中小企業のための脱炭素経営入門|6つのステップで始める取り組み

地球温暖化対策が加速する今、「脱炭素経営」という言葉を耳にする機会が増えています。
「うちは中小企業だから関係ない」と思っていませんか?
実は、その考え方が数年後の取引リスクにつながりかねません。

実際、帝国データバンクが2024年に実施した調査(回答2,849社)によると、最も多く求められているのは「省エネルギー(使用量削減や設備更新など)」で44.9%
続いて「CO2排出量の算定(32.4%)」「グリーン製品の仕入れ(28.2%)」「CO2削減目標の策定(27.5%)」が上位に並びました。

一方で、「再生可能エネルギーの利用」は21.5%、「カーボンフットプリント(CFP)の算定・開示」「SBT認定の取得」といった一歩踏み込んだ取り組みは5%未満と、まだ限られた企業にとどまっています。

このデータが示すのは、今の段階では高度なテクノロジー投資よりも、省エネ・排出量の見える化といった基本的な対応から着手するのが現実的で、取引先からの信頼にもつながるということです。
「待つ」のではなく、こうした要請が来る前から動き出しておくことが、自社の商機を広げる第一歩になります。

▼出典:中小企業庁 第1節 脱炭素化・GX

本記事では、脱炭素経営に初めて取り組む中小企業の担当者の方々に向けて、6つのステップで脱炭素経営の基礎から実践までを具体的な参考資料の紹介も含めて、わかりやすく解説しています。

目次

ステップ1. 脱炭素経営の基礎を理解する

1-1. カーボンニュートラルとは?

まず押さえておきたいのは「カーボンニュートラル」という言葉の意味です。
これは、企業や社会が排出する温室効果ガスの量と、森林整備や吸収・除去技術などで取り除く量をプラスマイナスゼロにすることを指します。

たとえば、工場から年間100トンのCO₂を排出した場合、同じ量のCO₂を吸収できる森林を整備したり、技術で回収すれば、差し引きゼロという状態になります。
この「排出した分を同じ量だけ吸収・除去して帳尻を合わせる」という考え方が、カーボンニュートラルの基本です。

1-2. 日本政府の方針と中小企業に求められる動き

日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しており、この方針は大企業だけでなく、中小企業にも影響を及ぼします。
なぜなら、今後はサプライチェーン全体での排出削減が求められ、主要な取引先から「環境への取り組み状況を示してください」と具体的な要請が来るケースが増えるからです。

政府の方針や最新情報を押さえるには、環境省が公開している「脱炭素ポータル」を確認すると、制度や支援策が体系的に理解できます。

1-3. 情報収集と経営方針のすり合わせ

脱炭素経営を進めるには、経営層が「なぜ必要なのか」を理解していることが不可欠です。
そのため、まずは担当者自身が情報を集め、経営層にわかりやすく共有できる準備をしておくことが大切です。

最初の一歩としては、中小企業庁が公開している
中小規模事業者向け 脱炭素経営導入ハンドブック」が非常に役立ちます。
さらに、具体策や事例を調べるには「
グリーン・バリューチェーンプラットフォームも必見の情報源です。
こうした信頼できる資料を押さえておくと、社内での方針共有がスムーズに進みます。

ステップ2. 気候変動関連のリスクと機会を認識する

脱炭素経営を進めるうえで大切なのは、「リスクを避ける視点」と「チャンスを活かす視点」の両方を持つことです。
ここでは、その2つの側面を整理します。

2-1. 脱炭素化の遅れが招くビジネスリスク

脱炭素への取り組みが遅れると、企業にどのような影響があるのでしょうか。
もっとも分かりやすいリスクは取引停止や契約打ち切りです。

近年、大手企業の多くは「サプライチェーン全体での環境対応」を重視しています。
そのため、温室効果ガス削減に消極的な企業は調達先から外される可能性が高くなります。
また、資金調達の面でも、脱炭素に取り組んでいない企業は銀行や投資家から評価されにくくなる傾向があります。

つまり、「動かないこと」自体が競争力を失うリスクとなるのです。。

2-2. 脱炭素経営で広がる新たなビジネスチャンス

一方で、脱炭素経営に取り組むことは単なるコストではなく、成長のチャンスでもあります。

具体的には以下のような機会が考えられます。

  • 省エネ製品や再生可能エネルギーを活用した新規事業の創出
  • 環境に配慮した製品・サービスを提供することでブランド価値を高める
  • エネルギーコスト削減による経営効率の改善
  • 環境意識の高い優秀な人材の採用・定着

