ウォーターフットプリントが教える持続可能な水資源の未来

私たちの日常生活や経済活動において、水は必要不可欠な資源です。
しかし、その使用量を正確に把握することは、見かけ以上に複雑な課題となっています。
この課題に対する重要な指標として注目を集めているのが、ウォーターフットプリントという概念です。

この概念が注目される背景には、日本に暮らしていると感じにくいかもしれませんが、世界的な水資源の逼迫という深刻な課題があります。
2025年には、中国やアメリカといった大国が水ストレス状態に突入すると言われており、また、WHOによれば世界の8人に1人は慢性的な水不足の状態にあるとのことです。

気候変動の影響による降水パターンの変化、人口増加に伴う水需要の増大、そして産業活動の拡大により、水資源の持続可能な利用が国際的な課題となっています。

ウォーターフットプリントは、これらの問題に対する理解を深め、効果的な対策を講じるための重要なツールとして位置づけられています。

目次

ウォーターフットプリントとは

ウォーターフットプリントの定義

ウォーターフットプリントは、製品の原材料の栽培・生産、製造・加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルというライフサイクル全体における水資源の使用量を包括的に評価する指標であり、水資源の持続可能な利用を目指す上で極めて重要な概念です。

ウォーターフットプリントの定義は、地球上の水資源がどのように使用され、またどの程度の負荷がかかっているかを正確に把握することを目的としています。
その核心となるのが、ブルーウォーターフットプリント、グリーンウォーターフットプリント、グレーウォーターフットプリントという三つの構成要素です。

▼出典:環境省 ウォーターフットプリント算出事例集

ブルーウォーターフットプリントは、地表水や地下水などの淡水資源から直接取水される水量を示します。
これには、農業用灌漑水や工業用水、家庭で使用される水が含まれます。この要素は、人間活動が地域の淡水資源に与える直接的な影響を評価する基礎となります。

一方、グリーンウォーターフットプリントは雨水などの自然の水循環に由来し、特に土壌中に保持される水分を指します。
この水分は、農作物や森林などの植物が成長する際に利用されます。グリーンウォーターフットプリントは、食料生産や生態系の維持における自然の貢献を評価するものであり、従来の水資源管理では見過ごされがちだった重要な要素です。

さらに、グレーウォーターフットプリントは、汚染された水を環境基準まで希釈するために必要な水量を指します。
この要素は、水質汚染の程度を具体的な数値で評価するため、環境負荷を定量的に把握する上で極めて重要です。これにより、企業や政策立案者は、単に水を使用する量だけでなく、その質への影響も考慮した意思決定が可能になります。

ウォーターフットプリントは、直接水消費量間接水消費量の区別にも基づいています。直接水消費量は家庭や工場で使用される水を指し、間接水消費量は製品やサービスの生産過程で使用される水、いわゆる「仮想水(バーチャルウォーター)」を含みます。
例えば、1杯のコーヒーの生産には、コーヒー豆の栽培や加工を含めて約140リットルの水が必要とされます。このように、私たちの日常生活に密接に関係する商品の背後には、膨大な水資源の使用が存在します。

また、ウォーターフットプリントの評価には、地理的および時間的な側面も含まれます。
水の使用場所や使用時期が環境に与える影響は大きく異なります。

例えば、水不足が深刻な地域での1リットルの水使用は、水資源が豊富な地域での使用と比べて、はるかに大きな環境負荷をもたらします。
このような観点を取り入れることで、地域や状況に応じた水資源管理が可能になります。

さらに、この指標は製品やサービスのライフサイクル全体を通じた水使用を包括的に評価します。
原材料の調達、製造、使用、廃棄といった各段階での水使用と環境負荷を統合的に分析することで、企業や政策立案者は、より実態に即した効率的な水資源管理を行うことができます。

ウォーターフットプリントは、単なる水の使用量を測定するだけではなく、水資源の持続可能な利用を評価し、改善するための強力なツールとして機能しています。
この指標は、企業の環境負荷評価、製品の環境ラベリング、国際的な水資源政策の立案など、幅広い分野での応用が可能です。

バーチャルウォーターとの違い

一方で、バーチャルウォーターの考え方は、製品やサービスを生産する過程で必要とされる全ての水の総量に焦点を当てています。たとえば、コーヒー1杯を生産するために、コーヒー豆の栽培から収穫、加工に至るまでに使用される水の総量が「バーチャルウォーター」となります。

この考え方は特に、水資源の少ない地域が食料や製品を輸入することで「間接的に水を輸入している」ことを明らかにする際に用いられます。
これにより、国際貿易を通じた水資源の地理的再分配や、特定地域における水不足の緩和がどのように進んでいるかを評価する手がかりを提供しています。

