ブルーカーボンとは?| 種類、取り組み、課題を一挙解説

ブルーカーボンは、海洋および沿岸生態系における二酸化炭素(CO2)の吸収や貯蔵によって、気候変動の緩和に寄与する生態系です。
主に海草場、マングローブ林、潮間帯の海草、および塩性湿地などがブルーカーボンの代表的な例とされています。
これらの生態系は、地球上の炭素循環において重要な役割を果たしており、大気中のCO2を吸収して蓄え、海洋において貯蔵することで温暖化を緩和する働きを持っていると言われています。
このように近年注目を浴びているブルーカーボンですが、まだまだ研究途上のようで、海中でのCO2のサイクルや吸収についても分かっていないことも多くさらなる研究が必要とされています。
本記事では、ブルーカーボンの重要性や種類、取り組みと課題について解説していきます。

ブルーカーボンの重要性
ブルーカーボンは、海洋や沿岸の生態系が炭素を吸収・貯蔵する能力を表す概念であり、気候変動の緩和や生態系の保全において不可欠な役割を果たしています。
この分野では、特にマングローブ、塩性湿地、海草藻場といった沿岸生態系が注目されており、それらが提供する多様な恩恵が科学的、経済的、社会的に評価されています。
その重要性は、炭素吸収の効率性、沿岸地域の防護、生物多様性の保全、そして経済的利益という四つの柱に支えられています。
▼参考:ネイチャーポジティブとは?注目される理由や世界的な潮流とその背景
まず、ブルーカーボン生態系の炭素吸収能力についてです。これらの生態系は、大気中の二酸化炭素を吸収して土壌や植物に蓄積し、陸上の熱帯雨林と比較しても非常に高い炭素吸収効率を誇ります。
たとえば、マングローブ林は1ヘクタールあたり年間10トン以上の炭素を吸収する能力を持ちます。
また、これらの生態系は炭素を数世紀から数千年にわたり土壌中に固定する特性があり、長期的な炭素蓄積が可能です。
しかし、これらの生態系が破壊されると、蓄積されていた炭素が大気中に放出され、温室効果ガスの排出源となる危険性が高まります。このため、ブルーカーボンの保全と再生は、地球規模での気候変動対策として欠かせません。
次に、ブルーカーボン生態系が沿岸地域を保護する役割について考えます。特に、マングローブ林は高潮、津波、嵐などの自然災害から沿岸部を守る「自然の防波堤」として機能します。これにより、住民の命や財産を守るだけでなく、インフラへの被害を軽減します。
また、これらの生態系は土壌の侵食を防ぎ、海岸線を安定化させる役割を果たします。海面上昇が進む現在、このような自然防護機能は、気候変動に対する適応策としても重要性を増しています。
さらに、ブルーカーボンは生物多様性の保全にも貢献しています。マングローブや海草藻場は、多くの海洋生物の生息地や繁殖地となっており、例えば魚類、甲殻類、鳥類がこれらの生態系に依存しています。
特に、若い魚の育成場として機能するマングローブ林や、ウミガメやジュゴンの餌場となる海草藻場は、海洋生態系全体の健全性を支える重要な基盤です。
これにより、沿岸漁業の持続可能性が向上し、地域経済に直接的な恩恵をもたらします。また、生態系全体の多様性が保たれることで、気候変動によるストレスへの耐性が強化されます。
経済的な観点でも、ブルーカーボンは地域社会や企業に多くの機会を提供します。炭素市場において、ブルーカーボンを活用したクレジットは、カーボンオフセットの手段として注目されています。
たとえば、マングローブ林の保全や再生を行うプロジェクトが炭素クレジットを発行し、それを企業が購入することで、排出削減目標を達成する手段として利用されています。
このような取り組みは、保全活動の資金源としても機能し、地域経済に新たな収益源を提供します。加えて、エコツーリズムの観点からも、ブルーカーボン生態系は観光資源としての価値を持っており、地域住民の雇用創出や収入向上に寄与します。
▼参考:カーボンクレジットとは?その種類と違い:どれを選べばいいのか?
