注意すべきグリーンウォッシュの企業事例と解説

「グリーンウォッシュ」とは、企業が環境配慮をしているように見せかけ、実態の伴わない誇大な環境主張を行う行為を指し、消費者や投資家が誤解し、本来支援すべき持続可能な企業活動が埋もれてしまうなどの問題を引き起こします。
実際、ブランド毀損や投資家離れ、不買運動などの企業リスクに直結するケースも増えています。EUではグリーンウォッシング禁止法を採択し、根拠なき「環境に優しい」といった表示を禁止。
日本でも消費者庁による摘発事例があり、今後は国際的な規制順守が必須となるでしょう。
企業は透明性の高い情報開示と第三者認証の活用で信頼性を確保する必要があります。グリーンウォッシュを回避することは、単なる広告表現の問題にとどまらず、ESG経営そのものの信頼を守る重要な取り組みです。

1. グリーンウォッシュとは
1-1. グリーンウォッシュの定義
企業自体の姿勢や製品・サービスが環境に配慮されているものであることを連想させたり、部分的なところを切り取り誇大広告をすることを総じてグリーンウォッシュ(Green Washing)と呼びます。
実態が伴ってないにも関わらず、環境面をPRすることで消費者に勘違いをさせてしまう活動はよくないよねということです。
このグリーンウォッシュという言葉は、最近よく聞くようになりましたが、実は1980年代後半から使われていた造語なんです。
白人偏重の人権問題をホワイトウォッシュ( White Washing)といいますが、そこから環境のGreenを組み合わせて作られました。
現在は、グリーンウォッシュ以外にもSDGsウォッシュやESGウォッシュ、サスティナビリティウォッシュなどとも言われます。
1-2. なぜ問題なのか
グリーンウォッシュが問題視されている理由を改めて整理するとこのようになります。
a.消費者が本当に環境配慮した製品を選択できない
真剣に環境問題に取り組んでいる企業側の活動を阻害することにもなります。
環境に配慮した取り組みはコストもかかるため、消費者が環境対応を行った企業をきちんと選択できるようになることは重要です。
b.投資家の意図とは異なる投資がされてしまう
グリーンボンドやESG投資といわれる環境課題の解決や持続可能な社会にするための事業に投資をする機会も増えました。
しかし、調達側の企業が間違った情報を開示している場合は、出資者側の目的とは違う事業へ資金が集まることになってしまいます。
結果、気候変動の対策を鈍化させることにもつながるため、ESGなどの情報開示が進む中でその情報の精度や質に関心が集まってきています。
その企業が本当に正しい環境活動をしているか見極める必要が出てきているということから、グリーンウォッシュという言葉が改めて使われています。
2. グリーンウォッシュのリスク
2-1.企業リスク
実際に指摘された際の企業リスクはどのようなものがあるでしょうか。
・企業ブランドの棄損
・消費者からの不買運動
・投資家からの評価ダウンと株価下落
・取引先との契約停止
・従業員の退職 など
2-2.グリーンウォッシュの7つの罪
カナダにある企業Terrachoice社は、2010年に「グリーンウォッシュ7つの罪」という調査レポートを発表しています。内容について詳細を表にしました。
7つの罪 | 説明 | 例 | |
1 | 隠れたトレードオフの罪 | 一部の属性に基づいて製品が環境に優しいと主張し、他の重要な環境問題を無視すること。 | 持続可能な森林からの紙が、必ずしも環境に優しいとは限らない。製造過程での温室効果ガス排出や漂白における塩素の使用などが問題。 |
2 | 根拠がない罪 | 簡単に確認できる証拠や信頼できる第三者の認証がない環境主張。 | 再生紙を含むと主張するティッシュやトイレットペーパーが証拠を提供していないなど。 |
3 | 曖昧さの罪 | 定義が不十分または広すぎて、消費者が誤解する可能性のある主張。 | 「全て自然」という主張。自然発生の有毒物質(ヒ素、ウラン、水銀、ホルムアルデヒドなど)も含まれる。 |
4 | 偽りのラベル崇拝の罪 | 実際には存在しない第三者の承認を言葉や画像で示す製品。 | 偽のラベルを使用している製品。 |
