SAF(持続可能な航空燃料)とは?その重要性と導入の現状、未来の可能性を解説

航空業界は国際的な移動を支える一方で、CO₂排出量が極めて多い交通手段として気候変動の大きな要因とされています。
特に短距離フライトでは燃費効率が悪く、1人あたりの排出量は電車やバスの数倍から十数倍に及びます。

この課題に対し、近年注目を集めているのが 持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel) です。

SAFは廃食用油やバイオマス、さらには大気中のCO₂を原料とすることで、燃料ライフサイクル全体で排出される温室効果ガスを最大80%近く削減できる可能性を持っています。
しかも従来の航空機やインフラをそのまま活用できる互換性があるため、実用的かつ即効性のあるソリューションと位置づけられています。

現在、HEFA法やバイオマスガス化、Power-to-Liquid(PtL)など多様な製造技術が開発され、世界各国で商業化が進みつつありますが、コストの高さや原料供給の制約といった課題も残されています。

日本でも国産SAFの供給体制構築が始まり、JALやANAが2025年度から導入予定です。
今後は技術革新や政策支援を通じて、航空業界の脱炭素化を実現するために不可欠な役割を果たすと期待されています。

本記事では、SAFの定義・特徴・環境効果から製造技術や普及の課題、さらに国内外の最新事例までをわかりやすく解説していきます。

目次

SAFとは?

SAFは、航空業界のカーボンニュートラル達成を目指す中で最も注目されている技術の一つです。
従来の化石燃料に代わる新しい燃料であり、再生可能な資源や廃棄物を活用して製造されます。

その最大の特徴は、燃料ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出量を大幅に削減できる点にあります。
環境負荷を低減しながら、従来の航空機やインフラでそのまま使用できる互換性を持つため、現実的かつ効果的なソリューションとして位置づけられています。

SAFの定義としては、植物由来のバイオマス(植物油や藻類など)、廃棄油脂、産業廃棄物、さらには大気中のCO₂を活用して合成された燃料が含まれます。

これらの原料は、従来の化石燃料と異なり、新たな炭素を大気中に追加するのではなく、循環型の炭素利用を実現するものです。
この特性により、燃料の製造から燃焼に至るまでの過程で排出されるCO₂が実質的に削減されます。

SAFの最大の環境的な利点は、ライフサイクル全体でのCO₂排出量を80%近く削減できる可能性がある点です。
例えば、植物を原料とするバイオ燃料では、植物が成長する過程で大気中のCO₂を吸収します。

そのため、燃料を燃焼させても、大気中に追加される炭素量は原料生成時に吸収された分で相殺される仕組みです。
また、使用済み油脂や廃棄物を原料とする場合、それらを埋め立て処分するよりも環境負荷を抑える効果があります。

もう一つの特徴は、SAFが従来のジェット燃料と同じ性能を持ちながら、現在の航空機やインフラにそのまま適用できる点です。
これにより、新たな設備投資を必要とせず、既存の燃料供給ネットワークをそのまま利用できるため、導入に伴う障壁が低く抑えられています。

これは、航空業界全体の脱炭素化を進める上で非常に重要な利点です。

▼出典:国土交通省 SAFの導入促進に向けた取組(航空局カーボンニュートラル推進室の取組紹介)

飛行機のCO₂排出量は?他の乗り物との比較で見る環境負荷

飛行機は、他の交通手段と比べてもCO₂排出量が非常に多い移動手段として知られています。
運航には大量のジェット燃料(ケロシン)が必要で、特に離陸時に莫大なエネルギーを消費するため、温室効果ガスの排出量が際立って高くなります。

具体的には、短距離国内線では1人が1km移動する際に約200gのCO₂を排出します。
これは電車(約14g)、バス(約27g)、自動車(約104g)と比較しても突出して高く、飛行機の環境負荷の大きさが明確に示されています。

長距離国際線になると燃費効率はやや改善しますが、総排出量は依然として莫大で、東京―ニューヨーク間の片道では1人あたり約1,500kgものCO₂を排出します。

対照的に、電車は大人数を効率的に輸送できるため1人あたりの排出量が最も低く、次いでバス、自動車と続きます。自動車は車種による差が大きいですが、EV(電気自動車)を再生可能エネルギーで充電すれば排出量を大幅に削減できる可能性があります。

