IT業界の省エネ化と脱炭素 | 期待される役割と取り組み

IT業界はデジタルテクノロジーの進化によって社会を大きく変えてきました。

製造業のように工場で燃料を使うわけではなく、テレワークも浸透しやすいため、表面的には温室効果ガスの排出が少ない業界だと考える人も少なくありません。
通勤による排出が削減でき、オフィス面積を縮小できる点もメリットといえるでしょう。

しかし実際には、クラウドサービスやAIの普及によって需要が急拡大するデータセンターの電力消費が大きな課題となっています。
サーバー稼働や冷却設備が莫大なエネルギーを必要とし、環境負荷やコスト増大を招いているのです。

こうした背景から、IT企業にとって脱炭素経営はもはや避けて通れないテーマになっています。
さらに、気候変動の影響による自然災害や規制強化は、事業継続性や信頼性にも直結する重大なリスクです。

一方で、再生可能エネルギーの導入やAI・IoTを活用した効率化、排出量可視化ソリューションの提供といった取り組みは、新たな市場機会や企業ブランドの強化につながります。

本記事では、IT業界が直面するエネルギー消費と気候変動リスク、そしてそれを成長のチャンスへと変える取り組みについて、最新動向を交えて分かりやすく解説していきます。

目次

データセンターでの電力消費


データセンターの電力消費の現状と課題

データセンターは、AI・クラウド・動画配信などを支える社会基盤として急速に拡大しています。
しかしその裏で深刻化しているのが電力消費の増加です。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界のデータセンターが使う電力は全体の約1%を占め、今後も拡大が予測されています。5GやIoTの普及により、データ処理量が爆発的に増えることで、この割合はさらに上昇する可能性が高いのです。

電力消費の大部分は以下の2点に集約されます。

  • IT機器の稼働:サーバーやストレージ、特にAIに用いられるGPU・TPUは高性能である反面、大量の電力を必要とします。
  • 冷却設備の負担:サーバーの発熱を抑えるための空調・冷却装置が不可欠で、全体消費の30〜40%を占めると言われています。

このように、データセンターの成長は利便性を高める一方で、エネルギー供給・環境負荷・コスト増大という課題を同時に抱えているのです。

持続可能なデータセンターに向けた革新的な取り組み

こうした課題に対応するため、業界全体でエネルギー効率化と脱炭素化が加速しています。
代表的な施策は以下の通りです。

1. 冷却技術の革新

  • 自然冷却:外気を取り入れて冷却に活用する手法。北欧やカナダなど低温地域で効果的。
  • 液体冷却:冷却液を直接サーバーに循環させる最新技術で、従来よりも大幅に電力を削減可能。

2. 仮想化による効率化

仮想化技術を用いることで、1台の物理サーバーで複数の仮想環境を稼働させ、機器台数を削減。
結果として消費電力・運用コストの両面で削減効果が得られます。

3. 再生可能エネルギーの活用

GoogleやMicrosoftなど大手は、風力・太陽光による電力調達を進め、長期的には100%再生可能エネルギー利用を目指しています。

4. 立地戦略の最適化

冷却効率やグリーンエネルギー供給に優れた地域(例:北欧、アイスランド)にデータセンターを配置し、環境負荷と運用コストを抑制。

データセンターの電力消費はデジタル社会の成長に直結する一方、環境・エネルギーの課題を抱えています。
冷却技術の進化、仮想化の普及、再生可能エネルギーの導入、立地戦略の工夫といった取り組みは、持続可能な成長を実現する鍵です。

企業がこれらを積極的に採用することで、環境への配慮と競争力の両立が可能となり、未来のデジタルインフラを支える基盤となっていくでしょう。

▼出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 資料

情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響 (Vol.4)

AWSのサステナビリティの取り組み


AWSは世界で広く採用されているクラウド製品で日本でも多くの企業が採用しています。

弊社で行っているIT事業でもAWSを活用させていただいているので、AWSの各種リージュンにおける電力消費などはサービスを利用していることからScope3に入ります。

