カーボンフットプリント(CFP)をどう表示する?カーボンフットプリント表示ガイドの正しい活用方法を解説

2025年2月4日、環境省は「カーボンフットプリント(CFP)表示ガイド」を公表しました。
このガイドは、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガス(GHG)を見える化し、それを消費者に伝えるための具体的な指針を提供するものです。
▼参考:環境省・経済産業省 カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年2月)
背景には、脱炭素社会の実現に向けた国際的な動きや、日本国内でのカーボンニュートラル達成に向けた取り組みの加速があります。
企業が自主的にCFPを算定・表示することで、消費者が環境に優しい選択をしやすくなり、持続可能な消費と生産の促進が期待されています。


カーボンフットプリントの定義と重要性
カーボンフットプリント(CFP)は、製品やサービスがそのライフサイクル全体を通じて排出する温室効果ガス(GHG)の総量を二酸化炭素換算(CO₂e)で示したものです。

このライフサイクルには、原材料の調達、製造、流通、使用、廃棄・リサイクルのすべての工程が含まれ、算定には「ライフサイクルアセスメント(LCA)」という手法が用いられます。
この手法により、製品やサービスが環境に与える影響を数値化し、どのプロセスでGHGが多く排出されているかを明確にすることができます。
CFPが重要とされる理由は、気候変動対策や持続可能な社会の構築において、具体的かつ実用的な指標としての役割を果たしているからです。
まず第一に、CFPは地球温暖化を抑制するための取り組みを評価する上で欠かせないツールです。
気候変動対策は今や国際的な課題であり、各国や企業がGHG削減目標を掲げる中で、CFPはその進捗を測定し、削減効果を客観的に示す指標として機能します。

また、CFPを公表することで、企業や自治体は自らの環境負荷削減への取り組みを社会に示し、透明性と信頼性を高めることができます。
さらに、CFPは消費者とのコミュニケーションを円滑にし、環境配慮型の購買行動を促すきっかけとなります。
多くの消費者が環境への影響を考慮して製品を選ぶようになりつつある中、CFPを製品に表示することは、製品の環境負荷をわかりやすく伝える手段として有効です。
CFP表示が普及することで、消費者は環境に優しい選択を行いやすくなり、ひいては持続可能な消費と生産の流れが形成されていきます。
また、こうした透明性の高い情報提供は、企業と消費者の信頼関係を深める重要な要素でもあります。
さらに、CFPは企業の競争力向上にも直結します。特に欧州連合(EU)では環境表示に関する規制が厳格化しており、透明性のあるCFP表示が市場での信頼を得るための重要な条件となっています。
国際的な取引において、CFPの公表が企業のサステナビリティを示す指標として認識されることは、取引先や投資家からの評価を高め、ブランド価値の向上にもつながります。
CFPを積極的に活用することで、企業は環境対策の先進的な取り組みを示し、他社との差別化を図ることができます。
このように、CFPは気候変動対策だけでなく、消費者教育や企業競争力の強化、さらには持続可能な社会の実現に向けた多面的な意義を持つ概念です。
企業や消費者がCFPを正しく理解し、実践に活用することで、環境への負荷を軽減しながら社会的価値と経済的価値を両立させる道が開かれると言えるでしょう。

▼出典:環境省 グリーン・バリューチェーン プラットフォーム カーボンフットプリント全般
カーボンフットプリント表示ガイドとは?
カーボンフットプリント(CFP)表示ガイドとは、製品やサービスがライフサイクル全体で排出する温室効果ガス(GHG)の総量を見える化し、消費者が理解しやすい形で伝えるための指針です。
これは環境省と経済産業省によって策定されたもので、企業が透明性のある情報提供を行い、消費者と信頼関係を築くための土台を示しています。

