バーチャルウォーター(仮想水)とは?:水の見えない負荷を解説

水は地球上のあらゆる生命を支える不可欠な資源であり、私たちの生活や経済活動、さらには環境保全の基盤を成しています。

家庭での飲料や調理、農業での灌漑、産業における製造や冷却、環境の維持、さらにはエネルギー生成に至るまで、その用途は多岐にわたります。
しかし同時に、気候変動や人口増加による水需要の増大、地域ごとの不均衡な分布などが深刻な課題として浮上しています。

近年注目されるのが「バーチャルウォーター」という概念です。
これは商品やサービスの生産過程で使われる水を「見えない形で輸出入」する考え方で、小麦や牛肉など食料生産の背後に膨大な水資源が消費されていることを示します。

例えば、牛肉1キログラムには約15,000リットルの水が必要とされ、その取引は実質的に水資源の国際的移動を意味します。
水不足地域にとっては命綱となる一方、輸出国では地下水枯渇や環境悪化を招くリスクもあります。

水の持続可能な利用を実現するには、節水技術やリサイクルの推進に加え、バーチャルウォーターを考慮した国際的な協力が不可欠です。
本記事では、水の多様な用途とともに、バーチャルウォーターの仕組みや課題を整理し、未来に向けた水資源管理の方向性を考えます。

出所)国土交通省HP

本記事では、水の使用やそれを計算する指標であるバーチャルウォーターについて解説していきます。

目次

水の使用用途


水は地球上の生命と環境にとって欠かせない最も重要な資源であり、その用途は私たちの生活や経済、環境保全に深く関わっています。
家庭用、農業用、産業用、環境保全、エネルギー生成の各分野での水の役割を理解し、適切に管理することは、持続可能な社会を築くために不可欠です。

家庭用水は、飲料、調理、洗濯、入浴、トイレといった日常生活のあらゆる場面で利用されています。
この分野では、安全で清潔な水を供給するための浄水技術や配水システムが整備され、最近では節水型設備の普及も進んでいます。これにより、限られた水資源の有効活用が促進されています。

農業用水は、世界の水使用量の約70%を占め、食糧生産に欠かせません。
灌漑や畜産業での使用が中心であり、節水型灌漑技術や塩害耐性作物の導入が進められています。
これにより、水が不足している地域でも持続可能な農業が実現可能となっています。
また、地下水の管理や雨水の利用など、水資源を守る工夫が取り入れられています。

産業用水は、製造業やエネルギー生産において重要な役割を果たしています。
食品加工や化学製品の製造、発電所の冷却用など、幅広い用途で使用される産業用水は、近年ではリサイクル技術の導入が進み、使用量削減と効率的な利用が図られています。
このような取り組みにより、環境負荷の軽減と経済活動の持続可能性が高まっています。

環境保全の分野では、水は湿地や湖沼、河川などの生態系を支える要です。適切な水資源管理により、洪水や干ばつなどの自然災害のリスクを軽減し、健全な水循環を保つことができます。
また、植生の回復や自然保護区の整備など、生態系の維持と修復を目的とした取り組みが進んでいます。これらは持続可能な環境の維持に直結しています。

エネルギー生成でも水は不可欠な資源です。
水力発電は、クリーンで再生可能なエネルギー源として利用されており、多くの国で重要な電力供給手段となっています。

また、水素エネルギーの生産にも水が使用されており、脱炭素社会の実現に向けた技術革新が進んでいます。これにより、環境負荷の少ないエネルギー供給の可能性が広がっています。

▼参考:水素の色とは?グリーン水素からブルー水素まで徹底解説!温室効果ガス削減の鍵

しかし、気候変動や人口増加による水需要の増加、地域ごとの不均衡な分布により、水資源は世界的な課題となっています。
持続可能な利用を実現するためには、節水技術の導入、リサイクルの推進、農業や産業分野での効率化、そして国際的な協力が必要です。

水の価値を正しく認識し、その利用を最適化することで、未来の世代にも豊かな水資源を引き継ぐことができます。
水は私たちの生活の基盤であり、その保全と有効活用は、より良い未来を築く鍵となるのです。

▼出典:国土交通省 水資源の利用状況

バーチャルウォーター


バーチャルウォーターは、商品やサービスの生産過程で使用される水の総量を指し、目に見えない形で水資源が国や地域を超えて移動する仕組みを表す概念です。

この考え方は、世界の水資源利用を包括的に捉え、効率的かつ持続可能な管理を進めるための重要な指標となっています。
特に、食料生産や工業製品の製造に必要な膨大な水を評価することで、国際貿易が水資源に与える影響を可視化します。

