自治体版の情報開示「CDPシティ」│2024年版アップデート

気候変動の最前線に立つ自治体が、いま世界的に注目を集めています。
2024年、CDPシティAリストに選定された自治体は過去最多の112都市に達し、その数は前年の13%から15%へと着実に増加しました。
これは、地球温暖化や気候災害への対応において、都市が果たすべき役割の重要性がいよいよ現実のものとして認識され始めている証です。
東京都は4年連続でAリストに選ばれ、京都市や札幌市など5都市もA-スコアを取得。
これは日本の自治体がグローバルな気候行動の一翼を担い始めていることを物語っています。
一方で、こうしたスコアリングの裏には、CDPが展開する国際的な環境情報開示プラットフォーム「CDP-ICLEI Track」の進化と、ガイダンスの強化、質問体系の整備といった報告制度そのものの刷新があります。
環境情報の開示はもはや一部の先進都市だけの話ではなく、世界中の都市が透明性と信頼性を武器に、投資を呼び込み、持続可能な政策形成に舵を切る時代が到来しています。
この記事では、CDPシティの最新動向、2024年のスコア結果、開示制度のアップデート、そして都市が環境リーダーとして果たすべき役割を詳しく解説します。
▼参考:CDPとは!?2024年版の変更点について詳しく解説(2025年のスケジュール発表)
▼参考:中小企業向けCDP「CDP SME」とは?活用方法とメリットを徹底解説!

2024年の主なアップデートと変更点
01_ガイダンスの設置
CDPの新しい回答ポータルでは、ガイダンス(質問の解説)が組み込まれました。回答者が各セクションや質問に対して適切な回答を提供できるように支援しています。
これにより、回答者が迷うことなく、正確で一貫した情報を提供しやすくなっています。また、ガイダンスは常に最新の情報を反映しており、最新の報告要件を確認することができます。
(ガイダンスはCDPシティだけでなく、通常のCDP質問書にも設置されました。これまでと比べて、質問の内容が非常に分かりやすく説明されています)
02_確認の容易さと直接リンク機能の追加
回答進捗状況の確認がこれまで以上に簡単になりました。
回答者は、自分の進捗状況を一目で把握できるようになり、必要に応じて各種データやガイダンスへの直接リンクを利用して、迅速に情報にアクセスできるようになりました。
これにより、回答プロセスが効率化され、回答の質が向上することが期待されます。
03_質問番号の変更
質問書の改定や変更に伴い、2024年度のCDP報告では質問番号が変更されました。この変更は報告ガイダンスに詳細が記載されており、回答者が新しい番号に適応しやすいようにサポートされています。
ただし、「コピー機能」には影響がないため、過去の回答を新しい報告に転用する際に大きな問題は発生しません。これにより、継続的なデータの活用が可能となります。
04_主要な気候変動イニシアチブとの整合性強化
CDPの質問は、主要な気候変動イニシアチブ(例えばTCFDやSBTiなど)との整合性が強化されています。
これにより、企業や都市がCDP報告を通じて、他の主要なフレームワークやイニシアチブに対しても一貫性のある情報を提供できるようになります。
この整合性強化は、報告の重複を減らし、回答者の負担を軽減することを目的としています。
05_Excelでの入出力廃止
2023年度までご活用いただいたExcelファイルによる「エクスポート」および「インポート」の機能は無くなりました。
(フォーマットの違いによるエラーや、質問やガイダンスがリアルタイムで更新されないという懸念があったのではないか、と予想されます)
よくある質問
Q1_ CDPと自治体の関係は?
■CDPのプラットフォームの利用状況
CDPプラットフォームは世界中の1,200以上の自治体と23,000以上の企業が利用しています。また、CDPは130兆米ドルの資産を保有する機関投資家と協力し、持続可能な投資を推進しています (Smart Energy Decisions)。
■ICLEI(イクレイ)との協力
2020年にCDPとICLEI(Local Governments for Sustainability)が協力して、自治体が温室効果ガス排出量、気候変動リスク、緩和および適応戦略を報告するための共通のプラットフォーム「CDP-ICLEI Unified Reporting System」をリリースしました。
これにより、自治体は気候変動に対する取り組みをより効果的に報告・管理できるようになっています。
2022年4月にはこの統一報告システムの名称を「CDP-ICLEI Track」に変更しています。
※ICLEI(イクレイ:Local Governments for Sustainability)
=「持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会」
地方自治体の国際的なネットワーク。
1990年9月5日、ニューヨークの国連本部に43カ国から200都市を代表する地方自治体関係者が集まりイクレイが誕生。現在では世界中の1,750以上の地方自治体や地域政府が加盟しています。
日本は現在26の自治体が加盟しています。
Q2_自治体がCDPに環境情報を開示するメリットは?