政策的には、ブルーカーボンは国際的な気候政策や持続可能な開発目標(SDGs)と密接に関連しています。気候変動の緩和(SDG13)、海洋生態系の保全(SDG14)、陸域生態系の保護(SDG15)といった目標に対し、ブルーカーボンは具体的な解決策を提供します。
特に、パリ協定や国連気候変動枠組条約(UNFCCC)において、ブルーカーボンの保全と再生は自然に基づく解決策(Nature-Based Solutions)の一環として位置付けられており、その国際的な意義が増しています。
総括すると、ブルーカーボンは、炭素吸収による気候変動緩和、沿岸地域の保護、生物多様性の維持、地域経済の活性化といった多面的な価値を持つ極めて重要な資源です。
その保全と活用は、気候変動への適応と緩和の双方に寄与し、持続可能な未来を築くための基盤となります。
今後、科学者、政策立案者、地域コミュニティが協力して、ブルーカーボンの潜在力を最大限に引き出すことが求められています。ブルーカーボンは、気候問題に対する解決策としての可能性を秘めた、地球規模の挑戦における希望の一端を担う存在と言えるでしょう。
ブルーカーボンの種類
海草場とブルーカーボン
海草場は、ブルーカーボンを構成する重要な生態系であり、気候変動の緩和、生物多様性の保全、海洋環境の質向上において欠かせない役割を果たしています。
この沿岸生態系は、炭素吸収と貯蔵能力が非常に高く、海洋環境全体の健全性を支える基盤として機能しています。以下では、海草場の多面的な重要性をより深く掘り下げ、気候変動や環境保護の文脈でその価値を明確にします。
まず、海草場の炭素吸収能力について考えると、その効果の大きさは他の生態系を圧倒します。海草は光合成を通じて大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素を植物体内や海底の土壌に固定します。
1平方メートルあたりの炭素貯蔵量は、陸上の熱帯雨林を上回ることもあり、単位面積で見ると最も効率的な炭素吸収源の一つです。このため、海草場は温室効果ガスの削減において、自然に基づく解決策(Nature-Based Solutions)として重要視されています。
また、海草場の炭素固定の持続性は、気候変動緩和の観点から特に重要です。海草場の土壌は酸素が乏しい環境であるため、炭素の分解が抑制され、蓄積された炭素が長期間安定的に保持されます。
しかし、この生態系が破壊されると、蓄積された炭素が再び大気中に放出され、温室効果ガスの排出源となるリスクがあります。この点からも、海草場の保全は気候変動対策における優先事項の一つです。
次に、海草場は生物多様性の維持においても極めて重要です。この生態系は、多くの海洋生物にとって生息地や繁殖地として機能しています。魚類や甲殻類の稚魚にとっては隠れ場となり、ウミガメやジュゴンにとっては主要な餌場となっています。
こうした機能は、海洋生態系全体の健全性を支えるものであり、地域の漁業資源の維持にも大きく寄与しています。また、海草場は食物連鎖の基盤としても機能し、海洋生態系の多様性と安定性を支える役割を果たしています。このため、海草場の減少は、海洋生態系全体のバランスを崩す可能性があり、その保全が不可欠です。
さらに、海草場は海洋環境の質を改善する役割も担っています。海草は、海水中の窒素やリンといった過剰な栄養素を吸収することで、富栄養化を抑制し、赤潮や青潮といった有害な藻類の異常繁殖を防ぎます。
これにより、水質が浄化され、沿岸部の生態系が健全に保たれます。また、海草場は波のエネルギーを吸収して弱めることで、海底の土壌を安定させ、沿岸部の侵食を防ぐ自然の防護壁として機能します。これらの特性により、海草場は沿岸環境の保護において重要な役割を果たしています。
しかしながら、海草場は人間活動や気候変動の影響を受け、世界的にその面積が減少しています。沿岸開発、農業排水による栄養汚染、過剰な漁業、海水温の上昇などが主な原因です。
