シェールガスとは？シェールガスの歴史と環境・経済への影響を解説
シェールガスは、エネルギー市場に大きな変革をもたらした「シェール革命」を通じて、アメリカをはじめとする国々のエネルギー自給率向上に貢献してきました。
しかし、その採掘技術である水圧破砕法（フラッキング）には、地下水汚染や地震誘発の懸念があり、環境規制の強化が進められています。
バイデン政権では規制強化が図られた一方、トランプ大統領の再選によりシェールガス開発が再び加速する可能性も指摘されています。
本記事では、シェールガスの歴史、経済・環境への影響、技術革新、今後の展望について詳しく解説します。
シェールガス産業は今後もエネルギー供給の柱となるのか、それとも環境負荷を理由に衰退していくのか、その未来を探ります。
シェルーガスとは？
技術革新が切り拓いた新しい天然ガスのかたち
シェールガスは、地層深くに広がるシェール（頁岩）層の隙間に微細に閉じ込められている天然ガスです。
従来の天然ガスが地下の空洞に比較的まとまって存在するのに対し、シェールガスは岩石の微細な孔隙に広範囲に分散しているため、長年にわたって「埋蔵されていても取り出せない資源」とされてきました。
状況を大きく変えたのが、水圧破砕法（フラッキング）と水平掘削技術の進化です。
前者は水と砂、化学薬品を高圧で地中に注入し、岩盤に人工的な亀裂を生じさせる手法。
後者は地層に沿って横方向に掘り進むことで、より広範囲からガスを回収できる技術です。
この二つの技術が融合したことで、採掘効率と経済性が劇的に向上し、商業的採掘が可能になりました。
▼出典：資源エネルギー庁 第１節 米国の「シェール革命」による変化
二律背反のなかで問われる持続可能性
シェールガスは、従来の石炭や石油に比べて価格が安定しやすく、温室効果ガスの排出も相対的に少ないとされることから、エネルギー転換期の“ブリッジ燃料”として期待されてきました。
アメリカ経済においても、雇用の創出や製造業のコスト競争力の強化に大きく寄与し、エネルギー価格の低下は家庭や企業の電力料金にも恩恵をもたらしました。
しかし、こうした経済的な利点の裏側には、深刻な環境リスクが横たわっています。
水圧破砕には大量の水が必要であり、地下水の汚染や地盤への影響が懸念されています。
また、掘削時に漏出するメタンガスは二酸化炭素よりも強い温室効果を持つため、気候変動対策の観点では軽視できない課題です。
さらに、2020年のパンデミックによるエネルギー需要の急減は、シェールガス価格の急落と企業の経営破綻を引き起こし、市場の脆弱性を浮き彫りにしました。
価格競争が激しい中、持続可能な事業モデルをどう構築するかが、シェールガス産業全体の課題となっています。
2025年の最新動向──シェールガス産業は岐路に立っている
2025年現在、シェールガス産業は環境規制と技術革新の交差点に立たされているといえるでしょう。
米国では、アパラチア地域（マルセラスやユーティカ）からの生産が引き続き盛んで、2024年の平均生産量は約1,032億立方フィート/日にも及びましたが、パイプラインの制約や地元の反対、環境への影響への懸念が依然として課題です。
とはいえ、イノベーションの進展を背景に、AI管理・リアルタイム監視・排出量削減など環境配慮型技術が導入されつつあります
一方、中国も国家主導でシェールガス開発に力を注ぎ、2025年までに生産が約21%増加する見通しです。
税優遇政策や技術内製化が推進されていますが、地質の多様性や地域住民の賛否を巡る問題が、安定供給の妨げになる可能性があります 。
欧州では依然として開発に慎重姿勢が続いており、英国やフランスなど環境規制の厳しい国では商業規模での採掘は限定的です 。
加えて、グローバル市場ではLNGやエタンの輸出構造が再編されつつあり、米中間の貿易摩擦緩和を背景に、エタン輸出の復活が見られる一方で、欧州では価格変動の中で戦略的対応が求められています
2025年のシェールガス産業は「生産拡大」と「サステナビリティ対応」の両立を迫られる転換点にあります。
米中での技術革新と政策支援が進む一方、社会的・環境的な合意形成が一層重要視される時代に突入しているといえるでしょう。
シェールガスの歴史
技術革新が切り拓いたシェールガスの実用化と米国のエネルギー革命
シェールガスは、かつて“採るに足らない資源”とされていた存在でした。
微細な孔隙に閉じ込められたガスを含むシェール層は、採掘が極めて困難であり、経済的にも非現実的と見なされていたのです。
しかしその常識を覆したのが、20世紀後半から進化を遂げた水平掘削技術と水圧破砕（フラッキング）でした。
これらの技術は、1940年代のアメリカで芽吹き、1990年代には商業的にも採算が合うレベルに到達。
採掘効率が飛躍的に高まり、従来アクセスできなかったガス資源の開放を可能にしました。
特に2000年代に入ると、テキサス州やペンシルベニア州などを中心に開発が加速し、アメリカのエネルギー構造は大きく転換します。
「シェールガス革命」と呼ばれるこの現象は、アメリカを純粋な輸入国から輸出国へと変貌させ、エネルギーの地政学にも強烈なインパクトを与えました。
自給率の向上と同時に、ガス価格の安定、雇用創出、経済波及効果など多くの恩恵がもたらされ、アメリカはエネルギー政策における主導権を手にするに至ります。