脱炭素への取り組みを「未来の投資」として考えることで、企業の競争力はむしろ強化されます。

2-3. リスクと機会を把握するための情報開示の活用

こうしたリスクと機会を正しく理解するためには、サステナビリティ情報の開示に関する最新動向を把握することが有効です。

特に、国際的に注目されているのがTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワークです。
最近ではIFRS(国際会計基準)でも新しい開示基準が整備されつつありますが、その内容はTCFDの考え方をベースに作られています。

すべてを一度に実践する必要はありません。まずは自社の事業にとって重要なリスクや機会は何かを経営層と話し合うことから始めましょう。
参考資料として、環境省の「サステナビリティ(気候・自然関連)情報開示を活用した経営戦略立案のススメ」は、基本的な整理に役立ちます。

▼出典:サステナビリティ(気候・自然関連)情報開示を活用した経営戦略立案のススメ

ステップ3. 自社の温室効果ガス排出実態を把握する

脱炭素経営を進めるうえで欠かせないのが、「現状を数字で把握する」ことです。
排出量がわからないままでは、削減の優先順位も計画も立てられません。
まずは自社の温室効果ガス(GHG)排出量を把握することから始めましょう。

 3-1. エネルギー使用量と排出量を数値で可視化する

最初の作業は、自社でどれだけのエネルギーを使っているのかを把握することです。
具体的には、電気・ガス・燃料などの使用量を請求書や契約情報から集めるだけで、年間の大まかな消費量がわかります。

次のステップは、使用量をCO₂排出量に換算します。
たとえば電気の場合、電力会社が公開している「排出係数(1kWhあたりのCO₂量)」を使用し、

年間使用量(kWh) × 排出係数 = 年間排出量(t-CO₂)

の式で計算できます。

計算方法や最新の排出係数は、環境省が公開している
「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」ガイドラインで確認できます。

また、排出量算定に役立つデータベースとしては、前のステップで紹介した「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」も非常に有効です。
最初はざっくりでも構いません。まずは数値を持ち、現状を見える化することが大切です。

3-2. 企業単位と製品単位、2種類の算定方法

排出量の把握には、大きく2つの切り口があります。

  1. 企業全体での排出量(会社単位)
     → まずはこちらを優先。経営全体の状況を把握しやすい。
  2. 製品ごとの排出量(製品単位)
     → 取引先から「製品1個あたりのCO₂排出量を教えてほしい」と依頼される場合はこちらが必要。

製品別の算定は難しく感じるかもしれませんが、環境省が公開している
カーボンフットプリント(CFP)ガイドライン
CFP実践ガイド(算定編)を参考にすれば進めやすくなります。

もし自社で難しい場合は、外部の専門家やツールの活用も選択肢です。
例えば弊社TBMでは、自社製品LIMEXのCO₂排出量を製品単位で算定しており、こうした知見を提供することも可能です。

▼出典:環境省 CFP実践ガイド(算定編)

ステップ4. 具体的な削減目標と計画を策定する

ステップ3で自社の排出量を把握できたら、次はいよいよ「どのくらい減らすのか」という目標を立てる段階です。
ここでは、目標の設定方法と実行可能な計画を作るポイント
を解説します。

4-1. 中長期を見据えた削減目標を立てる

排出量の現状がわかったら、次は「いつまでにどの程度減らすのか」を具体的な数字で定めます。
大切なのは、短期(1〜3年程度)だけでなく、中期・長期(10〜20年単位)での目標を併せて考えることです。

例:

  • 2020年比で2030年までに50%削減
  • 2050年までにカーボンニュートラル達成

こうした目標設定には、国際的な指標を参考にすると方向性がぶれにくくなります。
特に有名なのは以下の2つです。

  • SBT(Science Based Targets)
    科学的根拠に基づく排出削減目標の設定方法
  • RE100
    電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な取り組み

環境省の「SBT(Science Based Targets)について」や「中長期排出削減目標等設定マニュアル」には、基準や事例が詳しく掲載されていますので、一度目を通しておくとよいでしょう。

▼出典:SBTに取組むメリット

目標に基づく削減策の検討

目標が決まったら、それを達成するための具体策を考えます。
検討のポイントは次の通りです。

  • 省エネ設備の導入(高効率な空調・照明・生産設備など)
  • 再生可能エネルギーの活用(太陽光発電、PPAモデルの導入など)
  • 業務プロセスの見直し(ペーパーレス化、物流効率化など)