これにより、蓄積された炭素が大気中に放出され、気候変動がさらに加速する危険性があります。そのため、海草場の保全と再生は、気候変動緩和だけでなく、生態系全体の健康維持にも不可欠です。
この課題に対応するため、さまざまな修復プロジェクトが世界中で展開されています。たとえば、海草の種子を植えるプロジェクトや、他の地域から海草を移植する取り組みが行われています。
さらに、地域コミュニティや漁業者と協力して、海草場の持続可能な利用を推進する政策も広がっています。これらの取り組みは、炭素吸収能力を回復させるだけでなく、地域経済の安定化や生態系サービスの提供にもつながります。
総括すると、海草場はブルーカーボンの核心的な要素であり、その炭素吸収能力、生物多様性の維持機能、海洋環境の浄化作用は、地球規模の課題解決において欠かせない役割を担っています。
その保全と再生は、気候変動の緩和、海洋生態系の健全性向上、地域経済の活性化に直接的に寄与します。科学的な研究と政策的な支援、地域社会との連携を通じて、海草場の価値を最大限に引き出すことが、持続可能な未来の実現に向けた鍵となるでしょう。
海草場は、単なる炭素吸収源にとどまらず、地球環境と社会の安定を支える基盤として、今後ますます重要な存在になることは間違いありません。

▼出典:環境省 せとうちネット 藻場とは
マングローブとブルーカーボン
マングローブ林は、ブルーカーボンの中でも際立って重要な生態系であり、気候変動の緩和、沿岸地域の防護、生物多様性の維持、地域経済の発展において極めて大きな役割を果たしています。
この熱帯・亜熱帯の沿岸地域に生息する独特の森林は、陸地と海洋を結ぶ生態的な架け橋であり、その多面的な価値は気候問題や環境保全の観点から無視できないものです。以下では、マングローブ林がもたらす恩恵とその重要性について詳しく掘り下げていきます。
まず、マングローブ林の炭素吸収能力は、地球規模の気候変動対策における柱といえます。これらの森林は、陸上の森林に匹敵するか、それを上回る効率で二酸化炭素を吸収します。マングローブの樹木自体だけでなく、その根が生息する土壌にも炭素を大量に貯蔵する能力があります。
この土壌は酸素が乏しく、分解が遅いため、固定された炭素は数百年から数千年にわたって蓄積され続けます。
このため、1ヘクタールあたりの炭素貯蔵量は、熱帯雨林の最大4倍にも達する場合があります。こうした特性により、マングローブ林は地球温暖化を抑制する自然の炭素貯蔵庫として、非常に高い評価を受けています。
加えて、マングローブ林は沿岸地域を守る「天然の防波堤」として機能し、気候変動への適応策としても重要です。絡み合った根系が津波や高潮、嵐の波のエネルギーを吸収し、沿岸地域への被害を軽減します。
さらに、これらの根は土壌を安定させ、侵食を防ぐ役割も果たします。こうした防災機能は、海面上昇や極端気象が頻発する現代において、沿岸部の住民やインフラを保護するうえで不可欠です。
この自然の防護壁としての役割は、人工構造物に頼る場合よりもコスト効率が高く、長期的な観点で持続可能性に寄与します。
また、マングローブ林は生物多様性を保全するうえでも極めて重要な生態系です。この環境は、魚類、甲殻類、貝類、鳥類、さらにはカニやワニといった多様な生物にとって生息地や繁殖地として機能しています。
特に、稚魚や幼生期の生物にとって、マングローブの根は天敵からの避難場所となり、これが地域の漁業資源を維持する基盤を形成しています。
さらに、渡り鳥にとっての休息地としての役割も果たし、国際的な生態系保護の観点からも価値が高いとされています。このように、マングローブ林は炭素吸収以上に、生態系全体の健全性と多様性を支える存在です。
