な投資形態における排出量を算定し、ポートフォリオ全体の環境影響を評価することが求められます。
投資先企業のScope 1・2排出量を基に、持ち株比率や出資割合を考慮して排出量を算定し、投資ポートフォリオの脱炭素化戦略を策定することが重要です。
また、投資家のエンゲージメントを通じて、投資先企業の気候変動対策を促進し、持続可能な投資を推進する動きが加速しています。
さらに、ESG投資やグリーンボンドの活用、ポジティブインパクト投資、カーボンオフセットなど、投資活動を通じた排出削減策も求められます。
カテゴリ15の取り組みは、環境リスク管理だけでなく、企業価値向上や投資家の信頼獲得にもつながる重要な要素となっています。
事前に、こちらの記事を見ていただくと内容を理解しやすくなります。
▼参考:Scope3とは?最新情報と環境への影響と企業の取り組み
▼参考:企業の環境データを計算 | Scope3 カテゴリ6~8,14,15について解説

Scope3 カテゴリ15の概要
Scope 3カテゴリ15(投資)は、報告企業が行う投資活動に関連する温室効果ガス排出量を対象とするカテゴリです。
このカテゴリは、特に金融機関にとって重要性が高く、投資ポートフォリオ全体での環境影響を把握し、管理するための重要な指標となっています。
まず、カテゴリ15の対象範囲には、株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンス、プライベートエクイティなど、多様な投資形態が含まれます。
これらの投資活動による排出量は、投資先企業やプロジェクトが直接または間接的に排出する温室効果ガスを基に算定されます。
株式投資では、投資先企業のScope 1およびScope 2の排出量のうち、出資比率に応じた部分が対象となります。
一方、プロジェクトファイナンスでは、プロジェクトのライフサイクル全体にわたる排出量を考慮する必要があります。
このカテゴリの特徴的な点は、投資家が投資先企業に与える影響力です。投資活動を通じて、投資先企業の気候変動対策や環境戦略に影響を与えることが可能であり、特に機関投資家はその影響力を活かして積極的なエンゲージメントを行うことが期待されています。
エンゲージメント活動を通じて、企業に対して排出削減目標の設定や再生可能エネルギーの活用促進を求めることで、ポートフォリオ全体の環境パフォーマンスを向上させることができます。
カテゴリ15の重要性は、近年のESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大によってさらに高まっています。気候変動リスクの増大や規制強化が進む中で、投資先の環境パフォーマンスを適切に評価し、排出量を管理することは、投資家にとってリスク管理の一環として欠かせない課題となっています。
また、投資先の環境情報を分析することで、低炭素社会への移行に向けた機会を見出すことも可能です。
投資に関連する排出量の管理において重要なのは、データの透明性と一貫性です。投資先企業が開示する排出量データの信頼性を向上させるため、投資家は企業に対して情報開示を求める役割を果たします。
具体的には、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みを活用し、企業が気候変動リスクと機会を開示するよう促進することが求められます。
▼参考:CDPとは!?2024年版の変更点について詳しく解説
さらに、長期的な視点での管理がこのカテゴリでは重要です。高炭素産業への投資は、将来的な規制強化や市場の変化によりリスクを伴う可能性が高いため、ポートフォリオの脱炭素化は不可避の課題です。
一方で、再生可能エネルギーやクリーンテクノロジーなどの分野へのグリーン投資は、投資先の排出削減に寄与すると同時に、新たな成長機会を提供します。
最後に、カテゴリ15の取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、ブランド価値や投資家の信頼性を向上させる手段としても機能します。持続可能な投資活動を通じて、企業全体の脱炭素化を促進し、社会的責任を果たすことが期待されています。
このように、Scope 3カテゴリ15は投資家の行動を通じて、広範な環境改善を実現する重要なカテゴリであると言えます。
勿論、投資やプロジェクトファイナンスを行なっていない企業にとっては、算定から除外する項目になります。