透明性と信頼性の向上
都市が環境データを透明化することで、市民や投資家からの信頼を獲得できます。
この透明性は、政策への支持を強化し、持続可能なプロジェクトへの投資を呼び込む土台となります。
戦略的な政策立案
データに基づいた分析は、都市が直面する課題を特定し、効果的な気候行動計画を策定するのに役立ちます。これにより、持続可能性を高めるための資源の最適配分が可能になります
資金調達機会の拡大
CDPシティのデータは、グリーンボンドや国際支援プログラムなど、持続可能なプロジェクトへの資金調達を支援する重要な証拠となります。
信頼性の高い環境データは、投資家からの注目を集める要因にもなります。
ベストプラクティスの共有
CDPシティは、都市間の成功事例や課題を共有するための国際的なプラットフォームでもあります。
他都市の取り組みを参考にすることで、より効果的な政策や技術を導入できる可能性があります。
Q3_ CDPシティのスコアリング基準とは?
一例として、以下の観点が含まれますが、詳細は最新のスコアリング基準をご確認ください。
・気候リスクおよび脆弱性評価の状況に関して報告する
・適応および緩和の両分野で政策を策定する
・温室効果ガス排出量を算定する
・温室効果ガス排出量の削減を目指す
・区域内で再生可能エネルギーを促進する
Q4_CDPシティへの参加および質問書への回答には料金がかかりますか。
自治体のCDPシティ質問書への回答は無料です。
▼出典:CDPシティFAQ
CDPシティ概要
CDPシティ(CDP Cities)は、都市が持続可能な未来を実現するために、気候変動への取り組みや環境データを開示するための国際的なプラットフォームです。
これは、非営利団体CDP(Carbon Disclosure Project)が運営するプログラムの一環で、都市が自らの環境パフォーマンスを透明化し、具体的な気候行動を推進するための基盤を提供します。
都市はエネルギー消費や温室効果ガス排出量の大部分を占める一方で、気候変動の影響を最も受けやすい地域でもあるため、このプログラムは都市レベルでの持続可能性の向上において極めて重要な役割を果たしています。
CDPシティの意義と目的
都市は、世界全体のエネルギー消費の約75%、温室効果ガス排出量の70%を占めるとされ、気候変動の主要な原因となっています。
同時に、都市は洪水、熱波、嵐などの気候災害に最も脆弱であり、経済的損失や市民生活への影響が大きい地域でもあります。
このような背景から、都市が科学的根拠に基づいたデータを収集し、それに基づいて政策を策定・実施することは、気候変動への適応と緩和の両面で欠かせません。
CDPシティは、都市が自らの環境への影響を可視化し、取り組みの進捗状況を定量的に評価するための枠組みを提供します。
このデータを活用することで、都市は戦略的な意思決定を行い、温室効果ガス排出削減、再生可能エネルギーの導入、気候災害への適応力強化などの具体的な行動を加速させることが可能です。
また、透明性を高めることで、住民、投資家、政策立案者などの信頼を向上させ、持続可能な都市計画を実現する土台を築きます。
▼参考:再エネ導入を考える企業必見|再生可能エネルギーの種類・導入方法・成功事例

CDPシティに参加する自治体は年々増えており、世界で1,000自治体を越えてきており日本でも2022年には171自治体が参加しています。
情報開示していく内容は、ガバナンスや気候リスクなどに関わる評価、今後の目標、それを達成するための計画立案、実際の行動といった要素になります。
非常に骨太な回答が求められ、回答に基づきD-~Aまでスコアリングが行なわれます。

データ収集と報告の仕組み
CDPシティでは、都市がオンラインプラットフォームを通じて、自らの環境パフォーマンスに関する詳細なデータを収集し、報告する仕組みを採用しています。報告項目には以下が含まれます:
- 温室効果ガスの総排出量および部門別排出量
- エネルギー消費量と再生可能エネルギーの利用状況
- 水資源の管理状況
- 気候変動に関する適応および緩和策
- 持続可能性目標およびその達成状況
これらのデータを基に、CDPは都市ごとの取り組みを評価し、スコアリングを行います。
特に、優れた気候変動対策を実施している都市は「Aリスト」に選定され、他の都市や国際的なステークホルダーにとっての模範となります。
スコアリングは、都市が自らの進捗を評価し、他都市と比較するための指標としても役立ちます。
CDPシティ(CDP Cities)は、都市が持続可能な未来を実現するために、気候変動への取り組みや環境データを開示するための国際的なプラットフォームです。
これは、非営利団体CDP(Carbon Disclosure Project)が運営するプログラムの一環で、都市が自らの環境パフォーマンスを透明化し、具体的な気候行動を推進するための基盤を提供します。