経済的な視点でも、マングローブ林は地域社会に大きな恩恵をもたらします。漁業や養殖業の基盤を提供するほか、観光やエコツーリズムを通じて地域住民の収入源となっています。また、近年ではカーボンオフセット市場における炭素クレジットの販売が、マングローブ保全の資金源として注目されています。これにより、保全活動と地域経済の活性化が両立可能となり、持続可能な発展が実現されています。
しかし、マングローブ林は、沿岸開発、農地拡大、塩田造成、過剰な伐採などの影響により、世界的に減少しています。
この結果、蓄積されていた炭素が大気中に放出され、温室効果ガスの排出源となるリスクが高まっています。また、生物多様性の損失や沿岸地域の防護機能の低下といった深刻な問題も引き起こされています。
こうした課題に対処するため、多くの地域でマングローブ林の保全と再生プロジェクトが進行しています。たとえば、種子を植える再生事業や、地域住民と協力した持続可能な管理計画の導入が行われています。
また、科学的なデータを活用してマングローブ林の価値を広く認識させる取り組みも進んでいます。これらの活動は、マングローブ林の炭素吸収能力を回復させるだけでなく、地域社会の意識向上や経済的利益の提供にもつながっています。
上記のようにマングローブ林はブルーカーボンの柱として、気候変動の緩和、沿岸地域の防護、生物多様性の維持、地域経済の発展において欠かせない役割を果たしています。
その保全と再生は、地球規模の環境問題への解決策として、また人類社会の持続可能性を支える基盤として極めて重要です。
科学的研究、政策支援、地域社会との協力を通じて、マングローブ林の価値を最大限に引き出し、未来世代に引き継ぐ努力が求められています。マングローブ林の保護は、地球環境の安定と社会の持続可能性を実現するための鍵となる存在です。

海藻とブルーカーボン
海藻の炭素吸収能力について考えると、その効率の高さは地球規模での気候変動対策において特筆すべきものです。
海藻は光合成を通じて大気中や海水中の二酸化炭素を吸収し、有機炭素として蓄積します。その成長スピードは非常に速く、一部の海藻種では他の植物と比較して短期間で大量の炭素を固定することが可能です。
この吸収された炭素の一部は、海藻が分解された後に海底に沈殿し、長期間にわたって貯蔵される場合があります。
特に深海に到達した炭素は分解されにくく、気候変動を抑制する「炭素の埋没」としての役割を果たします。このプロセスは、海藻がブルーカーボンの一環として地球温暖化の緩和に寄与する主要なメカニズムの一つです。
次に、海藻が生物多様性に与える影響を考えると、藻場は多様な海洋生物にとって重要な生息地や繁殖地を提供しています。
魚類、甲殻類、貝類をはじめ、さまざまな生物が藻場を隠れ家や餌場として利用しています。このような環境は、海洋生態系の生物多様性を支え、食物連鎖の基盤としての役割を果たしています。
特に藻場は稚魚や幼生期の海洋生物にとって重要であり、これが地域の漁業資源を支える持続可能な基盤を形成しています。さらに、藻場は海洋生態系の安定性を高める要素でもあり、海洋環境の変動に対する耐性を強化する役割も果たしています。
また、海藻の環境改善機能も見逃せません。海藻は、海水中の窒素やリンといった過剰な栄養素を吸収することで、富栄養化を防ぎます。これにより、赤潮や青潮などの有害な藻類の異常繁殖を抑制し、水質の改善に寄与します。
さらに、海藻は波のエネルギーを吸収・緩和する能力を持ち、沿岸地域の侵食を防ぐ「自然のバリア」として機能します。これにより、沿岸の地形が安定化され、海洋生物の生息環境が保護されます。こうした特性により、海藻は単なる炭素吸収源にとどまらず、海洋環境全体の健康を支える多機能な存在となっています。
一方で、海藻の生態系は気候変動や人間活動の影響を受けやすいという課題もあります。海水温の上昇、酸性化、沿岸開発、過剰な漁業が藻場の劣化や消失を引き起こしており、その結果として海藻が蓄積した炭素が再び大気中に放出されるリスクがあります。