上記から、政策立案や企業戦略への応用においても違いがあります。
バーチャルウォーターは、主に国際貿易における水資源の移動を理解するために利用されつるため、水不足の国が食料や製品を輸入することで、国内の水資源の消費を抑える一方で、輸入元の水資源を間接的に利用するという形で「水の輸入」が行われる状況を分析する際に役立ちます。

一方、ウォーターフットプリントは、企業の環境負荷評価やサプライチェーンの最適化、製品の環境ラベリングなど、より広範な用途で活用されます。
企業はこれを通じて、自社の水使用が環境や地域社会に与える影響を把握し、持続可能な事業運営を進めるための戦略を立てることができます。

▼出典:富山県 仮想水問題

▼参考:バーチャルウォーター(仮想水)とは?:水の見えない負荷を解説

ISO14046について

ISO14046は、2014年に国際標準化機構(ISO)によって制定された国際規格で、水資源の利用が環境に与える影響を科学的かつ体系的に評価する枠組みを提供します。

この規格が生まれた背景には、ウォーターフットプリントという概念の国際的な注目の高まりがあります。
ウォーターフットプリントは、製品やサービスのライフサイクルにおける水使用量を定量化し、その利用が環境や社会に与える影響を評価する指標として広く認識されています。

しかし、評価方法や基準が一貫しておらず、国際的に信頼性の高い標準規格の必要性が指摘されていました。こうしたニーズに応える形で、ISO14046が制定され、ウォーターフットプリントの実施方法を標準化し、評価の信頼性と比較可能性を大きく向上させました。

この規格は、ライフサイクルアセスメント(LCA)の原則を基盤としており、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる水資源利用を多角的に評価します。
この規格では、評価に使用されるデータが時間的、地理的、技術的に適切であるだけでなく、一貫性と完全性が確保されていなければならないと規定しています。

この厳格なデータ管理により、評価結果の信頼性が確保され、異なる製品や組織間での比較が可能となります。
また、規格では評価結果の報告方法についても詳細なガイドラインを設けています。

報告書には、評価の目的、範囲、使用した方法論、データの品質、結果の解釈を明確に記載することが求められます。
この透明性により、第三者が評価結果をレビューできるようになり、企業や組織が環境への取り組みを信頼性を持って示すことが可能になります。

日本規格協会グループなどで購入でき、邦訳は無く英語版のみとなっております。

▼出典:日本規格協会グループ ISO14046

ウォーターフットプリントの計算方法

ウォーターフットプリントの算定における目的設定は、評価結果をどのように活用するのかを明確にする、算定プロセスの最初かつ最も重要なステップです。

この段階では、算定の意義や範囲を正確に定めることで、後のデータ収集や分析において効率的で信頼性の高いプロセスを構築することが可能になります。

算定目的は、主に製品やサービスの水影響評価、組織全体の水資源管理戦略、情報開示、そしてステークホルダーとの関係構築のために設定されます。
それぞれの目的は、算定プロセスの進め方やデータの精度要件に大きく影響を与えるため、明確かつ具体的な設定が求められます。

・製品やサービスにおけるウォーターフットプリントの算定目的

ライフサイクル全体を通じた水影響評価と効率改善の機会を特定することが挙げられます。

例えば、製品の原材料調達から製造、輸送、使用、廃棄までの各段階で水使用量を定量化することで、どの工程が最も多くの水を消費しているかを把握し、効率化を図ることができます。

さらに、水ストレスの高い地域で製造を行っている場合には、算定結果を基に地域特性に応じた意思決定を行い、環境負荷を最小限に抑えることが可能です。

また、製品設計の初期段階でウォーターフットプリントを考慮することで、環境負荷を削減する選択肢を事前に評価し、最適化することにも役立ちます。

・組織全体におけるウォーターフットプリントの算定目的

主に水資源管理戦略の評価と水関連リスクの低減が挙げられます。企業は持続可能な水利用を目指す上で、自社の水使用量を把握し、それがどの程度効率的であるかを評価する必要があります。

たとえば、水使用削減目標を掲げる企業では、算定結果を基に進捗をモニタリングし、戦略の有効性を検証することが求められます。

また、気候変動や人口増加による水不足リスクが高まる中、ウォーターフットプリントを活用してリスクの高い地域やプロセスを特定し、早期に対策を講じることができます。
これにより、事業の持続可能性を確保し、ステークホルダーからの信頼を維持することが可能になります。