都市はエネルギー消費や温室効果ガス排出量の大部分を占める一方で、気候変動の影響を最も受けやすい地域でもあるため、このプログラムは都市レベルでの持続可能性の向上において極めて重要な役割を果たしています。
グローバルな影響と展望
2023年時点で、CDPシティには世界中の1,100以上の都市が参加しており、それぞれが地域特有の課題に取り組みながら、国際的な気候変動目標に向けた行動を共有しています。
このネットワークは、パリ協定や国連の持続可能な開発目標(SDGs)など、グローバルな目標の達成に向けた都市レベルの行動を促進する重要な役割を果たしています。
CDPシティのデータは、都市間の協力を強化するだけでなく、国際機関や多国籍企業が政策や投資の意思決定を行う際の重要な基準としても活用されています。
これにより、環境に配慮した都市計画やプロジェクトが加速し、地球規模での気候変動対策に寄与しています。
課題と改善の余地
CDPシティは多くの利点を提供する一方で、いくつかの課題も抱えています。特に、データの質や一貫性に都市間でばらつきがある点は改善が必要です。
一部の都市では、リソース不足や専門知識の欠如が原因でデータ収集や報告が十分に進まない場合もあります。
このような課題を解決するためには、報告プロセスの標準化や技術的支援の拡充が求められます。
2024年度CDPシティ結果報告
2024年、CDPは世界中の自治体と地方政府を対象に環境情報の開示と気候変動対策の進捗を評価し、112の自治体と2つの州・地方政府を「CDPシティAリスト」に選定しました。
これは前年の13%から15%に増加しており、環境透明性とリーダーシップを強化する都市の割合が着実に拡大していることを示しています。
CDPによる地方政府へのスコア付与は今年が初めてで、これは自治体による説明責任の新たな転機と位置づけられています。
評価対象となった自治体は、CDPとICLEIが共同運営する「CDP-ICLEI Track」を通じて環境データを開示した約1,000自治体のうち752都市で、その中の15%が最高評価を獲得。
選定された都市には、デンバー、フィレンツェ、ヨハネスブルグ、マカティなど、地理的・経済的に多様な都市が含まれており、グローバルに均衡の取れたリーダーシップが形成されつつあります。
日本からは東京都が4年連続でAリスト入りし、京都市、札幌市、新潟市など5都市がA-スコアを取得。
これは自治体による環境政策の強化が国際的にも評価されている証です。
また、Aリスト都市の大多数は欧米に集中していますが、アジア・ラテンアメリカ・アフリカからの選定も進み、世界規模での気候行動の浸透を物語っています。
▼参考:アフリカの脱炭素化とTICADの役割|再エネ・水素・カーボンクレジットの最前線
さらに、CDPは州・地方政府の気候行動にも注目し、カリフォルニア州とコロラド州の2州がAスコアを獲得。
これにより、地方レベルでの気候ファイナンスや政策形成の信頼性が高まり、世界の意思決定に資するデータ基盤が強化されています。
ハナ・パイクCDPグローバルディレクターは、自治体が「アースポジティブ(地球にとって前向き)」な未来を形作る主役であると述べ、Aリスト選定都市が国や市場、社会に向けた気候行動のベンチマークを提示していると強調しています。
実際に、回答自治体の83%が洪水・猛暑・干ばつといった深刻な気候災害に直面しており、その多くがこれらが今後さらに悪化すると見込んでいます。
こうした中でのCDPへの情報開示は、透明性の向上、協働の促進、解決策の加速に直結し、持続可能な成長への道筋を示すものとなっています。
CDPは今後も、環境情報の標準化・国際化を進めながら、自治体の行動を支援し、世界全体での気候レジリエンスの強化に貢献していく姿勢を明確にしています。
▼出典:CDP 世界の自治体が気候変動のリーダーシップを強化 – 112自治体がCDPシティAリストに選定
まとめ
2024年、CDPシティは世界1,000を超える自治体の気候変動対策を評価し、過去最多となる112都市をAリストに選定しました。
東京都は4年連続のA評価を獲得し、京都市や札幌市もA-スコアを取得するなど、日本の都市も着実に存在感を高めています。
こうした評価の背景には、「CDP-ICLEI Track」など国際的な情報開示基盤の整備と、質問ガイダンスの設置や整合性強化といった制度のアップデートがあります。
CDPシティに参加することで、都市は政策の透明性と信頼性を高め、資金調達や他都市との連携を強化するチャンスを得られます。
現在、世界の都市の83%が深刻な気候リスクに直面しており、科学的根拠に基づく情報開示が都市のレジリエンス向上と持続可能性の鍵となっています。
今後、CDPシティの意義はさらに高まり、国際的な環境ガバナンスにおいて欠かせない仕組みとなるでしょう。