このような状況は、温室効果ガスの排出を増加させるだけでなく、海洋生態系全体のバランスを崩す可能性があります。そのため、藻場の保全と再生は、気候変動の緩和と海洋生態系の維持において優先課題とされています。
これに対して、世界各地で海藻を活用した持続可能な取り組みが進められています。例えば、海藻の養殖は、食品や飼料、バイオ燃料としての利用だけでなく、炭素吸収を目的とした気候変動対策としても期待されています。
養殖によって収穫された海藻は経済的な利益をもたらすだけでなく、地域社会の雇用を生み出し、持続可能な経済活動の基盤を提供します。
また、失われた藻場を再生するプロジェクトも行われており、炭素吸収能力を回復させると同時に、生物多様性の向上にも寄与しています。
さらに、海藻の価値は炭素クレジット市場でも注目されています。海藻を活用したカーボンオフセットプロジェクトは、企業や政府が排出削減目標を達成する手段として利用され、気候変動緩和のための新たな資金源を提供します。
これにより、海藻の保全と活用に対する経済的なインセンティブが生まれ、地域社会や環境にポジティブな影響をもたらしています。
総じて、海藻はブルーカーボンの中でも多機能で柔軟性の高い要素であり、その炭素吸収能力、生態系保全の役割、海洋環境改善への寄与は、気候変動の緩和と適応において重要な意義を持ちます。
海藻の保全と持続可能な活用を進めることは、気候問題への対応に加え、海洋生態系の健康を守り、持続可能な未来の海洋環境を築くための鍵となります。
科学的研究、政策支援、地域社会との協力を通じて、海藻が持つ潜在力を最大限に引き出し、地球環境の改善に寄与する持続可能な道を共に探る必要があります。

塩性湿地とブルーカーボン
塩性湿地は、塩水と淡水が混じり合う沿岸部や河口に広がり、特有の塩性植物や土壌、水域が織りなす複雑な生態系を形成しています。これらの環境は、炭素吸収源としての能力や生態系サービスを通じて、地球規模の気候と環境問題への解決策を提供しています。
まず、塩性湿地の炭素吸収能力は、地球温暖化の緩和において極めて重要です。湿地植物は光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収し、それを植物体や湿地の土壌に蓄積します。この土壌は酸素が乏しい嫌気性環境であるため、分解が抑制され、吸収された炭素は数百年から数千年にわたって安定的に蓄積されます。
研究によれば、塩性湿地は単位面積あたりの炭素固定量が陸上の森林を上回ることもあり、温室効果ガス削減の観点から極めて効率的な炭素貯蔵庫といえます。この長期的な炭素蓄積の特性により、塩性湿地はブルーカーボンの中でも特別な地位を占めています。
また、塩性湿地は生物多様性の宝庫としても知られています。この環境は、魚類、甲殻類、渡り鳥、さらには小型哺乳類や爬虫類など、多様な生物にとって重要な生息地や繁殖地を提供します。湿地の塩性植物や泥地は、エビやカニ、貝類など沿岸生物の成長を支える基盤となっており、特に渡り鳥にとっては重要な中継地点として機能します。
さらに、塩性湿地の生態系は食物連鎖の基盤を形成し、海洋生態系全体の安定性を高める重要な役割を担っています。このように、塩性湿地は地球規模の生物多様性の維持に欠かせない存在です。
さらに、塩性湿地は沿岸地域を自然災害から守る防護壁としても機能します。密集した湿地植物の根系と土壌は、高潮や津波、嵐といった自然災害の波のエネルギーを吸収・緩和し、沿岸地域への被害を軽減します。
湿地の存在により、沿岸の侵食が抑制され、地形が安定化されるため、沿岸部の住民やインフラを守る自然資源として高い価値を持ちます。また、これらの防護機能は、人工的な防波堤よりもコスト効率が高く、持続可能性にも優れています。こうした特性から、塩性湿地は海面上昇や極端気象が頻発する現代において、その重要性がさらに増しています。
