生物多様性とは?森林との関係と企業に求められるTNFD対応をわかりやすく解説

生物多様性は、生命の根幹を支える不可欠な要素です。
あらゆる生物が織り成す複雑な関係性が、自然環境のバランスを保ち、人間社会に食料、水、医薬品などの恩恵をもたらしています。

中でも森林は、地球上の陸域生物の約8割が生息する生物多様性の宝庫であり、気候調整や水循環などの重要な生態系サービスを支えています。
しかし、森林伐採や気候変動がその多様性を脅かし、経済活動や人々の暮らしに深刻な影響を及ぼし始めています。

こうしたリスクに対応するため、国際社会や企業は森林認証やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みを通じて、自然資本への依存や影響を可視化し、持続可能な経営と環境保全の両立を目指しています。

本記事では、生物多様性の重要性と森林との関係、そして未来につなげるための具体的な取り組みを解説します。

目次

生物多様性の重要性


生物多様性の重要性は、地球上の生命が存続する仕組みそのものであり、人間社会の基盤を支える要素として欠かせません。
生物多様性は、生態系、種、遺伝子の3つのレベルで構成され、それぞれが生命の連鎖を支え、自然環境の安定と持続可能性を確保する役割を果たしています。

その豊かさは、自然界の健全な循環を可能にし、人類に多様な恩恵をもたらします。
生物多様性が果たす役割を深く理解することで、私たちが直面する環境問題や社会課題に対する解決策の重要なヒントが得られます。

▼参考:ネイチャーポジティブとは?注目される理由や世界的な潮流とその背景

生物多様性が自然環境に与える恩恵

生物多様性は、自然界の生態系を維持し、安定させる鍵となる存在です。
各種の生物が異なる役割を担うことで、自然環境が持つ多機能性が生まれます。
例えば、植物は光合成を通じて酸素を供給し、炭素を吸収します。

その植物を食料とする動物や、それを分解する微生物が存在することで、栄養分の循環が可能になります。
この相互作用は、土壌の健康を保ち、気候を調整し、水資源を浄化するなど、地球規模の安定に寄与しています。

特に、生物多様性の豊かな地域では、自然災害や環境の変動に対する耐性が高いことが知られています。
異なる種が多く共存することで、一部の種が環境の変化に影響を受けても、他の種がその役割を補完する仕組みが機能します。

このように、生物多様性は自然界の「保険」として働き、外的なストレス要因に対する回復力(レジリエンス)を高める役割を果たしています。

▼出典:環境省 生物多様性とはなにか

人間社会における生物多様性の価値

生物多様性は、私たちの生活に密接に結びついています。
その恩恵は、食料、医薬品、産業資源、文化的価値など、さまざまな形で現れます。

食料と農業

農業は、生物多様性に依存する典型的な分野です。
作物の成長を支える土壌微生物、害虫を制御する天敵、そして受粉を行う昆虫たちは、農業生産を支える不可欠な存在です。

ミツバチやチョウなどの受粉者が減少すれば、果物や野菜の収穫量が大幅に減少し、世界的な食料危機を招く可能性があります。
また、遺伝的多様性は、病害や気候変動に対する作物の適応力を高めるための重要な資源です。

医療と科学

医療分野においても、生物多様性は極めて重要です。
多くの薬用成分は自然界に由来しており、例えば抗がん剤のタキソールはイチイの樹皮から抽出されたものです。
また、新薬の開発には、未発見の化学物質や遺伝子資源が重要な役割を果たします。
生物多様性が損なわれると、こうした貴重な資源が失われ、医療の進展に大きな影響を及ぼします。

経済と文化

生物多様性は経済活動にも直結しています。
農業、漁業、林業などの一次産業はもちろん、観光業もまた、豊かな自然環境に依存しています。
さらに、自然は文化的価値の源泉でもあります。

