カーボンニュートラリティに関する新規格ISO14068-1とは

カーボンニュートラリティの重要性が高まる中、国際規格ISO 14068-1が2023年11月30日に発行されました。

この規格は、企業や組織がカーボンニュートラルを達成するための明確な枠組みを提供し、GHG排出量の算定、削減、カーボンオフセットの適切な活用方法を定めています。
これまでのカーボンニュートラルの主張には、不透明な情報や根拠のない低炭素表現が指摘されており、それらを防ぐために厳格な基準が求められていました。

本記事では、ISO 14068-1の背景や取得プロセス、カーボンニュートラリティとネットゼロの違い、さらには企業にとってのメリットについて詳しく解説します。

環境対応を強化し、国際的な競争力を高めるために、ISO 14068-1の活用は今後ますます不可欠となるでしょう。

目次

1.ISO 14068-1とは?

カーボンニュートラリティを“明確にする”新たな国際規格

世界が2050年カーボンニュートラルに向けて動く中、「カーボンニュートラル」という言葉が広く使われる一方で、その定義や達成基準があいまいなまま拡散してきました。
その結果、企業や自治体がどのように「カーボンニュートラルを実現した」と主張してよいのかについて、国際的な整合性が欠けているという課題が浮き彫りになっていました。

こうした背景を受け、2023年に国際標準化機構(ISO)は「ISO 14068-1:2023」を発行。
これは、組織や製品が“真に”カーボンニュートラルを達成しているかを明確に定義・検証するための世界初の包括的な国際規格です。

規格の背景と策定の経緯

ISO 14068-1の前身となったのが、イギリス規格協会(BSI)が2010年に発行したPAS 2060(Publicly Available Specification)です。
PAS 2060は、「カーボンニュートラルをどのように宣言し、どのように検証すべきか」という指針を世界に先駆けて示しました。

しかし、PASはあくまで“公的仕様書(ガイドライン)”であり、国際的な規範性を持つ「ISO規格」ではなかったため、運用の一貫性や認証スキームの信頼性に課題が残っていました。

そのためISOでは、PAS 2060の考え方をベースにしながらも、曖昧な主張やグリーンウォッシュを防ぐためのより厳格で透明性の高い国際基準を整備することを決定。
この取り組みの成果として誕生したのが「ISO 14068-1:2023 – Greenhouse gas management and related activities — Part 1: Carbon neutrality」です。

ISO14068-1の基本情報:カーボンニュートラルを「証明」する実践フレームワーク

ISO 14068-1(温室効果ガス管理および関連活動-第1部:カーボンニュートラリティ)は、組織や製品がカーボンニュートラルを達成・宣言するための国際標準です。
単なる理念ではなく、科学的根拠と検証可能なプロセスに基づいて「本物のカーボンニュートラル」を実現するための基準が定められています。

1. GHG排出量の正確な算定がすべての出発点

ISO 14068-1における最初の要件は、温室効果ガス(GHG)排出量の正確な算定です。
組織は、自社の事業活動や製品・サービスのライフサイクル全体において発生するGHG排出量を定量的に把握しなければなりません。

この算定は、ISO 14064シリーズやGHGプロトコルなどの国際的に認められた手法に基づいて行われ、スコープ1(直接排出)・スコープ2(エネルギー起因排出)・スコープ3(間接排出)のいずれを対象とするかを明確にします。

正確な算定によって初めて、削減目標や対策が現実的かつ検証可能なものとなります。
つまり、カーボンニュートラルの信頼性は、“測定の精度”がすべての基盤となるのです。


2. 排出削減計画と継続的改善の体制づくり

算定したデータをもとに、企業や組織は中長期的な排出削減計画(GHG Mitigation Plan)を策定します。
この計画には、削減目標の設定だけでなく、実施スケジュールや体制整備、モニタリング方法までが含まれます。

ISO 14068-1では、次のような削減施策が推奨されています:

  • エネルギー効率の向上(高効率機器・省エネ運転)
  • 再生可能エネルギーの導入(太陽光・風力・バイオマス等)
  • 製品・工程設計の最適化(低炭素素材の利用、輸送効率化)

これらの取り組みを「一度きりの対策」とせず、継続的な改善(PDCAサイクル)を回す仕組みを求めている点も特徴です。
ISO 14068-1は、単なるカーボンニュートラル宣言ではなく、「実際に削減し続ける経営モデル」を促す規格といえます。


