GX研修費を助成金で抑える方法|事業展開等リスキリング支援コースの活用術(2025年4月更新版)

カーボンニュートラルや脱炭素経営が求められる中、多くの企業がGX(グリーントランスフォーメーション)に対応する人材育成の必要性に直面しています。

しかし、研修費や教育投資に不安を感じる企業も少なくありません。
そこで注目されているのが、厚生労働省の「事業展開等リスキリング支援コース」です。
本制度を活用すれば、GX研修にかかる経費や賃金の一部が助成され、人材育成とコスト最適化を同時に実現できます。

本記事では、制度の概要や対象企業、助成金の申請方法から、実際のGX研修プログラム、活用事例までを詳しく解説します。
GX推進に向けて、実効性のある支援制度を正しく理解し、戦略的に活用していきましょう。

コースの目的と意義

「事業展開等リスキリング支援コース」は、企業の競争力強化と従業員のキャリア再構築を両立させるために設けられた助成制度です。
特に、カーボンニュートラルやデジタル化など、社会構造が大きく変化する中で、新たな分野への事業転換や業務転換を進める企業に対し、その中核となる人材の育成を支援します。

GX(グリーントランスフォーメーション)対応など、環境・エネルギー分野での変革に取り組む企業にとっては、単なる研修支援にとどまらず、経営戦略と人材戦略をつなぐ実効性の高い施策といえます。

業種や企業規模を問わず、先進的な取り組みを実現するには、人材への投資が不可欠です。このコースは、そうした企業の変革意欲を後押しする制度的基盤として、国が力を入れている重点施策のひとつです。

▼出典:厚生労働省「学びの好循環」に向けて 学び・学び直しでキャリアアップ

対象となる企業の条件

この助成制度を活用するには、企業が一定の要件を満たしている必要があります。
まず基本条件として、雇用保険適用事業所であることが前提となります。
その上で、助成対象となる研修は、事業の拡大や業態転換、新たなサービス・製品の導入など「事業展開」に関わる目的を有していることが求められます。

特にGX研修の場合は、CO₂排出量削減や再エネ導入、サプライチェーンの見直しに関連する人材育成が該当します。
さらに、訓練計画の事前届出や、研修実施後の報告など、制度上の手続きを適切に行う体制が企業内にあることも重要です。

中小企業は助成率が高く設定されているため、コスト面でも有利です。
制度の設計を十分に理解し、自社の成長戦略と研修内容が助成対象として適合しているかを慎重に確認することが、成功の鍵となります。

▼出典:事業展開等リスキリング支援コース リーフレット

目次

GX研修の特徴について

GX研修の内容とプログラム

GX(グリーントランスフォーメーション)研修は、企業が脱炭素経営やサステナビリティを推進するうえで不可欠な「実務力のある人材」を育成するために設計された教育プログラムです。

主な内容は、温室効果ガス(GHG)排出量の可視化、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基礎、再生可能エネルギーの導入戦略、カーボンプライシング制度の理解、ならびに国際的な環境認証制度の概要など、多岐にわたります。

▼出典:GXスキル標準(GXSS)

プログラムは通常、段階的に設計されており、初級ではGXの全体像と国の政策動向を把握し、中級では自社の排出構造やリスク分析に取り組みます。
上級レベルでは、実際の改善提案や経営戦略への反映まで踏み込み、部門横断的な議論を促進するケースもあります。

こうした研修は、単なる知識習得にとどまらず、「脱炭素を自分ごと化」し、現場で主体的に動ける人材の育成を重視して設計されている点が最大の特徴です。

▼出典:GXスキル標準(GXSS)

事例の紹介

実際にGX研修を導入し、成果を上げている企業は着実に増えています。
たとえば、ある製造業では「事業展開等リスキリング支援コース」を活用し、エネルギー消費量の高い製造ラインの電化と、それに伴う再生可能エネルギー活用に関する研修を実施。
研修受講者が中心となって工程見直しを行い、年間で15%以上のCO₂排出削減を達成しました。

また、建設業界の中堅企業では、社員向けにLCAの基礎から始まるプログラムを導入。
研修を通じて社内の資材調達方針を見直し、環境ラベル取得に成功するとともに、サプライヤーとの取引優位性を獲得しました。
これにより、公共事業での入札競争力も向上し、売上増にもつながったという報告があります。

これらの事例に共通しているのは、経営層の理解と、研修後の実務への落とし込みの徹底です。
単なる座学ではなく、実務への実装を意識したGX研修は、持続可能な事業展開の鍵を握る戦略的な投資といえるでしょう。

▼出典:人材開発支援助成金 (事業展開等リスキリング支援コース) のご案内(詳細版)

助成金制度の内容について

助成金の支給率について

事業展開等リスキリング支援コースでは、企業が新たな分野に挑戦するために必要な人材の再教育を支援する目的から、非常に手厚い助成が設けられています。
特にGX(グリーントランスフォーメーション)をはじめとする事業転換を伴う研修に対しては、国が強い後押しをしている分野であるため、支給率は比較的高く設定されています。

