中小企業版SBT認証を目指す企業必見!申請基準と申請ポイント(2025年4月更新)

気候変動への対策が企業にとって避けて通れないテーマとなる中、中小企業もサステナビリティへの責任を果たすことが強く求められています。
中小企業版SBT(Science Based Targets for SMEs)は、そうした社会的要請に応えるため、SBTiが特別に設計した枠組みであり、限られた人員や予算でも科学的根拠に基づいた排出削減目標を設定できるよう、手続きの簡素化と低コスト化が図られています。
特にScope1とScope2に焦点を当て、Scope3の報告を必須としない点が特徴です。
さらに、定型化されたテンプレートにより、専門的な知識がなくても迅速に申請できる仕組みが整っています。
本記事では、対象条件、取得までの流れ、費用、メリット、そして制度変更の最新情報まで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。
脱炭素経営への第一歩として、中小企業こそ今、SBTに取り組む価値があります。
▼参考:SBT認定を目指す企業必見!申請で押さえるべき重要ポイント
▼参考:Scope3とは?最新情報と環境への影響と企業の取り組み

1. 中小企業版SBTとは
中小企業版SBTは、中小企業が気候変動への対応として科学的根拠に基づいた温室効果ガス(GHG)削減目標を設定し、持続可能な経営を実現するための重要な枠組みです。
これは、SBTi(Science Based Targets initiative)が中小企業特有の課題に対応する形で設計したもので、大企業向けの従来のSBTプロセスを簡略化し、リソースや専門知識が限られる中小企業でも実践可能な仕組みとなっています。
この取り組みは、企業規模に関係なく、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるという国際的な目標に貢献し、企業自身の競争力向上や価値創出にも寄与します。
気候変動への対応が企業にとって不可欠な課題となる中で、中小企業もその役割を求められています。
特に多くの中小企業は、大企業のサプライチェーンの一部として機能しており、大企業からの持続可能性に関する要請に応える必要があります。

▼出典:環境省 SBT(Science Based Targets)について
また、気候変動対応が規制や顧客の要求として強まる中で、SBTのような取り組みは規制遵守に加え、取引機会を拡大するための条件ともなりつつあります。
中小企業版SBTは、こうした課題に対してシンプルかつ効果的な方法を提供するものであり、中小企業が持続可能性の分野での責任を果たすとともに、経済的な利益を享受するための道筋を示します。
中小企業版SBTは、特に中小企業が直面するリソース不足や複雑な計算への負担を軽減するよう設計されています。
この枠組みの大きな特徴の一つは、Scope 1(直接排出)とScope 2(間接排出)に重点を置き、Scope 3(バリューチェーン全体の排出量)は必須要件とされていない点です。
この簡略化により、排出データの収集や目標設定が中小企業でも実現しやすくなっています。
さらに、SBTiは中小企業向けに標準化されたテンプレートやガイドラインを提供しています。
これには「2030年までにScope 1とScope 2の排出量を50%削減する」といった具体的な目標が組み込まれており、企業は自社データを反映させるだけで目標設定を完了できます。
このテンプレートにより、企業は専門知識がなくても迅速かつ低コストで目標を設定し、SBTiの認証を受けることが可能です。
また、中小企業版SBTは低コストで認証を取得できることも魅力の一つです。
大企業の場合、複雑な排出量計算や外部監査が必要で高額なコストがかかりますが、中小企業版ではそのプロセスが大幅に簡略化されています。
これにより、コスト負担を最小限に抑えつつ、持続可能性への取り組みを開始することが可能です。