3. 残余排出への対応:高品質なカーボンオフセットの活用

どれほど努力しても、すべての排出をゼロにすることは現実的ではありません。
そこでISO 14068-1は、削減努力を尽くしたうえで残った排出量をオフセットすることを認めています。

ただし、ここで重視されるのは「クレジットの品質」です。
規格では、科学的に信頼できる第三者認証を受けた高品質クレジットの使用を推奨しています。

たとえば:

  • 森林再生・植林プロジェクト(カーボン吸収源の創出)
  • 再生可能エネルギープロジェクト(発電由来の排出削減)
  • メタン回収・廃棄物処理改善などのクリーン開発活動

これにより、オフセットが実質的に「相殺」として機能し、カーボンニュートラルの主張が実体を伴うものになります。


4. 透明性と第三者検証による信頼性の確保

ISO 14068-1が他の制度と大きく異なるのは、「透明性」と「第三者検証」を義務づけている点です。
組織は、GHG排出量、削減計画、オフセット実施状況などを明確に報告し、その内容が独立した第三者機関によって検証される必要があります。

このプロセスによって、

  • カーボンニュートラルの根拠が客観的に確認される
  • 誤解を招く環境主張(グリーンウォッシュ)が防止される
  • 企業の環境報告が投資家・消費者から信頼される
    といった効果が得られます。

結果として、ISO 14068-1に準拠したカーボンニュートラル宣言は、国際的に認められる「保証付きの環境主張」となるのです。

2. カーボンニュートラリティの定義

カーボンニュートラリティの概念

日本ではよくカーボンニュートラルといわれますが同じ意味で、温室効果ガス(GHG)の排出量と除去量を相殺することで、最終的に大気中のGHGの純増をゼロにすることを目指す概念です。

具体的には、企業や組織が自らの活動で排出するGHGを削減する努力を行い、その残余の排出量を別の方法で相殺することで、実質的に「ゼロエミッション」を達成しようとするものです。

カーボンニュートラリティとネットゼロの違い

カーボンニュートラリティは、主に二酸化炭素(CO₂)に焦点を当てた取り組みで、具体的には、自社の活動によるCO₂排出量と除去量を相殺することで、大気中に新たなCO₂の増加を防ぐことを意味します。

カーボンニュートラリティを達成するためには、まずできる限りCO₂排出を削減し、残った排出分についてはカーボンオフセットを用いて相殺することが求められます。
カーボンオフセットには、植林や再生可能エネルギープロジェクトへの投資が含まれ、こうした活動によって吸収されたCO₂の量で排出分を打ち消すことができます。

Scope1と2の自社排出範囲で排出と除去が相殺できていればよいとされており、クレジット利用100%でも問題ありません。
一方、ネットゼロは、排出されるすべての温室効果ガス、つまり二酸化炭素だけでなくメタンや亜酸化窒素なども含め、最終的に排出量と吸収量をゼロにすることを意味します。

ネットゼロの目標は、排出されるすべてのGHGの総量を削減し、その結果、全体の排出量と除去量がバランスする状態にすることです。
ここで重要なのは、ネットゼロではカーボンニュートラリティと異なり、排出削減がより強調されている点です。

Scope1~3までの範囲でクレジットを使わず削減することを求めており、オフセットの利用も認められていますが、その利用は残留排出量の一部(例えば最大10%程度)に限られており、主な焦点は直接的な削減努力にあります。

つまり、ネットゼロの方がより広範で厳格な目標を設定していると言え、この違いから、企業や組織が「ネットゼロ」を掲げる場合は、全体的な排出削減計画がより重要視されます。
カーボンニュートラリティよりも持続可能なビジネスモデルを構築するための積極的な取り組みが求められるのが特徴です。

3. ISO14068-1を取得するためのステップ

下記図はカーボンニュートラルを達成するためのフレームワークになります。
カーボンニュートラルを実現し、その証明を行うためには、このフレームワークに基づいたステップ通りに進めていく必要があります。

▼ISO14068-1:2023 カーボンニュートラリティのフレームワーク

▼出典:ISO国際規格ISO14068-1:2023より抜粋

1. 現状のGHG排出量の把握と算定

最初のステップは、組織の温室効果ガス(GHG)排出量を正確に把握することです。
これには、組織の活動全体(Scope 1と2)のGHG排出源を特定し、詳細に測定する作業が含まれます。

