ラッコと気候変動 | 生物多様性への貢献

ラッコは、愛らしい見た目から水族館の人気者として知られていますが、実は海洋生態系のバランスを左右する「キーストーン種」という重要な役割を担っています。

特に注目されるのが、ウニとの関係です。
ウニは昆布を食べ尽くすことで「磯焼け」を引き起こし、海の森を衰退させてしまいます。

しかし、ラッコがウニを捕食することでその数が抑えられ、豊かな昆布の森が保たれます。昆布は二酸化炭素の吸収力が非常に高く、地球温暖化の進行を抑制する自然の防波堤のような存在です。

つまり、ラッコの存在は間接的に気候変動の緩和にも貢献しているのです。
また、ラッコはアマモ場の多様性維持にも影響を及ぼし、海底を掘る行動が新たな遺伝的多様性を生み出すことが研究で明らかになっています。

しかし一方で、ラッコは乱獲や環境変化によって絶滅危惧種に指定されており、その数は減少の一途をたどっています。
ラッコがいなくなれば、海藻の森も衰退し、生態系全体のバランスが崩れかねません。

ラッコを守ることは、単なる一種の保全にとどまらず、私たちの未来を守る行動でもあるのです。
本記事では、ラッコの気候変動や生物多様性への関わりについて解説します

▼参考:ネイチャーポジティブとは?注目される理由や世界的な潮流とその背景

目次

ラッコとウニ(気候変動)

ラッコは海洋生態系のキーストーン種として知られています。特に、ウニの捕食者としての役割が重要です。
ウニは昆布を食べることで知られていますが、ラッコがいる場所では、ウニの数が抑えられ、昆布の森が繁栄します。

昆布は二酸化炭素を吸収する能力が高く、大気中のCO2の量を減少させる役割を果たします。
このため、ラッコの存在は気候変動の緩和に寄与すると言われています。

ブルーカーボンの記事でも触れましたが、昆布は杉の5倍以上の二酸化炭素吸収量があると言われており、海藻の中には、非常に迅速に成長する種類があり短期間での炭素吸収が可能です。

上記のように、新しい研究によれば、ラッコがいる地域では、昆布の森がCO2を大量に吸収し、地球温暖化の進行を遅らせる可能性があることが示されています。
また、ラッコの数が増えると、昆布の量も増え、大気中のCO2が減少する可能性があるとされています。

しかし、ラッコは絶滅の危機に瀕している種としても知られています。過去の狩猟や環境変化により、ラッコの数は大幅に減少しています。
ラッコの減少は、昆布の森の減少や海洋生態系のバランスの崩れを引き起こす可能性があります。

(日本の水族館でもピークは120頭以上いたのが、2025年2月時点で鳥羽水族館の2頭:メイとキラだけになっているそうです)

ラッコとアマモ(生物多様性)

ラッコは動物界で最も厚い毛皮に覆われた生きもので、その主食は貝や甲殻類などの海底の生物であることも良く知られています。
ラッコを思い浮かべるときに二枚貝とセットの方も多いのではないでしょうか。

この二枚貝をよく食べるラッコは、特に、ブリティッシュ・コロンビア州に生息するラッコであることが知られています。
そして、二枚貝は、水生植物であるアマモが茂る場所に潜んでいることが多いです。

ラッコが暮らすアマモ場には、ところどころに草が生えていない空き地があります。
これは、ラッコがエサを探して海底を掘った跡で、逆にラッコがいないアマモ場は一面に草が茂っています。

研究によると、ラッコがいるアマモ場の方が安定しており、遺伝子の多様性も高いことが明らかになっています。
ラッコの存在によって、アマモ場の遺伝的多様性が高まり、生態系の健全性が維持されることが示唆されています。

また、ラッコが海底を掘ることで、アマモの開花や種子の形成が促され、種子の発芽や成長に必要な条件が整うとのことで、さらには、ラッコの存在によって、海草の生息地が増加し、多くの生物にとって過ごしやすい環境になり、魚類や甲殻類などの多様な生物が豊かな生態系を形成することができます。

キーストーン種とは

キーストーン種とは、生態系全体に極めて大きな影響を与える生物を指し、その役割は一つの生態系を支える「要石」のようなものです。

この種が存在することで、他の生物の個体数や分布、さらに生態系の構造や機能が保たれる一方、もしその種が失われると、生態系全体が大きく変化し、最悪の場合は崩壊することもあります。