例えば、日本の和食文化は、四季折々の自然の恵みを活かすことで成り立っており、その背後には豊かな生物多様性が存在しています。
また、自然は芸術や宗教、伝統文化に深いインスピレーションを与え、人々の精神的な豊かさを支えています。

生物多様性の損失がもたらすリスク

生物多様性の損失は、自然環境と人間社会の両方に深刻な影響を及ぼします。
森林伐採や農地開発、過剰な資源利用、外来種の侵入、気候変動などが主な要因であり、これらは生態系サービスを著しく低下させます。

例えば、森林の減少は炭素吸収能力を低下させ、気候変動を加速させます。
また、漁業資源の減少は食料供給に影響を与え、経済的損失を招きます。

さらに、感染症の拡大も生物多様性の損失と関連しています。
多様な生物が存在することで、病原体の拡散を抑える「希釈効果」が働きますが、生物多様性が失われるとこの効果が弱まり、新興感染症の発生リスクが高まります。
COVID-19のパンデミックは、生態系のバランスが崩れることがどれほど人間社会に影響を及ぼすかを示す一例です。

生物多様性の保全がもたらす未来

生物多様性の保全は、人類の未来を守るだけでなく、自然と調和した社会を構築するための鍵です。
保全の取り組みは、自然保護区の設置や生態系の修復、持続可能な農業や漁業の推進など、多岐にわたります。
さらに、再生可能エネルギーの導入やグリーンインフラの開発は、生物多様性を保ちながら社会の発展を支える効果的な手段です。

また、生物多様性の価値を広く共有し、意識を高めることが重要です。
教育や啓発活動を通じて、個人やコミュニティが生物多様性を守る行動を取ることで、その効果は地域から地球規模へと広がります。

生物多様性の保全は、単なる環境保護の枠を超え、人類と自然の共生を目指す取り組みです。
その実現に向けた努力は、持続可能な未来への投資であり、次世代により良い地球を引き継ぐための責任と言えるでしょう。
この重要性を深く理解し、行動に移すことが、私たち一人ひとりに求められています。

▼出典:三重県農林水産部みどり共生推進

生物多様性と森林


生物多様性と森林は、地球の生態系において密接に結びついており、その関係性は生命の維持と自然環境の安定にとって欠かせません。
森林は、地球上の陸域生物の約80%が生息する場所であり、世界の生物多様性の宝庫といえます。

この豊かな多様性が、森林の健全性と機能性を支え、気候調整や水資源の循環といった重要な生態系サービスを提供しています。
一方で、森林の減少は生物多様性の喪失を引き起こし、人類を含む地球全体の環境に深刻な影響を与える可能性があります。

森林は、生態系サービスの供給源として、地球規模の安定を支えています。
熱帯雨林、温帯林、針葉樹林といった多様な森林タイプは、それぞれ異なる種や生態系を育み、特定の地域や環境条件に適応しています。
この多様性は、地球全体の生態系におけるバランスを維持するための要素となります。

たとえば、アマゾン熱帯雨林は、世界の酸素供給の20%を担う「地球の肺」として知られており、無数の動植物種が生息しています。
ここで見られる種の多くは、まだ科学的に十分に研究されておらず、新たな医薬品や産業資源の可能性を秘めています。

同様に、森林は炭素を吸収し、温室効果ガスの削減に寄与する重要な役割を果たしています。
特に土壌や植物に蓄積された炭素は、気候変動の緩和において欠かせない要素です。

また、森林は水循環の調整にも寄与しています。
樹木の蒸散作用を通じて水分を大気中に放出し、雨を降らせる役割を果たすことで、地域の水資源を維持します。
この過程は、森林が豊かな生物多様性を持つことでより効率的に機能し、土壌浸食の防止や洪水の軽減にもつながります。