具体的には、訓練にかかる費用のうち、中小企業であれば最大75%、大企業であっても最大60%が助成対象となります。
これは、講師への報酬や会場費、教材費といった研修経費が該当します。

また、訓練期間中に従業員に支払う賃金についても助成があり、中小企業の場合は1時間あたり1,000円、大企業では500円が上限として設定されています。
これにより、研修実施に伴う業務停止や人件費負担を大幅に軽減することが可能となります。

助成対象となる金額や割合は年度や制度改正によって変更される可能性があるため、常に最新の厚生労働省の通知や実施要領を確認することが重要です。
また、対象となる研修内容や実施方法に条件が付されている場合もあるため、自社の研修計画が助成対象に適合しているかどうかを事前に整理しておくことが成功の鍵となります。

▼出典:人材開発支援助成金 (事業展開等リスキリング支援コース) のご案内(詳細版)

助成金申請の流れと必要書類について

事業展開等リスキリング支援コースの助成金を活用するには、単に研修を実施するだけでは不十分であり、制度に則った厳密な申請手続きが必要です。
以下に、制度活用のための実務的な流れと必要書類を、5つのステップに分けて詳しく解説します。

① 研修計画の策定と内容整理

まず、GX研修の実施を検討する段階で、自社の事業展開においてどのような人材育成が必要かを明確にし、それに基づいた研修計画を作成します。
この計画は単なる教育スケジュールではなく、「事業の拡大、新技術の導入、新分野進出」などの経営方針と密接に結びついている必要があります。
たとえば、再生可能エネルギー設備の導入に関する技術研修や、カーボンフットプリントの算定手法を習得するための座学などが該当します。

② 労働局への事前届出(最低1か月前)

研修開始の6か月前から1か月前までに、所轄の都道府県労働局に対し、「訓練実施計画届」や「事業内職業能力開発計画書」など、制度で定められた申請書類を提出します。
申請書類には研修の目的、内容、対象従業員、スケジュール、講師の情報、実施体制などを具体的に記載し、研修が「事業展開に資する」内容であることを明確に示す必要があります

(以前は、この段階で承認が通過するかなど審査があり、労働局に相談に載ってもらうことが可能でしたが、令和7年4月からの改正によりこの段階では書類を提出するのみとなります。)

③ 研修の実施と進行管理

提出後スケジュール通りに研修を行います。
研修中は、受講者の出勤状況や研修参加時間、実施内容、講師の記録などを正確に記録しておくことが求められます
これらは後の申請書類で「実施証拠」として提出する必要があるため、Excelや勤怠管理システムなどでデータを整理しておくことが重要です。

④ 研修後の実績報告と本申請

研修終了後の翌日から2か月以内に「実績報告書」をはじめとする支給申請に必要な書類を提出します。

ここで提出する主な資料には以下が含まれます:

  • 実施された研修の報告書
  • 受講者の出勤簿と給与明細または賃金台帳
  • 講師の報酬支払証憑
  • 雇用契約書の写し
  • 研修受講証明書やアンケート結果

特に賃金助成を受ける場合は、労働時間や賃金の支払い実績と、研修参加記録の整合性が重要視されます。
証拠書類に矛盾があると審査が長引く、あるいは不支給となることもあるため注意が必要です。

⑤ 支給決定・振込・内部記録の保管

書類審査を経て、要件が満たされていれば助成金の支給決定が行われ、指定口座へ振込されます。
振込までには数か月を要することもあるため、資金計画上は余裕を持っておくことが望ましいです。
また、申請に用いた書類や帳票類は原則として5年間の保管義務があるため、社内の規定に沿って適切にファイリング・保存しておく必要があります。

このように、事業展開等リスキリング支援コースの助成金活用には、明確なステップと細かな準備が求められます。
しかしながら、制度の理解と適切な管理体制があれば、費用対効果の高いGX人材育成が可能となります。
単なるコスト削減手段としてではなく、「持続可能な経営への先行投資」として捉えることで、この制度の本来の価値を最大限に引き出すことができるでしょう。

▼出典:事業展開等リスキリング支援コース リーフレット

まとめ

カーボンニュートラルやGXの推進が企業経営の重要課題となる中、実務に対応できる人材の育成は喫緊のテーマです。
「事業展開等リスキリング支援コース」は、GX研修にかかる費用や賃金の一部を公的に支援する制度であり、特に中小企業にとっては高い助成率と実務的なメリットがあります。

本記事では、制度の目的、対象要件、研修内容の実例、助成金の支給率、そして申請の具体的な流れまでを詳しく解説しました。

適切な準備と制度理解があれば、戦略的な人材育成と経営のGX対応を同時に進めることが可能です。
単なるコスト軽減ではなく、持続可能な事業基盤の構築につながる国の重点施策として、今こそ積極的な活用が求められています。

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