▼出典:環境省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム 排出量削減目標の設定
1.1. 取得によるメリット
中小企業版SBTを導入することで、中小企業は以下のようなメリットを享受できます:
・規制対応とリスク回避
各国で気候変動に関連する規制が強化される中、SBT目標を設定することで、今後の法的リスクを回避できます。
また、温室効果ガス削減を事前に進めることで、将来的な規制対応のコストを抑えることが可能です。
・競争力の強化
サプライチェーン全体で持続可能性が求められる中、大企業との取引を拡大する条件を満たすことで、新たな市場機会を獲得できます。
・コスト削減
エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの利用拡大によって、運用コストの削減が実現します。
これは、長期的な経済的利益につながります。
・ブランド価値と信頼性の向上
持続可能性を追求する姿勢は、顧客や投資家、さらには地域社会からの信頼を向上させ、企業のブランド価値を高めます。
・持続可能性のリーダーシップ
気候変動に対応する行動を起こすことで、業界内でのリーダーシップを発揮し、他の企業に先んじた競争優位を築くことができます。
また、グリーン・バリューチェーンプラットフォームのSBTページで定期的に紹介されていますが、SBT認定を取得する日本の企業は年々増えており、その77%以上(704/904社)が中小企業です。

1.2. 通常SBTとの違い
1.2.1. 対象企業の条件
2024年1月1日からの現在の新基準では、以下の条件を満たす企業が中小企業版SBTの対象となります。
必須要件として、
- Scope1およびロケーションベースでのScope2の排出量が全体で10,000tCO2e未満
- 業界別に開発された目標設定をする必要がない
- 通常のSBT検証で検証される親会社の子会社ではない
- 金融機関および石油・ガスセクターに分類されない

その上で
- 以下の4つのうち3つ以上を満たすこと:従業員が250人未満売り上げが5,000万ユーロ未満純資産が2,500万ユーロ未満FLAGセクターに属していない

▼出典:SBTiサイト Setting a target as an SME(chromeの翻訳機能で日本語へ)
また、業界別に開発された目標設定は、下記サイトの「DOWNLOAD THE FLAG GUIDANCE」から取得できるガイダンスで確認ができます。(VERSION1.1はP27 に記載)

FLAGセクターは森林や製紙製品、農業や畜産、食品加工などの業界のことで、同様に上記サイトで確認できます。

1.2.2. 温室効果ガス(GHG)の削減目標
中小企業版SBTでは、以下の3種類の目標設定が可能です。
・短期目標:2030年までのScope1およびScope2の排出削減目標
(例:2018年度比50%削減など)
※2024年度10月の変更により以下が変わっています。
→基準年度は2015年まで選択可能に。(従来は2018年まで)
→目標達成年を基準年の5年~10年の範囲で設定できるようになりました。
→目標削減率も一律ではなく、基準年と目標達成年とで最低限の目安が公開されており、そちらの数値を参考に柔軟に設定します。

▼出典:SBTi中小企業向けターゲット検証申請チェックリスト
▼参考:SBTi中小企業向けFAQバージョン6(2024年10月更新)
・短期目標の維持:既にゼロ排出を達成した企業向けの継続的改善目標
・ネットゼロ目標:2050年までのScope1、2、3の排出削減目標
1.2.3. 取得費用
2024年1月からの新料金体系(2025年2月現在も以下の金額)
- 短期目標設定:1,250 USD
- ネットゼロ目標設定:1,250 USD
- 排出削減目標とネットゼロ目標の同時設定:2,500 USD
※最新の費用はSBTi HPから確認するようにしてください。
2.中小企業版SBTの取得方法
2.1. 中小企業版SBTの申請の流れ
2.1.1. SME目標設定フォームの記入:企業情報と目標を選択
以前は、ブラウザ上で入力画面が開かれ入力していく形でしたが、検証ポータルを活用する形に2024年11月から変更されています。
ターゲット検証サービスページにある「Validation Portal.」をクリックしアカウントを登録した後にポータルを活用して情報を入力していく形になりました。

申請内容をポータル上で完結できるようになっています。
事前に下記情報は準備をしておいた方がよいです。
・住所(英字)
・CO2排出量
・ISINコード(12桁数字)
・LEIコード(20桁英数字)
2.1.2. 企業の経営状況や財務状況の調査と承認:SBTiによる情報レビュー
情報の入力が完了すると事務局からメールが送られます。
その後事務局の調査が始まります。完了すると承認メールが届きます。
(数週間かかります)
メールは英語での連絡になっており、完了までに事務局とのやりとりが複数回発生する場合があります。
2.1.3. 料金の支払い:請求書受領後の支払い
メールで請求書が届きますので、支払い証明を返信にて送ります。
2.1.4. 支払いの確認とターゲット公表の確認:SBTiからの承認通知
事務局が支払いを確認すると、提出した目標の承認・登録したことがメールで届きます。
2.1.5. ターゲットの公表:SBTiウェブサイトでの公表
SBTiの下記ページに社名が公開されるようになります。
検索窓から自社を検索してみてください。(英語名)