・情報開示を目的とするウォーターフットプリントの算定

投資家や顧客、規制当局に対して透明性の高いデータを提供することは、企業の信頼性を高めるために不可欠です。
特に、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)など、国際的な開示フレームワークに沿った報告では、算定結果の信頼性と比較可能性が強く求められます。

▼参考:CDPとは!?2024年版の変更点について詳しく解説

さらにウォーターフットプリントの算定結果を報告書やサステナビリティレポートに活用することで、企業の持続可能性への取り組みを具体的に示し、投資家や顧客との信頼関係を強化することができます。

また、製品の環境性能を示すエコラベルや認証プログラムにおいても、算定結果は重要な基盤となります。

・その他のウォーターフットプリントの算定目的

ウォーターフットプリントの算定はまた、ステークホルダーとの対話や協働を深めるためのツールとしても活用されます。

たとえば、地域社会とのコミュニケーションにおいては、算定結果を通じて事業活動が地域の水資源に与える影響を示すことで、相互理解を促進できます。

また、サプライチェーン全体での水管理を改善するために、サプライヤーと協働し、算定結果を基に水使用削減の目標を共有することが可能です。
これにより、持続可能性への取り組みを企業単体ではなく、全体として強化することができます。

目的設定において重要なのは、算定結果がどのように利用されるか、またその対象となる読者が誰であるかを明確にすることです。
内部利用を目的とする場合には、特定のプロセスや地域に焦点を当てた詳細な分析が求められる一方で、外部への情報開示を目的とする場合には、ライフサイクル全体を網羅した包括的な評価が必要となることが多いです。

さらに、規制対応や自主的な取り組みといった目的の違いによっても、求められるデータの品質や精度が異なるため、それぞれの用途に応じた算定プロセスを設計することが求められます。

▼出典:環境省 ウォーターフットプリント算出事例集

イベントリ分析

ウォーターフットプリントの算定目的を明確にした後、次に進むのがインベントリ分析です。このプロセスは、製品やサービスのライフサイクル全体を通じた水の投入量や排出量を正確に把握し、評価の基礎を築く重要な段階です。
インベントリ分析では、実測データや既存のデータベースを活用して、水の流れを定量化し、透明性と信頼性の高い評価を行います。

インベントリ分析の最初のステップは、対象となるシステムの全体像を詳細に把握することです。具体的には、ライフサイクル全体を通じてどのプロセスがどれだけの水を消費し、排出しているのかを明らかにすることが求められます。

この段階では、算定目的に応じたシステム境界を設定し、評価対象を特定します。
システム境界には、製品やサービスの生産、流通、消費、廃棄までのすべての段階が含まれる場合もあれば、特定のプロセスや地域に限定される場合もあります。

例えば、農業製品では栽培段階での灌漑用水の使用が主な焦点となる一方、工業製品では製造工程における水の利用が重要視されます。

▼出典:環境省 ウォーターフットプリント算出事例集 ピーマンのシステム境界

次に、水投入量と排出量の定量化が行われます。
ここでは、製品やサービスの各ライフサイクル段階でどれだけの水が使用され、どれだけの水が環境に戻されるのかを測定します。直接水使用量は、取水源別(地表水、地下水、雨水など)に分類され、実測データに基づいて算出されます。

取水量から排水量を差し引き、蒸発や製品中に保持される水分量を考慮することで、実際に消費された水量を特定します。
この際、水道メーターや灌漑記録といった信頼性の高いデータを使用することが求められます。

また、間接水使用量も評価対象となり、原材料の調達やエネルギー生産に関連する水利用が含まれます。
これには、ライフサイクルインベントリデータベースや産業連関表などのデータソースを活用することが一般的です。

さらに、収集したデータの品質を評価し、不確実性を最小限に抑えることが求められます。データの時間的代表性(いつのデータか)、地理的代表性(どの地域のデータか)、技術的代表性(どのような技術条件下で得られたデータか)を確認し、信頼性を確保します。

もしデータにギャップがある場合は、業界平均値や文献データを活用して補完しますが、その際には根拠を明確にし、記録として残すことが重要です。この透明性が、最終的な評価結果の信頼性を支える鍵となります。

収集したすべてのデータは、機能単位(例:製品1kg、またはサービス1回の提供)に基づいて統合されます。
この段階では、ブルーウォーター(地表水・地下水)、グリーンウォーター(土壌中の雨水)、グレイウォーター(水質汚染による仮想的な水量)の各要素について個別に評価し、それぞれの利用状況を明確化します。