食料生産はバーチャルウォーターの代表的な例です。
小麦1キログラムの生産には約1,500リットル、牛肉1キログラムには約15,000リットルの水が必要とされます。
これらの農産物や畜産物が輸出される際、その生産に使用された水も「輸出」される形となり、輸入国はこれを間接的に受け取っています。

特に中東や北アフリカのような水不足地域では、この仕組みを利用して国内の限られた水資源を温存し、輸入を通じて食料とともに間接的な水資源を調達しています。

▼参考:アフリカの脱炭素化とTICADの役割|再エネ・水素・カーボンクレジットの最前線

一方で、大量の水を消費する商品を輸出する国にとっては、水資源への負荷が地域環境や社会経済に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、輸出用作物の栽培が過剰に進むと、地下水の枯渇や河川の流量減少を招くリスクがあります。
そのため、輸出国では持続可能性を考慮した生産方法や政策の採用が求められます。

バーチャルウォーターの概念はまた、国際貿易の水資源効率を高めるための政策立案にも役立ちます。
水使用量の多い商品の輸出や輸入に伴うコストと利益を分析することで、輸出国と輸入国の双方にとって有益な水資源の配分を実現することが可能です。
この仕組みは、地域間の水資源の不均衡を緩和し、世界全体での水利用効率を高めるための重要な枠組みとして機能します。

さらに、消費者にとってもバーチャルウォーターの視点は重要です。
日常的に購入する食品や製品がどれほどの水を必要とするかを知ることで、環境負荷を軽減する選択が可能となります。

たとえば、水の多くを消費する牛肉を控えたり、持続可能な生産を行う企業の商品を選ぶことが、間接的に水資源保全につながります。
こうした行動は、個人レベルでの環境への貢献を促進します。

バーチャルウォーターは、水資源問題を単に地域的な課題ではなく、国際的かつ相互依存的な問題として捉える視点を提供します。
この概念を通じて、貿易、政策、消費行動が一体となり、水の利用効率を高め、持続可能な未来を築くための道筋が明確になります。

気候変動や人口増加が水不足を加速させる現代において、バーチャルウォーターを理解し活用することは、地球規模の水問題解決に向けた鍵となるでしょう。

▼出典:水問題研究所 バーチャルウォーターから考える世界の水問題

バーチャルウォーターの計算方法

バーチャルウォーターの計算方法とその重要性

バーチャルウォーターとは、食品や製品の生産過程で使用される「見えない水」の総量を指し、持続可能な水資源管理や国際貿易の効率化に欠かせない概念です。

その計算には グリーンウォーター(雨水や土壌水)ブルーウォーター(地下水や河川水)グレーウォーター(排水処理に必要な水) の3要素が組み合わされます。

例えば、小麦1キログラムを生産するにはおよそ1,500リットルの水が必要で、その内訳は地域の気候や灌漑状況によって大きく変化します。
また、農薬や肥料の使用が排水に与える影響はグレーウォーターとして加算され、環境負荷を可視化することが可能です。

一方、工業製品の場合はさらに複雑です。
スマートフォンを例にとると、金属やプラスチックの製造に必要な採掘・加工水、工場での冷却水や洗浄水、廃棄物処理に伴う水利用まで考慮する必要があります。

こうした包括的なアプローチにより、製品ライフサイクル全体の環境負荷を正確に評価できるのです。

▼参考:環境省バーチャルウォーターとは

バーチャルウォーターがもたらす影響と私たちの選択

バーチャルウォーターの計算は、単なる数値評価にとどまらず、地域性や国際貿易にも大きな意味を持ちます。

水資源が豊富な地域では主にグリーンウォーターが活用されますが、水不足地域では地下水などブルーウォーターへの依存度が高く、持続可能性に直結します。
輸入国側から見ると、水消費の多い作物を輸入することで国内の水資源を節約する「水の貿易」が可能になります。

しかし輸出国にとっては、生産の集中が地下水枯渇や河川流量減少といった深刻な影響を及ぼすこともあり、慎重な政策設計が求められます。
さらに、この概念は消費者の意識にも直結します。

たとえば、牛肉1キログラムには約15,000リットルもの水が必要とされます。
こうした背景を知ることで、消費者は 水資源負荷の少ない食品や、持続可能な生産を行う企業の商品を選択 する判断が可能になります。