もしカーボンニュートラリティの対象範囲をサプライチェーン全体(Scope 3)に拡大する場合は、その排出量も評価する必要があります。
この段階では、ISO 14064-1やISO 14067などの既存のGHG算定基準に従って計算を行い、透明で一貫した排出量のデータを取得します。

2. 排出削減目標の設定

次に、GHG排出量を削減するための明確な目標を設定します。
これは中長期的な視点で、具体的な削減量や期限を含んだ目標である必要があります。

例えば、5年後に20%の削減を目指すといった具合に、具体的な数値目標を設定します。
この目標設定は、組織の経営戦略や環境ポリシーと一致させることが重要です。

3. カーボンニュートラリティ実現に向けた行動計画の策定

排出削減目標を達成するための具体的な行動計画を策定します。
ここでは、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの導入、製造プロセスの改善、低炭素技術の導入など、GHG排出を減らすための具体的な施策を盛り込みます。

また、削減策の進捗状況を定期的に監視・評価するための指標やスケジュールも設定しておくと、実施がスムーズに進みます。

4. カーボンオフセットの検討と選定

排出削減を行った後でも、どうしても避けられない残余の排出量については、カーボンオフセットを利用して相殺します。

ISO 14068-1は、信頼できるカーボンクレジット(例えば、植林プロジェクトや再生可能エネルギープロジェクトへの投資など)を用いることを求めており、プロジェクトの質や認証状況を確認して選定する必要があります。
また、オフセットに使用するクレジットが基準に適合していることを確認し、それらのプロジェクトが真に環境に貢献しているかを評価することも重要です。

5. 管理体制の構築と役割分担

カーボンニュートラリティの達成に向けた取り組みが円滑に進むよう、組織内の管理体制を整備します。
具体的には、排出量データの収集・管理や削減施策の実施、オフセット活動の監視を担当する責任者を明確にし、各部署の役割分担を決めます。

特に、環境データと財務データが別々の部署で管理されている場合は、それらを統合的に管理する体制が求められます。

6. 第三者機関による検証

ISO 14068-1の規格を取得するためには、第三者機関からの検証を受ける必要があります。
これは、組織がGHG排出量の算定から削減計画、そしてカーボンオフセットに至るまで、全てのプロセスが正確で透明性のあるものであることを保証するためです。

検証機関は、提出されたデータや報告書をもとに、規格の基準に沿った取り組みが行われているかを確認します。
検証費用は、GHG排出量の算定を行う範囲(Scope1~2までなのか、Scope3までなのかなど)や企業のデータの準備状況などで変わりますが、数百万円かかるケースが多いです。

7. カーボンニュートラルの宣言と継続的な改善

検証が完了し、基準に適合していることが確認されると、ISO 14068-1の認証が取得できます。これにより、組織はカーボンニュートラルであることを公式に宣言することができ、信頼性の高い証明として活用できます。

しかし、ここで終わりではなく、継続的な改善が求められます。定期的に目標を見直し、新たな削減策や技術を導入することで、より持続可能なビジネスモデルを追求し続けることが重要です。

上記のステップを着実に進めることで、ISO 14068-1の認証を取得し、カーボンニュートラリティを実現するための信頼性のあるフレームワークを構築することができます。

4. カーボンニュートラル・マネジメント・ヒエラルキー

ISO 14068-1では、カーボンニュートラリティの実現に向けたアプローチとしてカーボンニュートラル・マネジメント・ヒエラルキーの段階的なアプローチを重要視しています。

このヒエラルキーは、排出削減とオフセットを組み合わせたプロセスを効果的に管理するための指針であり、排出量を削減することに優先順位を置いて、最終的にカーボンニュートラリティを達成することを目指します。

アプローチは、以下の段階に分かれています。

1.温室効果ガスの排出を防ぐ

最も優先すべきは、排出そのものを発生させないことです。
これは、組織の運営やプロセスにおいて、不要なエネルギーの使用や効率の悪いシステムを回避することを指します。事業や製品の設計段階で、排出源を最小限に抑える工夫を行います。

2.温室効果ガスの排出を減らす

次に重要なのは、排出を最小化することです。エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの活用、技術の改善を通じて、排出量をできる限り削減します。
削減のための継続的な改善プロセスを導入することが求められます。

3.代替エネルギーに切り替える

化石燃料などの高排出エネルギー源を再生可能エネルギーや低排出のエネルギーに置き換えることが推奨されます。
太陽光発電、風力発電、バイオマスなどのクリーンなエネルギーを導入することで、排出量をさらに削減します。