投資先が自社の温室効果ガス排出量を算定している場合は比較的簡単に算定できるのですが、まだまだ温室効果ガスの可視化を行なっていない企業が多い中、多く投資先がある企業にとっては難易度の高い項目になります。
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Scope3 カテゴリ15の算定方法
Scope 3カテゴリ15「投資」の排出量を算定するには、投資先の企業が直接的に報告するGHG排出量を基にします。
企業が投資している各社やプロジェクトが排出するGHGの割合を計算し、その投資額に基づいて割り当てます。
算定を、3パターンで見ていくと
(株式投資):投資先のScope1,2排出量×株式保有割合
(債券投資):債券投資先のScope1,2×投資先の総資本に対する割合
(各プロジェクト):各プロジェクトの排出量×プロジェクト出資額の割合
という形で算定していきます。
例えば、
・投資先のScope1,2の排出量が:54,000 [tCO2eq]
・投資先企業の総発行株式数は、30,000株
・自社が保有している株式数は、6,000株
上記のような場合、
6,000÷30,000=0.2(総発行株式のうち20%を保有)
54,000 [tCO2eq]×0.2(20%)=10,800 [tCO2eq]
と算定していきます。
Scope3 カテゴリ15における課題
カテゴリ15における課題としては、以下のようなものが挙げられます。
- 投資先企業が正確なGHG排出データを提供しているかが重要です。
特に、私募投資や未上場企業の場合、排出データの入手が困難である場合があります。 - 金融機関や投資家が、投資先のGHG排出量に対する影響力をどの程度持つかを評価するのが難しい場合があります。
- 企業間や業界間でGHG排出量の測定方法が異なるため、正確な比較や算定が困難な場合があります。
多くの金融機関や投資家が、カテゴリ15「投資」に関連して排出量の開示を強化しています。
特に、サステナブルファイナンスに関する規制が厳しくなる中、金融機関は投資先の企業のGHG排出量を透明に報告し、低炭素経済への移行を支援することが求められています。
また、Science Based Targets initiative(SBTi)も、金融セクター向けのガイダンスを発表しており、投資家がポートフォリオ全体の排出量を削減するための具体的な指針が示されています。
▼参考:中小企業版SBT認証を目指す企業必見!申請基準(2025年2月現在)と申請ポイント
Scope3 カテゴリ15の削減施策
Scope 3のカテゴリ15「投資」に関連する削減施策について詳しく説明します。
このカテゴリは、金融商品や投資活動に関連する温室効果ガス(GHG)排出量を対象としているため、削減施策は主に投資家や金融機関が投資ポートフォリオの中でどのようにGHG排出を管理・削減するかに焦点を当ていく形になります。
▼ポートフォリオのデカーボナイゼーション(脱炭素化)
ポートフォリオ全体のGHG排出量を削減するための具体的な戦略が「デカーボナイゼーション」です。
これは、投資先企業の脱炭素化を促進し、自らのポートフォリオにおけるGHG排出量を減らすアプローチです。
- 低炭素企業への投資シフト:投資先の企業やプロジェクトを、低炭素技術や再生可能エネルギーを使用している企業にシフトします。
これにより、直接的なGHG排出が少ない企業を中心にポートフォリオを再編成することが可能です。
- 高炭素企業からのディベストメント(投資撤退):石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に依存する企業や産業から資本を引き揚げる「ディベストメント」も、効果的な削減策です。
この戦略は、投資先企業が気候変動対策に不十分な場合や、カーボンインテンシブ(炭素集約型)な企業である場合に実施されます。
▼投資先企業へのエンゲージメント
投資家が、GHG排出量削減に向けて投資先企業と対話し、変化を促すためのアプローチが「エンゲージメント」です。投資家の影響力を活用して、投資先企業の持続可能な慣行を改善することが目指されます。
- エンゲージメント活動:投資先企業に対し、科学的根拠に基づく目標(SBTs: Science-Based Targets)を設定するように働きかけたり、温室効果ガスの削減目標や具体的な施策を導入するように求めます。