こうした背景を踏まえ、短距離移動では飛行機を避けて電車やバスを選ぶことが推奨されます。
加えて、 unavoidable なフライトに対してはカーボンオフセットを活用することも有効です。
今後は航空業界の技術革新に加え、社会全体の行動変容が移動に伴う温室効果ガス削減の鍵となるでしょう。

▼出典:JCCCA デコ活 5-15 輸送量あたりの二酸化炭素排出量

▼参考:Scope3カテゴリ6-従業員の出張について具体的に解説

SAFの製造方法

SAFの代表的な製造技術と特徴

SAF(持続可能な航空燃料)の製造方法は複数あり、それぞれ異なる特徴と利点を持っています。

現在もっとも普及しているのが HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)技術です。
廃食用油や動植物油脂を高温処理し水素を加えて精製することで、従来のジェット燃料に近い性質を持つ燃料を生産できます。
既存の製油所を利用できるため商業化が進んでいますが、供給できる原料に限りがある点が課題です。

次に注目されるのが バイオマスガス化―FT法(Gasification-Fischer-Tropsch) です。
木材や農業残渣、廃棄物などを高温ガス化し、合成ガスから液体燃料を合成します。
幅広い原料を活用でき、廃棄物処理にもつながる点が強みですが、高温処理技術とコスト面の課題が残っています。

さらに革新的とされるのが PtL(Power-to-Liquid)技術です。
再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を得て、大気や工業排出から回収したCO₂と反応させ合成燃料を製造します。
理論上は完全なカーボンニュートラルを実現できますが、設備投資やエネルギー効率の改善が鍵を握ります。

加えて、アルコールからジェット燃料への変換技術も開発が進んでおり、エタノールやイソブタノールを原料に非可食バイオマスを活用できる点で持続可能性が期待されています。

SAF製造の課題と今後の展望

各技術にはメリットがある一方で、普及に向けた課題も明確です。

  • HEFAは普及が進むものの、原料となる廃油や油脂が不足。
  • バイオマスガス化は柔軟性が高いが、高温処理のコストが障壁。
  • PtLは理想的な脱炭素技術だが、再生可能エネルギーの安定供給と投資コストが課題。

現在のSAFは依然として従来のジェット燃料より2〜5倍高価であり、大量生産によるコスト削減や政策的支援が不可欠です。
カーボンプライシングや補助金によって市場競争力が高まれば、導入は一層進むと見られています。

SAF製造技術は、航空業界の脱炭素化を実現する鍵であり、環境配慮と経済性の両立を可能にする重要な柱です。
今後は技術革新と国際的な政策支援を背景に、持続可能な航空燃料の普及が本格化することでしょう。

▼出典:持続可能な航空燃料(SAF)について

SAFの認知度

まず、航空会社が実施するカーボンオフセットプログラムや運航の最適化による燃料効率改善の取り組みが広報されています。
これにより、環境への影響を軽減しようとする姿勢が少しずつ知られるようになりました。

ただし、消費者の多くはこれらの施策の詳細について十分に理解しておらず、「航空業界全体がどの程度真剣に取り組んでいるのか」という点で懐疑的な意見も少なくありません。
また、政府やNGOが発表する気候変動レポートで航空業界が名指しされることが増えたため、産業全体としての課題が世間の注目を浴びています。

足元の状況としては、SDGsに関心がある対象に限れば徐々に認知は広まってきています。

▼出所:空のカーボンニュートラルPR事務局

一方、SAFの認知度については、一般的にはまだ十分に浸透しているとは言えません。
SAFは、従来の化石燃料と比較してCO2排出量を最大80%削減できる可能性がある画期的な代替燃料ですが、その存在を知っている人は専門家や航空業界関係者、または環境問題に強い関心を持つ一部の層に限られています。