5 | 無関係の罪 | 真実ではあるが、消費者が環境に優れた製品を選ぶ際に重要ではなかったり、関係無いポイントを主張。 | モントリオール議定書によりCFC(フロン類)が禁止されているにもかかわらず、「CFC不使用」を強調する例。 |
6 | 比較による錯覚の罪 | 環境への悪影響が大きい製品と比較することで、環境影響度を小さく見せる主張。 | 有機タバコや低燃費のスポーツカーなど。 |
7 | 嘘をつく罪 | 単に虚偽の環境主張。 | 認証または登録を偽って主張している製品。 |
3.グリーンウォッシュへの規制
環境への法規制は、いくつかの国で進められており、例えばフランスでは2023年1月に金融商品や消費財製品にグリーンウォッシュを排除するための広告規制を行いました。
イギリスでは、Green Claims Codeが2021年に制定されており、環境効果を表現するガイドラインが示されました。
韓国では、23年1月に環境に配慮した取り組みに対して虚偽や誇張した表現を行う企業に対して罰金を科す法案が可決されました。
中でも欧州のグリーンウォッシュに対する法案を下記で詳しく解説します。
3-1.欧州のグリーンウォッシング禁止法
EU理事会では、2024年2月にグリーンウォッシュによるマーケティングを禁止する指令案を正式に採択しました。
禁止された内容を引用します。
・実証できない一般的な環境訴求。具体的には、「環境に優しい」「エコロジカル」「グリーン」「自然に優しい」「エネルギー効率の良い」「生分解性」「バイオベース」などの表示を用いたマーケティングを禁止する。
・製品や企業活動の一部にのみ該当する環境訴求をもって、製品や企業活動全体に関する環境訴求を行うこと。
・カーボン・オフセット(注)のみに基づき、環境への悪影響が軽減されたなどと訴求すること。
・承認済みの認証スキームあるいは公的機関以外が提供する持続可能性に関するラベルを表示すること。
▼参照:EU、グリーンウォッシング禁止法を採択、根拠ない「環境に優しい」など表示禁止
▼参考:カーボンクレジットとは?その種類と違い:どれを選べばいいのか?
訴求方法以外にも循環性についてのマーケティング方法の禁止事項などもあります。
日本で曖昧な表現で広告していても罰則はありませんが、そのまま欧州で同様の広告をしてしまうと法令違反となる可能性がありますので注意が必要です。
4. グリーンウォッシュの具体的な事例
実際にあった企業のグリーンウォッシュ事例をみていきましょう。
4-1. 事例1:日本消費者庁がプラスチック製品取り扱い10社を摘発
2022年12月消費者庁は、根拠がない環境表示であることを理由に再発防止命令を実施しました。
事業者は、ごみ袋の販売事業者、プラスチックカトラリー販売事業者、釣り用具販売事業者、エアガン用BB弾販売事業者の計10社です。
広告表示の内容は、「使い捨てられても約3カ月で、土や海など自然環境中で微生物によって分解され自然に還る」のような生分解性のプラスチックのように表現がされていたため、その根拠を示した資料の提出を消費者庁が求めていました。
結果、根拠を示すようなものがなかったため景品表示法に違反するとして措置命令が実施されました。
実際に会社名も開示されています。
・ごみ袋の販売事業者
・カトラリー販売事業者
・釣り用品
・エアガン用B弾販売事業者
▼参照:消費者庁 ニュースリリース令和4年12月
日本経済新聞 偽の「エコ」に世界の目厳しく 消費者庁も初の摘発
2-2. 事例2:ニューヨーク州が牛肉生産会社のJBS USAを訴訟
2024年2月ニューヨーク州は、ブラジルの大手牛肉・鶏肉生産会社JBS USAに対して、グリーンウォッシュとして訴訟しました。
訴訟では、JBSが2040年までにGHG排出量をネットゼロにするという主張を含む環境への影響について誤解を招く発言をしているとされています。
JBSはCO2排出量の総計を算出する前から広告を始めており、ネットゼロに成功するかどうかわからないとしている中で、実現不可能に近い内容を広告していた。
州は、JBSに対して虚偽のマーケティング慣行の中止、罰金の支払い、そして不正に得た利益の返済を求めています。
▼参照:ESG Journal ニューヨーク州、世界最大の牛肉生産者JBSに対するグリーンウォッシュ訴訟を開始
2-3. 事例3:韓国環境団体がエネルギー大手のSK E&S社を提訴