塩性湿地には、環境浄化の役割もあります。河川から流れ込む栄養塩や有害物質を吸収・濾過する能力を持ち、これにより水質が改善され、富栄養化の進行が抑制されます。
この「自然のフィルター」としての役割は、赤潮や青潮の発生を防ぎ、下流域や海洋の健全性を保つうえで極めて重要です。塩性湿地は、地域の水環境を守る生態系サービスを提供し、人間社会と自然環境の調和を促進します。
経済的な視点では、塩性湿地は地域社会に多大な恩恵をもたらしています。漁業や観光業の基盤を提供するだけでなく、カーボンオフセット市場においても注目されています。塩性湿地を保全・再生するプロジェクトを通じて発行される炭素クレジットは、企業や政府が排出削減目標を達成するための手段として利用されるほか、地域経済の活性化にも寄与しています。また、湿地帯はエコツーリズムの目的地としても魅力的であり、環境教育や自然観察の場を提供することで、地域住民や観光客の環境意識を高める役割も果たしています。
しかし、塩性湿地は気候変動や人間活動の影響を受けやすい脆弱な生態系です。沿岸開発、農業排水、埋め立て、そして海面上昇による浸水拡大が、湿地の減少を引き起こしています。
その結果、蓄積された炭素が大気中に放出され、温室効果ガス排出の増加を招くだけでなく、生物多様性の喪失や沿岸地域の災害リスクの増加といった深刻な影響ももたらされています。
これらの課題に対応するため、世界各地で塩性湿地の保全と再生プロジェクトが進行しています。たとえば、湿地植物の植栽や泥地の復元といった具体的な取り組みが行われています。
また、地域住民や利害関係者を巻き込んだ持続可能な管理計画の策定が進められており、これにより塩性湿地の環境保全と地域経済の利益が両立されつつあります。これらの取り組みは、炭素吸収能力の回復や防災機能の強化に加え、地域社会の生活向上にも寄与しています。
総じて、塩性湿地はブルーカーボンの中心的な存在であり、その炭素吸収能力、防護機能、生物多様性保全、地域経済への貢献は、持続可能な未来を築くうえで欠かせない要素です。その保全と再生は、地球規模の気候変動対策や海洋環境保全、地域社会の発展に寄与する重要な手段として評価されるべきです。
科学的研究、政策支援、地域社会との協力を通じて、塩性湿地の価値を最大限に引き出し、未来世代にその恩恵を受け継ぐことが求められています。塩性湿地は、自然が提供する最も効果的な解決策の一つとして、地球環境と人間社会の安定に貢献する不可欠な資源です。

▼参考:日本の重要湿地 ~生物多様性の観点から重要度の高い湿地の選定~
ブルーカーボンの取り組み
このように様々な場面で役立っているブルーカーボンですが、課題も多くあります。
・世界中で、ブルーカーボン生態系が人間の活動や気候変動により破壊されており、破壊された場合、これらの地域が蓄積していた炭素が放出され、逆に温室効果ガスの源となっています。
・ブルーカーボンの正確な蓄積量や放出量についてのデータはまだ不十分で、正確な気候変動対策の策定や炭素取引の評価が難しく、研究を加速させる必要があります。
・ブルーカーボン生態系の保護・管理・再生プロジェクトには、科学的知識、資金、技術、人材が必要であり、特に途上国ではこれらが不足していることから、国際的な協力や大量の資金供与が必要とされています。
こういった課題を解決するために様々な取り組みが進められています。
・インドネシアやフィリピンなどの国々で、伐採されたマングローブを再植樹するプロジェクトが進められていて、地域コミュニティの協力の下、持続的な管理や監視が行われています。
・オーストラリアのグレートバリアリーフ沿岸では、海草床の復元活動が行われています
破壊された海草床を復元することで、炭素蓄積だけでなく、多くの生物の生息地としても機能する事が期待されています。
・アメリカのルイジアナ州では、塩性湿地の保全を目的とした環境修復プロジェクトが実施されています。これにより、気候変動に対する耐久力を高めるとともに、ブルーカーボンの蓄積を促進しています。