4.残余排出を相殺する

排出削減を尽くした後でも、必然的に残る排出量については、カーボンオフセットによって相殺します。
信頼できるカーボンクレジットや植林プロジェクトへの投資を行い、排出された温室効果ガスを大気中から除去または中和します。

5.残余排出の継続的な削減

オフセットだけに頼らず、引き続き残余排出量の削減を目指します。これには、さらなる技術革新やプロセスの改善、長期的な計画が含まれます。

上記のプロセスを温室効果ガスの算定、温室効果ガスの削減計画に組み込んでいくことが重要です。

5. ISO14068-1を取得するメリット

第三者からの正確性を検証されることから下記メリットが考えられます。

・カーボンニュートラリティの信頼性向上

ISO 14068-1の取得により、組織がカーボンニュートラリティの目標達成に向けた取り組みを進めていることを、国際的に認められた基準に基づいて証明できます。
これは、企業の気候変動対策に対する信頼性を大きく向上させ、ステークホルダーや投資家からの信頼を得やすくなります。

・国際的な競争力の向上

ISO 14068-1は国際規格であり、世界中の企業や機関に共通の基準を提供します。この規格に準拠することで、国際的な市場や取引先において、環境意識の高い企業としての地位を確立でき、他の企業との差別化につながります。
また、グローバルサプライチェーンの一環として、国際的なビジネスチャンスを拡大することができます。

・ リスク管理とコンプライアンスの強化

カーボンニュートラリティに関する規制が世界中で強化される中、ISO 14068-1を取得することで、環境規制への適合性を高めることができます。
これにより、規制違反によるリスクを軽減し、将来的な法的な変化にも柔軟に対応できるようになります。

・持続可能な成長の推進

ISO 14068-1は、組織の排出削減戦略を効率的かつ効果的に進めるためのフレームワークを提供します。
これにより、エネルギー効率の向上や廃棄物削減など、コスト削減につながる取り組みが促進され、持続可能なビジネスモデルを確立することが可能です。
また、持続可能性を重視したブランドイメージの強化にも寄与します。

・ 透明性と報告の向上

ISO 14068-1は、温室効果ガス排出量の測定、管理、削減、オフセットに関する透明性の高い報告体制を求めています。
これにより、環境に対する取り組みの透明性が向上し、ステークホルダーや投資家に対して正確で信頼性のある情報を提供することができるため、社会的信用を強化することができます。

・ステークホルダーとの関係強化

企業がISO 14068-1を取得することで、環境意識が高まる中、顧客、取引先、投資家などのステークホルダーとの信頼関係が強化されます。
特に、環境や持続可能性を重視する顧客層に対して、企業のカーボンニュートラリティへの取り組みが積極的にアピールでき、ビジネスチャンスを広げる可能性があります。

・イノベーションの促進

ISO 14068-1の枠組みを取り入れることで、組織内での排出削減や効率化に向けた新しい技術やプロセスの導入が促進されます。
これにより、企業は競争優位性を確保するための技術革新を推進し、業界内でのリーダーシップを強化することができます。

ISOというグローバル基準によるカーボンニュートラリティの証明となるため、製品でも組織でも炭素排出を0にしていることがしっかりと伝えられます。
海外では特にグリーンウォッシュへの規制も強くなっていることを考えると、海外企業と取引のある場合は特にメリットを感じやすいのではないでしょうか。

6.他のISO規格との関係性

ISO14068-1の規格の中では下記の図でそれぞれのISO規格との関係性が表されています。ISO14064-1は組織のGHG排出量、ISO14067は製品のCFPの規格となっています。


それらを算定後、ISO14064-3の要件で妥当性の検証を行うかたちとなります。


ISO14064-2は、プロジェクトの排出量の算定規格となりますので、その要件に沿って算出されたクレジットを使う必要があります。

7.まとめ

ISO 14068-1の取得は、カーボンニュートラリティの達成に向けた明確なガイドラインを提供し、企業や組織にとって多くのメリットをもたらします。

国際的な競争力や信頼性の向上、リスク管理の強化、持続可能な成長の推進、そしてステークホルダーとの関係強化など、多面的な効果が期待できるため、気候変動への取り組みを強化したい企業にとって非常に価値のある規格と言えます。

ISO 14068-1の規格は173スイスフラン(3万円前後)で販売しています。気になる方は、是非チェックしてみてください。

▼参考:ISO 14068-1:2023規格

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