▼出典:環境省・経済産業省 カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年2月)
カーボンニュートラル時代の「共通言語」
地球温暖化の進行により、気候変動はもはや一部の国の課題ではなく、世界共通のリスクとなりました。
日本政府は2050年カーボンニュートラルを掲げ、企業にもサプライチェーン全体での排出削減を求めています。
しかしこれまで、温室効果ガスの算定や表示方法には統一的な基準がなく、企業ごとの判断に委ねられていました。
その結果、消費者にとっても「どの製品が本当に環境に優しいのか」が分かりにくい状況が続いていました。
この課題を解決するために生まれたのが、「カーボンフットプリント表示ガイド」です。
このガイドは、企業が科学的根拠に基づいてGHG排出量を算定し、消費者に正確かつ公平な情報を提供するための標準的なルールブックとして位置づけられています。
CFP表示ガイドの目的は単純明快です。
それは、「見える化」された環境情報を通じて、持続可能な社会への行動を促すこと。
企業にとっては、自社の製品やサービスがどの程度環境に配慮しているかを明確に示すことで、ブランド価値を高め、投資家・消費者からの信頼を獲得するチャンスになります。
一方、消費者にとっては、環境負荷を比較しながら商品を選ぶ判断材料となります。
ガイドはそのために、CFPの算定・表示において「信頼性」「透明性」「比較可能性」「ライフサイクル全体の考慮」「地域性」という5つの原則を定めています。
この5原則に基づくことで、表示されるCFP情報が誤解を招くことなく、真に公平で再現性のあるデータとして機能するのです。
カーボンフットプリント表示ガイドの内容と意義
CFP表示ガイドの中核には、「信頼される環境情報の提供」という理念があります。
そのため、ガイドでは算定の手法から表示の方法まで、企業が守るべき具体的な基準が詳細に示されています。
ここでは、その内容と意義をわかりやすく整理します。
1. 信頼性と透明性を支える算定ルール
ガイドでは、CFPを算定する際には国際規格ISO 14067または日本独自の「CFPガイドライン」に基づくことを推奨しています。
これにより、国内外で一貫性を保った環境情報の提供が可能になります。
さらに、CFPの数値は製品のライフサイクル全体(Cradle to Grave)を対象とし、原材料調達から廃棄までのあらゆる段階を網羅することが基本です。
ただし、製品の特性に応じて「Cradle to Gate(出荷まで)」など部分的な算定も認められており、その場合は対象範囲を明確に開示する必要があります。
また、算定データには一次情報(自社で測定したデータ)を優先的に使用し、二次情報を利用する際には信頼性の高いデータベースを選定することが求められます。
こうした基準により、算定結果の客観性と再現性が担保されます。
2. 消費者にわかりやすい表示内容と媒体
CFPの表示内容には、以下の項目が含まれることが推奨されています:
- 製品やサービスの総GHG排出量(例:○○g-CO₂e/1個あたり)
- 算定範囲(Cradle to Gate、Cradle to Graveなど)
- 算定単位(1kg、1リットル、1回使用など)
これらをパッケージ・ラベル・広告・ウェブサイトなどの多様な媒体で表示できるとされています。
また、数値だけでなく、背景説明やLCA報告書へのリンクを併せて示すことで、消費者が情報の裏付けを確認できるようにすることも重要です。
3. 比較表示とグリーンウォッシュ防止
ガイドでは、製品間でCFPを比較する場合の明確なルールも定めています。
同一の算定基準・手法に基づく場合にのみ比較を許可し、その根拠情報を消費者に提示することが義務づけられています。
これにより、数値の一部だけを切り取って優劣を強調するような誤解を防ぎます。
さらに、グリーンウォッシュ(誤解を招く環境主張)防止も大きな柱の一つです。
科学的根拠のない「エコ」「カーボンゼロ」といった表現を避け、根拠となるデータや算定結果を公開することが求められています。
4. 国際整合性と企業価値への波及効果
CFP表示ガイドは、国際規格 ISO 14026(環境ラベル表示) や ISO 14067(製品カーボンフットプリント) と整合性を持っており、日本国内だけでなくグローバル市場でも通用する共通基盤です。
特に、EUでは「グリーンクレーム指令」などにより環境主張の厳格化が進んでおり、日本企業が海外市場で信頼を得るためにも、このガイドの採用は極めて有効です。