2.2. 削減目標の更新・見直し
目標の登録ができた後はHPやCDPで毎年の排出量を公開する必要があります。
また以下の場合、目標値の見直しが必要となります:
- Scope3の排出がScope1,2,3の総排出量の40%以上になった場合
- 排出源や対象範囲に大幅な変更があった場合
- 企業の構造や活動に重大な変更(買収、売却、合併など)があった場合
- 基準年のデータや目標設定に使用されるデータに大幅な調整があった場合
- 科学的根拠に基づく目標設定の予測や前提に重大な変更があった場合
▼参考:GHG排出のScope3はどのように削減するのか?サプライヤーエンゲージメントの具体的な手順を解説
▼参考:中小企業向けCDP「CDP SME」とは?活用方法とメリットを徹底解説!
3.SBT申請の外部サポートを受ける選択肢
SBTの申請を検討している中小企業にとって、最も大きなハードルのひとつが、申請手続きの専門性と煩雑さです。
特に初めて取り組む企業では、「何から始めていいか分からない」「英語でのやりとりに不安がある」と感じることも多いでしょう。
実際に、英文の申請フォームの記入や、SBTiとのメール対応がすべて英語で行われる点でつまずくケースは非常に多く、その不安から申請をためらってしまう企業も少なくありません。
こうした課題を解決する手段として注目されているのが、SBT申請を支援する外部サポートの活用です。
近年では、20万円以内の費用で基本的な申請支援を受けられるサービスも登場しており、限られた予算でも十分に専門的なサポートを受けることが可能です。
サポート事業者は、Scope1・2の排出量データの整理、削減目標の設定、申請フォームの記入、英語での問い合わせ対応などを丁寧にフォローしてくれます。
初めての企業でも安心して進められる体制が整ってきています。
サポートを受ける際に大切なのは、「すべてを任せきりにしない」という姿勢です。
SBTは、単なる認証ではなく、自社の脱炭素戦略そのものです。
支援を受けつつも、経営戦略や自社の現状と目標が合っているかをしっかり確認しながら進めることが重要です。
また、SBTの申請ルールや目標の要件は年々見直されているため、最新の基準に精通している信頼できる支援事業者を選ぶことも成功のカギとなります。
「難しそう」「英語が不安」と感じるのは当然ですが、だからこそ、プロの力を借りて最初の一歩を確実に踏み出すことが大切です。
無理なく、しかし確実にSBT認定を取得するために、外部サポートの活用は非常に有効な選択肢です。
4.まとめ
SBTの申請制度はここ数年で大きく進化しており、特に中小企業版SBTの要件や運用方法は、最新の気候科学や国際的なルールに即して継続的にアップデートされています。
これは単なる手続きの煩雑化ではなく、温室効果ガスの削減をより確実に進めていくための世界的な合意形成の一環です。
実際に、かつては簡略だったScopeの算定範囲や目標設定の基準も、今では精緻なデータ管理と整合性が求められるようになっています。
こうした流れは、企業にとって新たな負担となる一方で、気候変動への取り組みが「任意の選択」から「経営に不可欠な要素」へと変わりつつある現実を映し出しています。
中小企業にとっても、先手を打って脱炭素経営の土台を築くことは、今後の取引機会や信用獲得において大きな優位性となるはずです。
最新の情報に目を向け、無理のない範囲で一歩踏み出す。
その小さな決断が、企業の持続的成長と社会的信頼の確立につながります。
中小企業版SBTは、そのための第一歩として、今まさに取り組む価値のある制度です。
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