環境省が運営しているSHIFT事業のウェブサイトでは、削減策や実践事例を確認できます。
また、工場・事業場の脱炭素化実践ガイドラインも具体策を考える際の有力な参考資料です。

4-2. 実行可能な計画に落とし込む

削減策が出そろったら、次は実行計画です。
いきなりすべてを実施するのではなく、実現性と費用対効果を考慮して段階的に進めるのがポイントです。

  • 初期投資が大きい設備更新は、投資回収期間を見積もったうえで計画
  • すぐにできる改善(運用の工夫や無駄の削減など)から着手し、効果を積み上げる
  • 補助金や助成金もあわせて活用することで、無理のない進め方が可能

この計画を立てる際には、中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブックが非常に役立ちます。
中小企業の具体事例が数多く掲載されており、初めての計画立案でも進め方がイメージしやすくなります。

▼出典:中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック

ステップ5. 効果的な削減対策を実施する

目標と計画が固まったら、いよいよ実行段階です。
ここでは特に設備投資を伴う削減対策について、進め方のポイントを解説します。

5-1. 高効率設備の選び方と導入のコツ

脱炭素対策の中でも効果が大きいのが、エネルギー効率の高い設備への更新です。
しかし、やみくもに最新設備を導入すればよいわけではありません。

ポイント1:最新の高効率機器を調べる
環境省が公開している

には、省エネ性能の高い設備やコスト情報がまとめられています。これらを活用して、候補を比較検討しましょう。

▼出典:LD-Techリスト

ポイント2:自社に合った容量を選ぶ
過大な設備を導入すると、初期投資が増えるだけでなく、日々の運用コストも割高になります。
「高性能」よりも自社の使用実態にフィットするサイズと性能を重視することが重要です。

5-2. 補助金・融資を活用して初期投資を抑える

設備投資には一定のコストがかかるため、公的支援制度を組み合わせることが成功の鍵です。

これらを活用すれば、初期費用の負担を軽減しながら計画的に投資を進めることができます。
補助金は年度ごとに募集期間が決まっているため、情報収集は早めに行い、計画段階から組み込むことが大切です。

▼出典:環境省 令和7年度予算 及び 令和6年度補正予算 脱炭素化事業一覧

ステップ6. 取り組みの成果を効果的に開示する

脱炭素経営の最後のステップは、成果を外部に伝えることです。
どれだけ優れた取り組みを進めても、社外に発信されなければ評価にはつながりません。

6-1. 情報開示の意義と企業価値の向上

近年、投資家や取引先は「環境への取り組み」を重視する傾向が強まっています
特にESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)の拡大に伴い、脱炭素への姿勢を示すことは大企業だけでなく中小企業にとっても重要な要素です。

成果を適切に開示することで得られるメリットには次のようなものがあります。

  • 取引先や投資家からの信頼・評価の向上
  • 従業員のモチベーションアップと定着率向上
  • 環境意識の高い優秀な人材の採用につながる
  • 地域社会・顧客からのブランド価値の向上

脱炭素経営は、企業価値そのものを高める取り組みにつながるのです。

6-2. 効果的な情報発信の方法

では、どのように情報を発信すればよいのでしょうか。

基本は自社メディアでの公開

  • 自社のウェブサイト
  • サステナビリティレポート(CSRレポート)

この際、ただ数字を並べるだけではなく、以下の要素を盛り込むことがポイントです。

  • どのような取り組みを行ったのか(施策)
  • どの程度の成果があったのか(数値+実例)
  • 今後どのような目標に向かって進めるのか(ロードマップ)

読んだ人が「この会社は具体的に行動している」と感じられる形で伝えることが大切です。

国際的な認証・イニシアチブへの参加も有効
中小企業向けに用意されたSBT(Science Based Targets)やRE100などの国際的な取り組みに参加することも、外部への強いアピールになります。
国際的な基準に沿った活動として認められれば、取引先や金融機関からの信頼は一層高まります。

まとめ

脱炭素経営は、大企業だけでなく中小企業にとっても避けて通れない経営課題になっています。
本記事では、カーボンニュートラルの基礎理解から、リスク・機会の把握、排出量の見える化、目標設定、削減対策の実行、成果の発信まで6つのステップで解説しました。

まずは自社のエネルギー使用量を把握し、現状を数字で見える化することが第一歩です。その上で、中長期の削減目標を立て、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用、補助金の利用など、無理のない計画で取り組みを進めましょう。

実施した内容は必ず社内外に発信し、信頼性・ブランド価値・新しいビジネスチャンスへとつなげることが重要です。今日から始められる小さな一歩が、将来の競争力を決めます。

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