▼出典：資源エネルギー庁 第１節 米国の「シェール革命」による変化
環境リスクと「ブリッジ燃料」としての再評価：シェールガスの現代的課題
シェールガスが世界のエネルギー市場にもたらした恩恵は大きいものの、その普及には陰の側面も存在します。
水圧破砕により誘発される地震や地下水の汚染リスク、さらには採掘時に必要とされる膨大な水資源の使用は、各地で深刻な環境課題となっています。
そのため、多くの自治体や国際機関は、より厳格な環境規制や影響評価の枠組みを導入し始めており、企業には対応力と説明責任が求められています。
一方で、シェールガスは再生可能エネルギーへの過渡期を支える「ブリッジ燃料」として、重要な位置づけを得ています。
石炭よりも二酸化炭素排出量が少なく、安定した供給が可能な天然ガスは、電源構成の低炭素化を促す実務的な選択肢とされています。
特に再エネがまだ不安定な国や地域においては、シェールガスがそのギャップを埋める存在となっているのです。
ただし、その役割が永続的なものとなるかは不透明です。
環境負荷の低減に向けた新技術の開発と、持続可能な採掘手法への移行がなければ、シェールガスの未来は限定的なものにとどまるでしょう。
今後、政策・技術・社会の三位一体による調整が不可欠であり、シェールガスは現代のエネルギー課題と技術進化のせめぎ合いを象徴する存在であり続けています。
シェールガスと環境や経済との関連性
技術革新と環境規制の狭間で揺れるシェールガス産業の現状
2024年のシェールガス産業は、技術進歩と環境規制の間で微妙な均衡を保ちながら発展を続けています。
特にアメリカでは、水圧破砕（フラッキング）や水平掘削技術の高度化により、採掘効率とコスト削減の両立が可能となり、エネルギー供給基盤の一角を担う存在としての地位を維持しています。
リアルタイム監視センサーの導入によって安全性と作業精度も向上し、オペレーション全体の最適化が進んでいます。
一方で、環境問題への懸念も強まっています。特に、地下水汚染や誘発地震といった課題は、社会的関心と規制当局からの監視を受ける中で、企業にとって無視できないリスクとなっています。
各国政府や地方自治体は、環境影響評価の強化やメタン排出削減の義務化といった対応策を講じており、企業側もこれに応じて化学物質の管理や再生可能エネルギーとの併用といった新たな環境対応技術の導入に迫られています。
とくに温室効果ガスの排出削減は、国際的な気候政策の中核をなすテーマであり、持続可能なエネルギー産業の構築には避けて通れない道です。
環境保護とエネルギー供給のバランスをいかに実現するかが、今後のシェールガス産業の競争力を大きく左右する要因となるでしょう。
市場競争と国別の動向が映し出すシェールガス産業の経済的未来
シェールガスは、経済面でも重要な転換点を迎えています。アメリカやカナダでは、安定した生産能力と物流インフラの整備によって輸出量が増加し、国際市場での競争力を確保しています。
液化天然ガス（LNG）輸送船やガスパイプラインの拡充も進み、供給網の効率化が進展しています。
ただし、市場の過剰供給や価格変動のリスクが依然として存在し、企業には慎重な投資判断とリスクマネジメントが求められています。
地域ごとの開発状況も多様です。アメリカでは一部の規制緩和もあり引き続き生産量が拡大している一方で、企業は社会的要請と環境配慮を踏まえた経営戦略の再構築を進めています。
中国ではエネルギー需要の急増を背景に、政府の支援のもと採掘技術の改善と環境保護施策が並行して進められていますが、地質的な制約や水資源の管理といった課題も多く残されています。
▼参考：ロイター 中国シェールガス開発、資源税優遇措置を27年末まで延長へ
ヨーロッパでは、厳しい環境基準と市民社会の反対により、大規模な商業化には至っておらず、開発は試験段階にとどまる国も少なくありません。
このような政策的・社会的背景は、国際市場における供給バランスにも影響を与えています。
また、産業自体も成熟期に差し掛かっており、企業間のM&Aや統合が活発化。
供給の安定化と収益性の確保を目指す動きが本格化しています。
今後の持続可能な成長には、グローバル市場における価格動向を見据えつつ、各国の政策・規制・社会的価値観に適応した柔軟な戦略が求められるのです。
▼出典：JOGMEC 機構資料 米国：相次ぐシェール企業統合発表とその背景
まとめ
シェールガスは、シェール革命によって米国などのエネルギー自給率を押し上げた一方、水圧破砕（フラッキング）に伴う地下水汚染・誘発地震、メタン漏出といった環境リスクが顕在化し、規制強化が進んでいます。
政治の風向きが開発ペースを左右するなか、2025年は岐路になっており、米国はアパラチアを中心に高水準の生産（2024年平均約1,032億立方フィート/日）を維持し、中国は政策支援で増産、欧州は依然として慎重姿勢です。
並行して、LNGやエタンの輸出構造も再編が進行中。
こうした環境下で“ブリッジ燃料”としての位置づけを保つには、メタン抑制やリアルタイム監視などの排出削減技術を実装し、規制順守と地域社会との合意形成を両立させることが欠かせません。
最終的な競争力は、「生産拡大」とサステナビリティ対応の同時達成にかかっています。