・複数の国や団体で、ブルーカーボンを炭素取引の対象として取り入れる試みが進められていおり、ブルーカーボン生態系の価値を経済的に評価し、その保護・復元を促進する動きが徐々に生まれてきています。
国際的なNGOや地域団体が、ブルーカーボンに関する教育や啓発活動を行っていおり、地域住民や学生を対象としたワークショップやイベントで、ブルーカーボンの重要性を伝える活動が実施されています。
日本でも国土交通省がブルーカーボンについての普及・啓発を進めておりブルーカーボンについての取り組みをまとめています。

▼出典:海の森ブルーカーボン
さらに環境省からも専門のサイトでブルーカーボンについて発信されています。
日本におけるブルーカーボンの45の事例についてまとめたスライドを見ることができ、具体的な活動とその意義が詳細に紹介されています。
ブルーカーボンは、海草や海藻が二酸化炭素(CO₂)を吸収・固定する機能を指し、国内ではこれを地球温暖化対策と地域生態系の再生に結び付けるため、多様な取り組みが進められています。

各地での事例では、地域の特色や環境課題に応じた多様な方法が採用されています。例えば、北海道では、地域の磯焼け対策を目的に鉄分を含む施肥ブロックを活用し、藻場の再生を図る取り組みが行われており、長期的な海藻の繁茂が確認されています。
さらに、福岡県ではウニや海藻を利用した持続可能な漁業とブルーカーボンの創出を組み合わせた活動が推進され、漁業収益と環境保全の両立を実現しています。
こう11各地の事例は、地域の漁業協同組合や企業、自治体が連携して取り組んでおり、CO₂の吸収量を測定する「Jブルークレジット」制度などを通じて、ブルーカーボン活動の経済的価値を創出しています。
また、環境省、農林水産省、水産庁、国土交通省による「ブルーカーボン関係省庁連絡会議」の設立により、政府の支援と民間の協力が進み、全国的なブルーカーボンの推進基盤が整えられています。
さらに、最近ではドローン技術が藻場モニタリングに利用され、効率的で正確なデータ収集が可能となり、ブルーカーボン活動の効果が科学的に証明されるなど、技術的な進展も著しいです。
▼出典:環境省 BLUE CARBON
また、日本では2022年から「ブルーカーボン」を、温室効果ガスの削減量として算定し国連に提出する報告書へも計上する方針を明らかにしています。
▼参考:海藻吸収、温室ガス削減量に算定 来年度、国連報告へ―政府
2024年11月最新、日本におけるブルーカーボンに関する重点調査について
2024年11月から、青森県風間浦村、静岡県熱海市、福岡県宗像市にて、本格的に調査、データ習得が行われます。
青森県風間浦村では、藻場の回復方法に関する調査、藻場のモニタリングおよび管理手法の検討やブルーカーボンとして、生物多様性としての有効性などを可視化し海からの恵みの付加価値向上を目指した調査などが行われます。
静岡県熱海市では、カジメ藻場創出やカジメを活用したバイオ燃料化実証、それに付随する海域・水質調査や食害実態調査などが行われます。
※カジメ藻場:日本近海の沿岸に広がる海藻群落で、カジメという大型の褐藻が密集して生育することで形成される生態系です。この藻場は、岩場に根のような仮根を使って付着し、光合成を行いながら成長します。
福岡県宗像市では、食品利用を見据えた「ひじき」「もずく」の試験増殖、衛星画像デー タを用いた藻場マップの作成や、海中ドローンなどを活用しての海域調査が行われます。

▼出典:ブルーカーボンに関する重点調査
ブルーカーボンのデメリットや課題
ブルーカーボンは、気候変動の緩和や沿岸生態系の保全において非常に大きな可能性を持っていますが、その活用には多くの課題が存在します。