2022年3月韓国では、環境団体がSK E&S社に対して、「CO2排出ゼロ」を謳った液化天然ガス(LNG)事業がグリーンウォッシュであるとして提訴しました。
環境団体「ソリューション・フォー・アワー・クライメート」が同社を訴え、環境省は虚偽の広報を改めるよう警告しました。同社は最終的にウェブサイト上の表現を「低炭素」に変更しました。
韓国ではグリーンウォッシュに対する罰則法案が立案されており、罰金が科される見通しです。
▼参照:REUTERS 焦点:豪アジアでグリーンウォッシュ取り締まり強化、罰則も
2020年、欧州委員会が実施した調査によると、EU域内で収集された環境主張のうち53.3%が曖昧で誤解を招く可能性がある、もしくは根拠に欠けていることが判明しました。
また、40%は虚偽または欺瞞的な内容を含む可能性があると指摘されています。
この調査結果を受け、欧州委員会は、自主的な環境主張に関する共通ルールの欠如が「グリーンウォッシュ」を助長し、公正な競争を妨げるとともに、真に持続可能な企業が不利な立場に追いやられる要因になっていると注意喚起しました。
こうした背景を踏まえ、EUでは2026年に「グリーン移行のために消費者に権限を与える指令」(通称「グリーンウォッシュ禁止法」)が施行される予定です。
この指令では、消費者を誤解させる恐れのある環境主張を禁止するとともに、違反企業に対して罰則が科される仕組みが設けられています。
特筆すべきは、この規制がEU域内の企業だけでなく、EU市場に製品やサービスを提供する日本企業を含む海外事業者にも適用される点です。
そのため、EU市場に関与する日本企業は、この指令に準拠するための対応が求められます。
この新たな規制は、消費者の信頼を回復し、真に持続可能な企業を支援するための重要な一歩であり、同時に、企業が透明性の高い環境情報を提供しなければならない厳格な基準を示しています。

▼出典:CFP表示ガイドの作成に向けて 国際的なグリーンウォッシュ規制の動向
5. グリーンウォッシュを回避する方法
企業の具体的事例なども紹介させていただきましたが、ウェブサイトでの表現に注意が必要です。
2021年EUにおける EU 消費者法の違反チェックでは、ウェブサイトでの環境表示の半数が根拠不足として、グリーンウォッシュの可能性があると報告しています。
▼参照:European Commission Screening of websites for ‘greenwashing’: half of green claims lack evidence
そのため企業は透明性のある活動で説得力ある主張をすることが重要です。

出典:CFP表示ガイドの作成に向けて 国際的なグリーンウォッシュ規制の動向
5-1. ガイドラインや認証の活用
例えば、国内の環境ラベルを活用する方法などが考えられます。
ISO14021、14024、14025に該当するエコマークやエコリーフなどが該当します。
また、カーボンフットプリントを算出し第三者認証を取得したりすることで、確からしい根拠とすることも可能です。
カーボンニュートラリティに関する新規格であるISO14068も参考すべきガイドラインとして徐々に存在感を示し始めています。
▼参考:カーボンニュートラリティに関する新規格ISO14068-1とは
6. まとめと今後の展望
いかがでしたでしょうか。環境に配慮した企業活動を進めていくのであれば、その取り組みをマーケティングに活用したいと思うのは当然のことだと思います。
しかし、正しく表現を行って誤解のない主張を心がけることが重要です。
Green Claims Codeの内容も参考に透明性のある情報公開を進めていきましょう。
Green Claims Codeの要約
- 正確性:環境主張は真実で正確でなければなりません。
- 明確さ:主張は消費者にとって分かりやすいものであるべきです。
- 関連性:主張は製品やサービスの重要な環境影響に関連している必要があります。
- 証拠:主張は信頼できる証拠で裏付けられている必要があります。
- 比較可能性:比較主張は公正で証拠に基づいている必要があります。
- 全体像:主張は製品やサービスの全体的な環境影響を考慮するべきです。
- 透明性:主張には透明性があり、根拠があるべきです。