森林の生物多様性は、単なる「種の数」の豊かさを超えて、その内部で展開される複雑な相互作用に依存しています。
異なる動植物が互いに影響を与え合うことで、森林は安定性を保っています。
たとえば、植物は光合成を行い、動物に食料を提供します。一方で、動物は植物の種子を拡散し、森林の再生を助けます。
このような共生関係は、生物多様性が豊かであるほど強化され、森林全体の回復力を高めます。

さらに、森林は遺伝的多様性の温床でもあります。
遺伝的多様性は、特定の種が環境変化や病害に適応する能力を支える基盤であり、生物多様性全体の健全性を保つ要素となります。

たとえば、森林に生息する特定の樹種が病害に耐性を持っていれば、その遺伝情報が他の地域での植生回復に活用される可能性があります。

▼出典:国立環境研究所 森林を守ることが海の生物多様性を守ることにつながる

一方で、森林の減少や劣化は、生物多様性に壊滅的な影響を与えます。
森林伐採や農地開発、インフラ整備などの人間活動が原因で、世界の森林は急速に失われています。これにより、多くの種が生息地を失い、絶滅の危機に瀕しています。
特に、絶滅危惧種の多くは森林に依存しており、森林破壊はその存続に直接的な脅威となります。

また、森林の喪失は地球規模の環境バランスを崩し、気候変動を加速させます。
森林が吸収していた炭素が大気中に放出されることで、温室効果ガスの濃度が高まり、気温上昇や極端な気象現象が増加する可能性があります。
この負の連鎖は、森林とその生物多様性だけでなく、人間社会全体にも深刻な影響を及ぼします。

日本でも、高齢化や木材の価値低下で人工林を管理する人が少なくなっており、適切な管理が行われないようになっています。
その結果、災害の原因になったりしています。

また、キャンプ用に山を安価で譲ってもらったのは良いものの、山の管理が大変で、キャンプをするどころではないみたいな話もあったりします。

そんな中、上記のようなことを減らし持続可能な森林の維持していくために、森林認証の制度が徐々に浸透しています。

森林認証制度は、長期の森林計画を立てたり、生物多様性の保全を心掛けた森林経営をすることなどが認証制度の取得条件になっており、森林認証を受けた木材・木材の製品はラベルを貼ることで持続可能性を考える消費者から支持を受けています。

各国で取り組みがあり、必ずしも内容は統一されていませんが、FSC(森林管理協議会)とPFFC(PFFC評議会)が国際的に最も普及しています。

▼出典:林野庁HP 森林認証・ラベリング

特にスウェーデンは、生物多様性の面で先進的な取り組みを行っています。

スウェーデンの森林は、国土の70%以上を占めており、かつては森林破壊の危機に直面していましたが、1903年に森林保護法(森林法)を制定し、伐採後の森林再生が始まりました。
この取り組みの結果、スウェーデンは現在、森林によるCO2の吸収量がヨーロッパで最も多い国の一つとなっています。

スウェーデンの木材は、その品質と耐久性で知られています。
特に、オウシュウアカマツとオウシュウトウヒは、その硬さと粘り強さで注目されています。これらの木材は、家具や建築材料として利用されています。

上記のように、経済的な側面をクリアーした上で昨今は生物多様性の保全に力を入れております。
1994年に「Swedish Forestry Act」を制定し、生物多様性と生産性の双方に重きを置くことが明記されました。
また、スウェーデン農科大学(SLU)やForest Stewardship Council(FSC)などの機関が、持続可能な森林経営の研究や実践を行っています

例えば北部のラップランド地域には、天然の原生林が広がって多くの希少種が生息しているますが、その生態系をしっかり守っています。
森林保全、生物多様性保全に取り組む各国のモデルになっていると言えます。

生物多様性の開示について

企業が自然資本にどの程度依存しているかを明確にすることは、持続可能な経営を実現するための第一歩です。
たとえば、農業、漁業、林業のほか、製造業やサービス業も多かれ少なかれ水資源、土壌、生態系サービスに依存しています。