キーストーン種は、その個体数の多さではなく、生態系全体への影響力の大きさによって特別な地位を占めています。

▼参考:絶滅危機と生態系の未来。猫が教えるキーストーン種の重要性

アフリカのサバンナではゾウがキーストーン種として機能しています。
ゾウは木を倒したり枝を折ったりすることで草原を維持し、草食動物が利用できる草地を確保しています。この行動がなければ、木々が繁茂してサバンナが森林化し、草食動物の生息環境が失われてしまいます。

さらに、ゾウの活動は種子の分散や土壌の肥沃化にも寄与しており、サバンナ全体の生態系を支える基盤を形成しています。

キーストーン種がいなくなると、生態系には重大な影響が及びます。
その結果、特定の種が急増して他の種が排除される「トロフィックカスケード」が発生し、生物多様性の減少や資源の枯渇、さらには環境全体の機能不全が引き起こされます。

たとえば、捕食者が消えると、獲物となる種が増えすぎ、それが植生や他の動物に過剰な負荷をかける事態に発展する可能性があります。
こうした連鎖的な影響は、キーストーン種が生態系全体の安定に与える影響力の大きさを物語っています。

一方で、キーストーン種を特定する作業は容易ではありません。
その役割が間接的であることが多く、単純な観察では見えにくい場合があるからです。

また、ある生態系で重要とされる種が別の生態系では同じ役割を果たさない場合もあり、その影響力を正確に把握するためには長期的な研究と多角的な分析が必要です。
このように、キーストーン種を見極めることは、生態系保全における難題の一つといえます。

さらに、人間活動の影響もキーストーン種の生存を脅かしています。
乱獲や生息地の破壊、気候変動などがキーストーン種に直接的な圧力をかけることで、生態系全体のバランスが崩れるリスクが高まっています。

そのため、キーストーン種を保全することは、単なる一つの種の保護にとどまらず、その生態系全体の持続可能性を確保するうえで非常に重要です。

このように、キーストーン種の保全は、生態系の健全性と多様性を維持するための鍵となります。
科学的研究や地域社会との協力、そして政策的な支援を通じて、キーストーン種の価値を理解し、それらを守るための取り組みを進めることが求められます。

キーストーン種が支える生態系の安定は、地球環境の持続可能性に直結しており、これらの種を保護することは私たちの未来を守る行動そのものです。
そのため、キーストーン種の重要性を認識し、積極的な保全活動を展開することが、私たちにとっての最優先課題といえるでしょう。

ラッコ以外のキーストーン種

 グレーオオカミ

北アメリカの生態系において重要なキーストーン種です。彼らの存在により、エルク(ワピチ)やシカの個体数が調整され、植物群が保護されます。
エルクの過剰な放牧を防ぐことで、草食性動物や植生の多様性が維持され、結果としてさまざまな動物の生息環境が保たれます​。

ビーバー

ビーバーは「エコシステムエンジニア」として知られています。彼らはダムを作ることで湿地を形成し、多くの生物にとって重要な生息地を提供します。
ビーバーの活動により、水質の改善や洪水の防止、生物多様性の促進が図られます​。

アフリカゾウ

上記でも触れましたが、アフリカゾウはサバンナの生態系において重要な役割を果たしています。
彼らは大きな体を使って木々を倒し、草食動物が利用できる草地を作ります。
また、種子の散布や水源の掘削を通じて、他の生物が生息しやすい環境を提供します。

シャチ

シャチは海洋生態系において重要な捕食者であり、彼らの存在により、魚や海洋哺乳類の個体数バランスが保たれます。
シャチの捕食行動がエコシステム全体の健康に寄与し、バランスの取れた生物群集を維持します。

オオコウモリ

熱帯雨林に生息するオオコウモリのような花粉媒介者や果実を食べる動物も、キーストーン種として重要です。
これらの動物は、果実を食べながら種子を遠くに運び、新しい植物が成長するエリアを広げる役割を果たしています。

まとめ


ラッコは単なる可愛い動物ではなく、海洋生態系を支えるキーストーン種として重要な役割を果たしています。

ウニを捕食することで昆布の森を守り、ブルーカーボンとしてCO₂吸収を促進する仕組みは、気候変動緩和に直結します。
また、ラッコが関わるアマモ場では遺伝的多様性が高まり、生物多様性の維持にも貢献しています。

しかし、乱獲や環境変化でラッコは絶滅危惧にあり、その減少は生態系のバランス崩壊を招く恐れがあります。
ゾウやオオカミ、ビーバー、シャチなど他のキーストーン種も同様に、生態系全体を調整し支える存在です。

キーストーン種の保全は生物多様性と気候安定の基盤であり、私たち人類の未来を守る行動に直結する課題といえるでしょう。

▼参考:動物(人間含む)の呼吸で発生するCO2について

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