まず、ブルーカーボン生態系が持つ脆弱性は大きな問題です。マングローブ、塩性湿地、海草場といった生態系は、気候変動や人間活動の影響を強く受ける性質があります。海面上昇や海水温の上昇、高潮の頻発、さらには海洋酸性化といった環境の変化が、これらの生態系に深刻なダメージを与えています。
また、沿岸開発や農業排水、過剰な漁業、埋め立てといった人間活動も、生態系の消失や劣化を引き起こし、ブルーカーボンが本来持つ炭素吸収能力を損なう要因となっています。さらに、これらの生態系が劣化すると、それまで蓄積されていた炭素が大気中に放出され、温室効果ガスの排出が増加するという逆効果が生じる恐れもあります。
ブルーカーボンの評価や管理の難しさも課題の一つです。その炭素吸収や貯蔵能力は、環境条件や生態系の種類、土壌の特性によって大きく異なります。このため、統一的で信頼性の高い評価手法を確立することが難しく、ブルーカーボンの価値を正確に測定するには長期間にわたるモニタリングが必要です。
しかし、データを収集・解析するためには高額なコストと高度な技術が必要であり、これが取り組みの拡大を妨げる要因となっています。また、こうした不確実性は、ブルーカーボンをカーボンオフセット市場で活用する際の信頼性や透明性に影響を及ぼします。
資金調達も大きな課題です。ブルーカーボン生態系の保全や再生プロジェクトには、大規模な初期投資と長期的な資金供給が必要です。しかし、これらのプロジェクトは短期的な経済利益を生むものではないため、政府や企業の投資が集まりにくい現状があります。
特に発展途上国では、ブルーカーボンの保全が他の経済的優先事項に押されて後回しにされることが少なくありません。また、カーボンオフセット市場におけるブルーカーボンの認知度が十分に高まっていないことも、プロジェクトの収益性を低下させる要因となっています。
地域社会との調整も重要な課題です。ブルーカーボン生態系は、多くの場合、地域住民の生活と密接に関わっています。例えば、マングローブ林は木材や薪の供給源であり、漁業の資源ともなっています。このような資源が保全活動によって制限される場合、地域住民の生活基盤に影響を与え、摩擦を引き起こすことがあります。
また、地域住民がブルーカーボンの価値やその保全の重要性を十分に理解していない場合、保全活動への協力を得るのが難しくなることもあります。これを解決するには、住民への教育や啓発活動、さらには住民参加型の管理計画を導入することが必要です。
技術的な制約もまたブルーカーボンの活用を難しくしています。これらの生態系を再生するには、特定の植物種を適切な条件で植栽し、長期的に維持する技術が求められます。しかし、沿岸環境は場所ごとに大きく異なるため、再生技術を標準化して広範に適用することが難しい場合があります。
また、再生プロジェクトの効果を測定し、そのデータを活用するためのモニタリング技術や解析手法もまだ発展途上です。これらの技術的な課題は、ブルーカーボンの取り組みを拡大するうえでの大きな障壁となっています。
さらに、政策面での支援の不足もブルーカーボンの課題です。多くの国では、ブルーカーボンに特化した政策や法制度が十分に整備されておらず、取り組みが一貫性を欠いている場合があります。
また、国際的な協力や資金供給の仕組みが十分に機能していないため、特に発展途上国ではブルーカーボン関連のプロジェクトが進みにくい状況にあります。このような政策の不足は、ブルーカーボンの持つ潜在的な価値を最大限に引き出すための妨げとなっています。
まとめ
ブルーカーボンは気候変動対策や生態系保全、地域経済の発展において多くの可能性を持っていますが、
その実現には、これらの課題を克服するための具体的な取り組みが必要です。
科学的な研究による評価方法の改善、地域社会との連携強化、資金調達の仕組みの拡充、技術革新、政策の整備といった分野での努力が不可欠です。
こうした課題を一つ一つ丁寧に解決することで、ブルーカーボンは持続可能な未来を築くための重要な柱となるでしょう。