このような自然資本が劣化すると、原材料供給や事業運営が脅かされるだけでなく、サプライチェーン全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
生物多様性の開示は、こうした依存関係を可視化し、企業が自然資本に基づくリスクを適切に管理できるよう支援するものです。

TNFDは、こうしたリスク管理を包括的に行うための標準化されたフレームワークを提供しています。
同枠組みでは、企業が自然資本に関連する「リスク」「依存」「影響」「機会」を四つの観点から評価することを推奨しています。
このアプローチの鍵となるのが「LEAP」フレームワーク(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)です。

具体的には、企業がまず事業の影響を及ぼす地域を特定し、次にその影響の範囲や深刻度を評価します。
その後、得られたデータを基にリスク管理や持続可能性向上のための計画を策定し、実行に移します。
たとえば、製造業が原材料供給元である森林の劣化に気づき、持続可能な調達戦略を立案することが可能です。

さらに、TNFDはTCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)の成功を基盤に構築されており、気候変動リスクと自然関連リスクの両方を統合的に管理する仕組みを整えています。
この統合的アプローチにより、企業はリスクを個別に管理するのではなく、全体としての戦略を立てることができます。

気候変動対策としての植林活動が、生物多様性の保全や地域の経済発展にも寄与するような多面的なメリットを生み出すことが可能になります。

▼参考:TCFD終了!?新しい気候変動開示基準 IFRSと日本への影響について

生物多様性の開示はまた、投資家や消費者との信頼構築にも欠かせません。
ESG投資が急成長している中で、生物多様性に配慮した企業は投資家からの高い評価を受ける傾向にあります。
透明性を確保し、持続可能な活動を具体的に示すことは、投資の呼び込みだけでなく、消費者の支持やブランド価値の向上にもつながります。

たとえば、食品業界では持続可能な漁業認証を取得し、それを公表することで、消費者の購買行動にポジティブな影響を与えている事例が増えています。

▼参考:ESGとは?サステナビリティ経営の基礎と最新トレンドを解説

規制面でも、早期の生物多様性リスク開示は企業にとって重要です。
EUの「自然回復法」や「グリーンディール」などの政策が進む中、環境への影響を開示しない企業は、市場から淘汰されるリスクに直面しています。

TNFDは、規制の厳格化に対応するためのツールとしても機能し、企業が将来の法規制への準備を整えると同時に、新しい市場機会を創出する手助けをしています。

総じて、生物多様性の開示は、環境リスクの低減、ステークホルダーとの信頼構築、規制対応、そして競争優位性の確保において極めて重要な役割を果たしています。
TNFDの枠組みを活用することで、企業は自然資本に関するリスクと機会を正確に把握し、持続可能な社会の実現に向けた具体的な行動を取ることが可能となります。

この取り組みは、単なる環境対策にとどまらず、未来志向の経営戦略の一環として捉えるべきです。
生物多様性の保全と経済活動の調和を図ることで、企業は持続可能な成長と長期的な競争力を同時に実現する道を切り開くことができます。

▼参考:TNFDとは│TCFDやCDPの整合性を最新情報と合わせて解説

まとめ


森林とその生物多様性を保全することは、地球の未来を守るための鍵です。
持続可能な森林管理や自然保護区の拡大は、生物多様性を維持するだけでなく、気候変動への対策としても有効です。
また、地域コミュニティが森林資源を適切に活用し、経済活動と環境保護を両立させる取り組みも重要です。

さらに、技術革新や政策支援を通じて森林減少を防ぎ、生態系の修復を進めることが求められます。
たとえば、衛星技術を活用した森林モニタリングや、再植林プロジェクトによる生態系再生が具体的な手段として挙げられます。

森林と生物多様性は、単なる自然資源ではなく、人類が存続するための基盤です。
その価値を正しく認識し、保全に向けた行動を起こすことが、持続可能な地球を築くための重要な一歩となるのです。

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