▼参考:Scope3とは?最新情報と環境への影響と企業の取り組み

AWSの担当者にお聞きしてみたところ、AWSのサービスサイトにサステナビリティの情報はまとまっており、以下の19のリージョンが既に100%再生エネルギーにて運営されているとのことでした。

今後、データセンターを選定する時の要件に再生エネルギーを使っているデータセンターを使うという志向は高まっていくと想定されます。

▼参照:オンプレミスからAWSクラウドに移行で温室効果ガスを削減

IT会社の気候変動におけるリスクと機会


IT企業が直面する気候変動リスクとは?

気候変動は、IT企業の事業運営に直接的な影響を与える重大なリスク要因です。
特に注目すべきは 物理的リスク移行リスク の2点です。

1. 物理的リスク

IT業界の基盤であるデータセンターは、莫大な電力を消費するため、電力価格の高騰が即座に運営コストの増加につながります。
さらに洪水・暴風雨・熱波などの自然災害は、サーバーやネットワークインフラを損傷させ、システム停止やデータ損失を引き起こす可能性があります。
こうした事態は顧客満足度の低下や契約違反による損害賠償リスクにも直結します。

2. 移行リスク

脱炭素社会への移行に伴い、排出量の算定・開示義務 が厳格化しています。
特にScope1・2・3を正しく把握し、適切に報告できなければ、罰則や取引先からの信用失墜につながりかねません。
また、環境対応に消極的な企業は、投資家や消費者から支持を失うリスクも抱えます。
こうした規制や市場圧力は、IT企業の競争力を削ぐ大きな要因となります。

気候変動がもたらすIT企業の新たな機会

一方で、気候変動への対応は 事業拡大やブランド価値向上のチャンス でもあります。

1. 再生可能エネルギーと効率化

データセンターの運用に再生可能エネルギーを導入し、AIやIoTを活用してエネルギー消費を最適化することは、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現します。
これは顧客にとっても魅力的な「持続可能なサービス」となり、差別化につながります。

2. 新しい市場の開拓

気候変動対応が求められる顧客に対し、排出量の可視化や削減支援ツールを提供することは、IT企業にとって大きな成長機会です。
サプライチェーン全体を対象としたソリューションは、需要が拡大し続けており、単なるITサービス提供企業から「環境パートナー」への進化を後押しします。

3. ESG経営とブランド価値向上

再生可能エネルギー利用やカーボンニュートラル達成に向けた取り組みを積極的に打ち出すことは、投資家からの評価を高め、資本市場での競争力強化につながります。
ESG重視の潮流に合致することで、中長期的な企業価値を押し上げる効果も期待できます。

IT企業にとって気候変動は、リスクを回避するだけでなく、成長の原動力に変えられる課題です。

  • リスク面では「災害・電力コスト増大・規制強化」に直面する可能性が高い。
  • 機会面では「効率化・再エネ活用・環境ソリューション提供・ブランド価値向上」によって新市場を開拓できる。

これからの競争力を決めるのは、単なるリスク対応ではなく、気候変動を事業成長のチャンスと捉え、積極的に取り組む姿勢です。

まとめ


IT業界は製造業のように直接燃料を消費することは少ないものの、データセンターの電力消費と環境負荷が大きな課題となっています。

サーバー稼働や冷却設備により電力需要が増大し、自然災害やエネルギー価格の高騰は物理的リスクを、温室効果ガス排出量の算定・開示義務は移行リスクを生み出します。
一方で、再生可能エネルギーの導入やAI・IoTによる効率化、排出量可視化ツールの提供などは新たな成長機会となり、顧客や投資家からの信頼を高める要因になります。

AWSをはじめとするクラウド事業者の再エネ活用も進んでおり、IT企業にとって脱炭素経営は競争力強化の必須条件です。
気候変動を「リスク」と捉えるだけでなく「機会」として活用し、持続可能な社会と事業成長を両立させる戦略が未来を左右するのです。

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