また、企業にとってはCSRの一環としてだけでなく、投資家とのESG対話やブランド戦略の強化にも直結します。
透明性の高いCFP表示は、環境経営の信頼性を高めると同時に、市場での競争力を後押しする武器となります。
ガイドの普及によって、消費者は環境に配慮した選択を行いやすくなり、企業は環境負荷削減と信頼向上を両立できるようになります。
そしてその先には、環境と経済の好循環が広がる持続可能な社会の実現が見えてきます。

▼出典:環境省・経済産業省 カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年2月)
カーボンフットプリント表示までの流れ
1. 国際規格に基づく算定とデータの信頼性確保
まず、CFP表示の出発点となるのは「正確で客観的な算定」です。
CFPの算定は、国際規格 ISO 14067 や日本の「CFPガイドライン」に準拠することが推奨されています。
これにより、他社との比較や海外展開時にも一貫性のあるデータを活用できます。
算定には、ライフサイクル全体(原材料調達から廃棄まで)を対象としたLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方が欠かせません。
また、使用するデータの種類も重要です。
- 一次データ:企業が自ら収集した実測データ。信頼性が最も高く、可能な限り使用すべき。
- 二次データ:既存のデータベースや統計情報。一次データで補えない部分を補助的に活用。
一次データの比率を高めるほど、算定結果の精度と信頼性は向上します。
2. CFP表示の透明性を担保する情報開示
CFP表示では、「どの範囲を算定したか」を明確に示すことが欠かせません。
たとえば、
- Cradle to Gate(原材料調達から出荷まで)
- Cradle to Grave(原材料調達から廃棄まで)
といった算定範囲(システムバウンダリー)を正確に開示しなければ、消費者は数値の背景を理解できません。
さらに、算定で使用した特性化係数(排出係数)や前提条件についても、根拠や出典を明示することが推奨されます。
これにより、情報の再現性と透明性が確保され、消費者・取引先・投資家が安心してCFPを参照できるようになります。
3. グリーンウォッシュを防ぐための誠実な表示
CFP表示で最も注意すべきなのが、グリーンウォッシュ(誤解を招く環境主張)です。
一部のデータだけを都合よく切り取って「環境に優しい」と訴えるような表示は、消費者の信頼を損なうだけでなく、企業のブランド価値をも傷つけます。
たとえば、
- 製品の一部工程だけを強調して全体の排出量を隠す
- 科学的根拠に基づかない「CO₂削減〇〇%」という表現を使う
といった事例は避けるべきです。
これを防ぐために、ガイドでは算定報告書の公開を推奨しています。
詳細な算定プロセスを開示し、第三者が確認できる体制を整えることで、企業の誠実さと説明責任を担保できます。

4. 消費者に伝わるデザインと補足情報の工夫
CFP表示は「正しい情報を出すだけ」で終わりではありません。
“伝わる形で表示する”ことも信頼性の一部です。
製品パッケージ、広告、ウェブサイトなど、媒体に応じて消費者が理解しやすい表現を工夫することが求められます。
- グラフやアイコンを使って直感的に見せる
- CFP数値とあわせて、背景説明やリンクを提供する
といった配慮により、環境情報を「読む」から「感じる」へと変えることができます。
特にデジタル媒体では、クリックひとつで詳細なデータやLCA報告書にアクセスできる仕組みを整えることで、情報の深度と信頼性を両立できます。
5. 外部検証と第三者レビューで信頼性を高める
CFP表示は、消費者だけでなく、取引先や投資家など多様なステークホルダーに影響します。
そのため、表示内容の正確性と透明性を担保するために、第三者機関による検証や外部レビューの導入が効果的です。
このプロセスを経ることで、企業の環境主張に客観性が加わり、国際的にも通用する信頼性の高い表示となります。
また、内部の品質管理体制としても、定期的に算定手法やデータソースを見直すことが重要です。
正確で誠実なCFP表示は、消費者の信頼を得るだけでなく、取引先・投資家・行政との関係強化にもつながり、結果として企業のブランド価値を高める力を持っています。
“見せる環境対応”から“伝わる環境責任”へ。
それがこれからのカーボンフットプリント表示のあるべき姿です。