たとえば、農産物の栽培においては、ブルーウォーターとグリーンウォーターが主な要素となる一方、製造業ではブルーウォーターとグレイウォーターが重要な評価対象となることが一般的です。

最後に、インベントリ分析の結果を文書化し、透明性を確保します。
報告書には、目的と調査範囲、使用したデータの品質、算定方法、算出結果を明確に記載し、第三者が容易に検証可能な形にします。

また、結果のレビューと必要に応じた更新を定期的に行い、最新のデータや技術を反映させることも重要です。
このプロセスにより、ウォーターフットプリント算定の基礎が確立され、次の影響評価段階への信頼性の高いデータが提供されます。

影響評価

影響評価では、単なる水使用量の測定にとどまらず、地域ごとの水ストレスや水質汚染、生態系への影響、さらには地域社会に対する影響を総合的に分析することを目的としています。
評価結果は、持続可能な水資源管理や戦略的な意思決定を行うための基盤となり、特に地域特性を考慮した詳細な分析が求められます。

影響評価の重要な特徴の一つは、地域特性を評価に組み込む点です。水資源の利用は、地域ごとの水供給状況や環境条件に大きく依存します。
同じ量の水を使用しても、水が豊富な地域での利用と、水不足が深刻な地域での利用では、その影響の大きさは大きく異なります。

例えば、ブルーウォーター(地表水や地下水)の利用においては、水ストレスの高い地域での使用は、その環境負荷が大きく評価されます。
このため、影響評価では地域ごとの水ストレス指数や水不足リスクを計算に組み込み、地域の特性に応じた環境負荷を特定することが重要です。

▼出典:環境省 ウォーターフットプリント算出事例集

さらに、影響評価は、主に4つの側面に焦点を当てて行われます。

・第一に、水不足への影響を評価することです。これは、ブルーウォーターの利用が地域の水供給能力に与える負荷を分析し、持続可能な利用の限界を理解するプロセスです。

・第二に、生態系への影響を評価します。水の使用によって河川や湖沼の水量が減少することが、生態系の健康にどのような影響を与えるかを分析します。
特に湿地や河口域では、水量の変化が生態系全体に及ぼす影響が顕著であるため、慎重な評価が必要です。

・第三に、水質への影響を評価します。これは主にグレイウォーターフットプリントの算定に関連し、汚染物質が水環境に及ぼす負荷を明らかにします。

排水中の汚染物質濃度や自然環境中の基準値を考慮し、希釈に必要な水量を計算することで、水質汚染の環境負荷を定量化します。
特に、BOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)といった指標を用いて、水質の変化が生態系や地域住民の生活に与える影響を評価します。

・第四に、社会的影響も考慮します。特に水供給が限られた地域では、企業の水使用が地域住民の水利用を制限している場合があり、このような競争の状況を分析することが求められます。

影響評価の中核となるのが、特性化と環境負荷の定量化です。
特性化では、インベントリ分析で収集したデータをもとに、地域特性や環境負荷を考慮した指標に変換します。たとえば、ブルーウォーターの使用に対して地域ごとの水ストレス指数を適用し、水不足リスクを数値化します。

同様に、グレイウォーターについては、汚染物質の排出が水質に及ぼす影響を算出し、その負荷を評価します。
これらの特性化プロセスにより、影響評価は単なる水使用量の計測を超え、環境負荷を具体的かつ比較可能な形で示すことができます。

評価が完了した後は、得られた結果を解釈し、具体的な改善策を提案します。たとえば、水不足リスクが高い地域でのブルーウォーター利用を削減するために、リサイクル水の利用を促進したり、グレイウォーターの削減を目指して排水処理技術を強化することが考えられます。
さらに、評価結果は製品設計やサプライチェーン管理の改善に活用され、持続可能な水資源利用を促進するための重要な指針となります。

ウォーターフットプリントの影響評価は、水資源の利用が環境や社会に及ぼす影響を総合的に理解するための不可欠なプロセスです。
地域特性や環境負荷を考慮し、水不足、生態系、水質、社会への影響を多面的に分析することで、持続可能な水資源管理に向けた具体的な行動を促します。

このプロセスを適切に行うことで、企業や政策立案者は、より責任ある水資源利用を実現し、環境負荷の低減に貢献することが可能になります。

▼出典:環境省 ウォーターフットプリント算出事例集

日本におけるウォーターフットプリント

日本におけるウォーターフットプリントの取り組みは、国内外の水資源管理や環境保全の重要性が高まる中、より一層注目されています。四季に恵まれ、水資源が比較的豊富な国とされる日本ですが、地域や産業によって水利用の状況には大きなばらつきがあります。