最近注目されているオーツミルクも比較的水の使用量が少なく、環境負荷を抑えた代替食品として人気を集めています。

▼参考:オーツミルクとアーモンドミルクの違いとは?栄養成分と選定のポイントを解説


環境省が提供する自動計算ツールでは、普段の食生活で「どれだけの水を間接的に使っているか」を数値で確認できます。
1日分の食事に含まれるバーチャルウォーター量が、家庭で使う水の数倍に達するケースもあり、この事実は水資源の見えない重要性を浮き彫りにしています。

▼出典:水問題研究所 バーチャルウォーターから考える世界の水問題

バーチャルウォーターの問題点


バーチャルウォーターの計算における環境影響の評価不足は、持続可能な水資源管理において大きな課題となっています。
単に水使用量を計算するだけでは、生態系や地域環境への複合的な影響を十分に捉えられない場合があります。

例えば、農作物の生産で使用される雨水(グリーンウォーター)は、表面的には自然に循環する持続可能な水利用と見なされがちです。
しかし、雨水の利用が森林伐採や湿地破壊を伴う場合、その結果として炭素吸収能力の低下や生物多様性の損失といった重大な環境問題を引き起こす可能性があります。

▼参考:生物多様性とは?森林との関係と企業に求められるTNFD対応をわかりやすく解説

地下水や河川水(ブルーウォーター)の過剰利用も問題です。
特に、水資源が乏しい地域で灌漑や産業利用が進むと、地下水位の低下や河川の流量減少が起こり、地域の水循環が崩壊するリスクがあります。

こうした環境負荷は、バーチャルウォーターの単純な計算では見過ごされやすく、持続可能性を確保するための対策が後手に回る可能性があります。
このため、バーチャルウォーターの計算においては、水使用量だけでなく、それがもたらす環境的な影響を包括的に評価する指標が求められます。

また、地域ごとの詳細なデータの不足や不確実性も計算精度を低下させる要因です。
地域ごとに異なる気候条件、生産技術、水利用状況を考慮しなければ、正確なバーチャルウォーター量を算出することは困難です。

例えば、同じ農作物でも、降水量が十分な地域では主にグリーンウォーターが使用される一方、水資源が限られる地域ではブルーウォーターへの依存が高まります。
この違いを考慮しないと、誤った政策決定や貿易戦略につながる可能性があります。
さらに、データが不十分な場合、生産効率や環境影響を過小評価または過大評価するリスクも高まります。

社会的影響もバーチャルウォーターの課題として見逃せません。
輸出向け生産が優先されることで、地元住民の飲料水や農業用水が不足する事態が発生するケースがあります。

例えば、輸出用農産物の栽培が優先されることで、地元農家が必要な水を確保できず、食糧生産に支障をきたす場合があります。
また、都市部の工業用水が優先されることで、農村地域の住民が水不足に直面することもあります。このような水の偏在は、地域社会の不平等を拡大し、住民の生活基盤を脅かします。

政策面でもバーチャルウォーターを応用する際の課題が存在します。水資源を保全するために規制を設ける場合、国際貿易や経済利益との調整が求められます。

輸出国が自国内の水資源の枯渇を防ぐために輸出規制を導入した場合、国際市場での価格高騰や輸入国の水不足につながる可能性があります。
また、輸出産業の縮小による経済的な影響を考慮しなければならないため、持続可能性と経済利益のバランスを取ることが難しい場合があります。

これらの課題を克服するためには、バーチャルウォーターの評価方法を進化させる必要があります。
水の使用量だけでなく、森林伐採や湿地破壊などの間接的な環境影響を評価する新たな指標を導入することが重要です。

地域ごとの詳細なデータ収集を進め、透明性を高めることで計算の正確性を向上させることが求められます。
社会的影響を軽減するためには、地元住民の声を反映させた水資源利用計画や、輸出と国内利用のバランスを取った政策を設計する必要があります。

まとめ


水は地球上の生命の維持に不可欠な資源であり、私たちの日常生活や産業活動にも欠かせないものです。
しかし、世界の水の使用量は年々増加しており、その内訳を理解することは、持続可能な水資源管理のために非常に重要です。

食品や商品の生産にどれだけの水が必要かを考えることにより、消費者や企業がより持続可能な社会を形作るための参考になると言えます。

▼参考:ウォーターフットプリントが教える持続可能な水資源の未来

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