この方法は、特に株主や大規模な投資家が企業に与える影響が大きい場合に効果的です
▼参考:SBT認定を目指す企業必見!申請で押さえるべき重要ポイント
- 投票権の行使:投資家は、株主総会などでの投票権を行使して、企業の気候変動対応に関する提案を支持したり、取締役会に対してサステナビリティに配慮した施策を求めることができます。
▼ポジティブインパクト投資(インパクト投資)
投資活動を通じて、社会的・環境的なポジティブインパクトを創出する「インパクト投資」も有効な削減施策です。
- 再生可能エネルギー投資:太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギープロジェクトへの資金提供により、温室効果ガス排出を削減し、同時にクリーンエネルギーの拡大をサポートします。
- 気候変動対策プロジェクトの支援:カーボンキャプチャー技術やエネルギー効率の向上など、温室効果ガス削減に直接寄与する技術やプロジェクトに投資します。
- グリーンボンド:グリーンボンドは、環境関連のプロジェクトに資金を提供する債券で、再生可能エネルギーやエネルギー効率改善プロジェクトへの資金調達手段として注目されています。
これにより、持続可能なインフラへの投資が加速し、間接的なGHG排出削減が期待されます。
▼気候リスク管理とポートフォリオ最適化
金融機関や投資家が、投資先の気候関連リスクを評価し、それに基づいてポートフォリオを最適化することで、長期的なGHG排出削減を図る戦略です。
- 気候リスク分析ツールの活用:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のガイドラインに沿った気候リスク評価を行い、将来の規制や物理的リスクに備えることで、排出量の高い産業に対する投資を減らし、リスクが少ない持続可能な投資機会にシフトします。
- ストレステスト:金融機関や投資家は、ポートフォリオがどの程度気候変動に対する脆弱性を持つかを評価するためのストレステストを実施し、投資先企業のGHG排出に基づいたリスクを予測します。
▼サステナブルファイナンスの拡充
金融業界全体でサステナブルファイナンスの枠組みが広がることで、温室効果ガスの削減施策が一層推進されます。
- ESG投資の強化:環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素を組み込んだ投資戦略を採用し、環境面で持続可能な事業やプロジェクトに資金を提供します。特に、環境面に焦点を当てたESGファンドが増加しており、これがGHG排出削減に貢献しています。
▼参考:ESGとは?サステナビリティ経営の基礎と最新トレンドを解説
- サステナビリティリンクローン:企業が持続可能性に関連する目標を達成した場合にローン条件が優遇される「サステナビリティリンクローン」を提供することで、企業が積極的にGHG排出削減に取り組むようにインセンティブを提供します。
▼カーボンオフセットの利用
ポートフォリオ全体のカーボンフットプリントを削減するために、カーボンクレジットやカーボンオフセットを利用することも可能です。
これは直接的な削減策とは異なりますが、短期的なGHG排出量削減の手段として利用されます。
- カーボンクレジットの購入:金融機関や投資家は、カーボンクレジットを購入して、GHG排出量の一部をオフセットすることができます。
これにより、排出量を削減するプロジェクトに資金を提供し、総排出量を削減します。
▼参考:カーボンクレジットとは?その種類と違い:どれを選べばいいのか?
まとめ
カテゴリ15のGHG算定は、投資先がScope1,2を算定しているかで難易度は変わってきますが、徐々に算定を行なっている企業が増えているので年々正確な数値が入るようになってきています。
最近では、買収の時の条件で温室効果ガスを可視化していることが要件に入っている場合などもあり、カテゴリ15は、金融業界や投資家が気候変動に与える影響を評価し、持続可能な未来に向けた行動を促進する上で重要な役割を果たしています。
▼参考:企業の環境データを計算 | Scope 3 カテゴリ1~5を解説
▼参考:Scope3 カテゴリ9~13について徹底解説!各カテゴリの概要と排出量算定方法をわかりやすく紹介
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