また、国際貿易やサプライチェーンを通じて海外の水資源にも依存している現状を考えると、データに基づいた包括的な分析と持続可能な水管理の実現が求められています。
ウォーターフットプリントは、そのための有効な手段として、水の使用量だけでなく、その使用が環境や社会に与える影響を定量化し、具体的な課題を明確化する役割を果たしています。

日本国内での水利用を考えると、農業分野がその中心的な役割を担っています。農業用水は日本全体の水使用量の約7割を占め、特に稲作では大量の灌漑用水が必要です。

これに伴い、水資源や生態系への影響が懸念される地域も少なくありません。ウォーターフットプリントの算定を行うことで、こうした影響を科学的に評価し、水ストレスの高い地域では、灌漑技術の改良や、水をより効率的に使用できる作物への切り替えなど、適切な対策を講じることが可能です。

また、農業分野では、ブルーウォーター(地表水・地下水)の利用だけでなく、グリーンウォーター(降雨を利用した土壌水分)の活用効率も重要な課題です。これらの改善により、持続可能な農業と地域水資源の保全を両立することが期待されています。

工業分野もまた、日本のウォーターフットプリントにおける重要な領域です。日本は自動車や電子機器といった工業製品の主要な生産・輸出国であり、これらの製造過程では大量の水が消費されます。

さらに、製造プロセスから排出される水質汚染も環境負荷の一因となっています。
ウォーターフットプリントを活用することで、製造工程における水使用量を詳細に把握し、節水技術や水処理プロセスの効率化を進めることが可能です。

また、グローバルな視点で見ると、海外のサプライチェーンにおける水使用も見逃せません。
例えば、電子部品や素材の生産が海外で行われる場合、その地域の水資源への依存度や環境影響を評価し、持続可能な供給体制を整備する必要があります。
このように、ウォーターフットプリントを基にしたデータドリブンなアプローチは、国際的な水資源管理にも寄与します。

一方、都市部での家庭用水の利用もウォーターフットプリントの観点から見直しが求められています。都市化が進む日本では、家庭での水使用量が増加する一方、生活排水による水質汚染も問題視されています。
ウォーターフットプリントを算定することで、無駄な水使用や水質汚染の実態を明らかにし、具体的な削減策を講じることが可能です。

例えば、節水型の家電製品や配管技術の普及、排水リサイクルシステムの導入といった技術的ソリューションは、家庭レベルでの水使用の効率化を促進します。
また、住民の意識向上を図ることで、日常生活での小さな取り組みが積み重なり、ウォーターフットプリント削減に大きく寄与します。

さらに、日本は多くの食品や工業製品を輸入しており、それらの生産地で使用される「バーチャルウォーター」も重要な要素です。
輸入される農産物や畜産物の生産には、生産地で大量のブルーウォーターやグリーンウォーターが使用されています。

これらの輸入品に伴う水資源利用を評価することで、日本の消費が海外の水資源に及ぼす影響を正確に把握し、持続可能な調達や消費の促進に役立てることができます。
この視点は、特にサプライチェーン全体での環境負荷を考慮する際に重要です。

政策や教育の分野でも、ウォーターフットプリントの活用は広がりを見せています。環境省は、企業や自治体がウォーターフットプリントを活用して水管理戦略を策定できるよう、ガイドラインや事例を提供しています。
これにより、企業は自社の水使用状況を透明性を持って把握し、改善策を講じることが可能です。

一方で、教育現場では、ウォーターフットプリントの概念を通じて水資源の重要性を次世代に伝える取り組みが進んでいます。
これにより、地域社会や企業での持続可能な水管理への理解が深まり、将来に向けた具体的な行動につながることが期待されています。

今後の展望

ウォーターフットプリントの今後の展望を考える上で、世界的な動向と日本の取り組みを融合させることは極めて重要です。
水資源の持続可能な利用と管理は、もはや一国だけの問題ではなく、グローバルな課題として国際社会が共同で取り組むべきテーマとなっています。

現在、SDGs(持続可能な開発目標)において、目標6(安全な水と衛生)、目標12(持続可能な生産と消費)、目標13(気候変動対策)はすべてウォーターフットプリントと密接に関係しています。

これらの目標を達成するためには、各国が水使用の現状を的確に把握し、持続可能性を考慮した具体的な行動を取る必要があります。
この点で、日本が国内外で培ってきたデータ収集、分析、技術革新のノウハウは、国際社会にとって重要な貢献を果たす基盤となるでしょう。

▼参考:期限迫るSDGs(持続可能な開発目標)│現在の進捗について最新レポートを解説

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