▼出典:環境省・経済産業省 カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年2月)
カーボンフットプリント(CFP)の比較を正しく行うために
持続可能な選択を支える「基準」「機能単位」「範囲」の理解
カーボンフットプリント(CFP)の比較は、製品やサービスが地球環境に与える影響を定量的に把握するための重要な手段です。
企業が自社製品の環境性能を示すうえでも、消費者が環境配慮型の商品を選ぶうえでも、その信頼性が欠かせません。
しかし、比較の方法や前提条件が不適切な場合、数値が正しくても“誤解を生む”結果になることがあります。
1. 同一の基準・手法で算定されたデータを使うこと
CFPの比較で最も重要なのは、「同じルールで計算されたデータを比較する」ことです。
たとえば、ISO 14067(カーボンフットプリントの国際規格)や、日本のCFPガイドラインなど、国際的・国内的に認められた標準規格に基づく算定が求められます。
これらの共通基準に沿うことで、異なる企業や製品間でも同一条件で比較できるようになります。
逆に、異なる算定基準や独自手法で作られた数値を並べて比較すると、たとえデータが正確であっても「見かけ上の優劣」が生じ、消費者を誤った判断に導くリスクがあります。
2. 「機能単位」を統一することが公平な比較の鍵
CFP比較の核心は「機能単位(Functional Unit)」にあります。
これは製品やサービスの使用目的・特性に基づいて設定される比較の基準です。
たとえば、
- 飲料なら「1リットルあたり」
- 食品なら「1食分あたり」
- 家電なら「1回使用あたり」
といった形で、機能単位をそろえることで、実際の利用シーンに即した比較が可能になります。
機能単位が異なるままでは、「どちらが本当に環境に優しいのか」が分からなくなり、比較そのものの意味を失ってしまいます。
そのため、ISO 14067や各国ガイドラインでは、比較対象間で機能単位を統一することを明確に求めています。
3. 算定範囲(システムバウンダリー)を明確にする
もう一つの重要なポイントが、「どこまでの工程をCFPに含めたのか」を明示することです。
製品のライフサイクルには、原材料調達・製造・輸送・使用・廃棄など、さまざまな段階があります。
これらのうち、どの範囲を算定に含めたかを示すのがシステムバウンダリーです。
たとえば、
- A社:原材料調達から出荷まで(Cradle to Gate)
- B社:原材料調達から廃棄まで(Cradle to Grave)
というように、算定範囲が異なる場合、それを明示せずに比較すると、実際よりも優れているように見えることがあります。
したがって、算定範囲の違いを明確に開示することは、CFPの透明性と信頼性を担保する上で不可欠です。
透明で公平なCFP比較が、真の環境価値を伝える
CFPの比較は、単なる数値競争ではなく、環境情報の信頼性を社会にどう伝えるかという課題でもあります。
「同一基準」「機能単位の統一」「算定範囲の明示」という3つの原則を守ることで、消費者も企業も、より正確で納得感のある環境評価に基づいた選択を行うことができます。
CFP表示の目的は“見せかけのエコ”ではなく、本当に持続可能な製品や企業を選び取るための道標です。
比較の透明性こそが、真のグリーントランスフォーメーション(GX)を支える基盤と言えるでしょう。

▼出典:環境省・経済産業省 カーボンフットプリント 表示ガイド(2025年2月)
まとめ
「カーボンフットプリント(CFP)表示ガイド」は、製品やサービスがライフサイクル全体で排出する温室効果ガス(GHG)を見える化し、消費者に分かりやすく伝えるための重要な指針です。
ガイドでは、信頼性、透明性、比較可能性などの基本原則が示されており、企業はこれに基づいて正確かつ透明な情報を提供することが求められます。
また、CFPの比較においては、同一の基準や算定範囲、機能単位を統一し、消費者に誤解を与えない工夫が不可欠です。
このガイドを活用することで、企業は環境負荷削減への取り組みを社会に示し、消費者との信頼関係を築くとともに、持続可能な社会の実現に向けた重要な役割を果たすことが期待されています。