SDGsに関心がある方に限っても、良く知っている層は19%となっています。

▼出所:空のカーボンニュートラルPR事務局

▼参考:PR TIMES『空のカーボンニュートラル』認知実態調査 SDGsへの関心とSAFの認知度のギャップが示す理解促進のチャンス

SAFの課題について

SAFの技術・供給・コストに関する課題

SAF(持続可能な航空燃料)は、脱炭素化の切り札として期待されていますが、普及には多くの障壁があります。

まず、技術面では「Power-to-Liquid(PtL)」のように大量の再生可能エネルギーを必要とする方法や、バイオマスを高温処理する製造工程において、エネルギー効率が十分でないことが課題です。
これにより、ライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現できない可能性があります。

供給面でも制約が大きく、廃食用油や動植物性油脂の量は限られており、世界的な需要を満たすには不足しています。代替としてパーム油などを利用する動きもありますが、森林伐採や生態系破壊を招きかねず、持続可能性を損なう懸念があります。
さらに、原料の収集や輸送に新たなインフラが必要となり、供給チェーン全体の効率低下も指摘されています。

加えて、コストの高さも最大の課題です。
現在のSAFは従来のジェット燃料の2~5倍の価格であり、原料コストや製造設備の初期投資が航空会社にとって大きな負担となっています。
スケールメリットの不足や需要と供給の競合も、価格高騰の一因です。

SAF普及に向けた環境・政策・社会的課題

SAFは環境負荷を削減する技術である一方、製造や原料調達で新たな環境問題を生じる可能性もあります。
バイオマス利用による森林転用や生物多様性の損失、廃棄物処理に伴うエネルギー消費など、ライフサイクル全体を評価する詳細データがまだ不足しているのが現状です。

普及を後押しする政策面でも課題があります。
各国の規制や基準が統一されておらず、税制優遇や補助金も十分ではないため、航空会社がSAFを積極的に導入するインセンティブが弱い状況です。
国際航空の特性上、国際的な協調と共通ルールの整備が不可欠ですが、実現には時間を要すると見込まれています。

さらに、SAFへの過度な依存はリスクを伴います。航空業界全体の排出削減を達成するには、SAFだけでなく、燃費効率の高い航空機導入や鉄道など代替交通手段の活用も同時に進める必要があります。
普及の遅れは気候目標そのものを危うくする可能性があるため、技術開発と政策支援、国際的な協調に加え、社会全体の意識変革が求められています。

▼出典:国土交通省 SAFの導入促進に向けた取組(航空局カーボンニュートラル推進室の取組紹介)

国内事例

日本初の大規模国産SAF

日本初の国産持続可能な航空燃料(SAF)の供給が、2025年度から国内の航空会社である日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)に対して開始される予定です。
この取り組みは、コスモエネルギーホールディングス株式会社のグループ会社である合同会社SAFFAIRE SKY ENERGYが中心となって進めています。

SAFの製造には、国内で回収された廃食用油が原料として使用されます。この原料を基に、年間約3万キロリットルのSAFが生産される計画です。
製造設備は大阪府堺市に位置するコスモ石油の堺製油所内に設置され、2024年12月25日に完成しています。

このプロジェクトは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として採択され、国内初の国産SAFサプライチェーンの構築を目指しています。SAFの製造から品質管理、そして航空会社への供給に至るまで、すべてのプロセスが国内で完結する体制が整えられています。

▼参考:コスモエネルギーグループ、2025年度より国内エアライン向けに国産SAFを供給 日本初となる国産SAFサプライチェーンの構築を実現

日本製紙・住友商事・GEI、木質バイオマス由来のSAF原料製造へ

日本製紙、住友商事、Green Earth Institute(GEI)は、木質バイオマスを原料とするバイオエタノール製造事業を推進するため、2025年3月に合弁会社「森空バイオリファイナリー合同会社」を設立すると発表しました。
この事業では、宮城県の日本製紙・岩沼工場内にプラントを建設し、2027年から年間1,000kL規模の生産を開始。その後、2030年を目標に数万kL規模の商業生産を実現する計画を立てています。

この事業の最大の特徴は、東北地域における持続可能な森林資源を活用し、非可食バイオマス由来のE2G(第2世代バイオエタノール)を製造する点にあります。
従来のバイオエタノールとは異なり、食料と競合しない木質バイオマスを原料とするため、持続可能性の高いエネルギー供給が可能となります。
また、GEI独自の低炭素・低コスト技術を導入し、製造時に使用するエネルギーには木質バイオマス由来のリグニンを活用することで、CO₂排出量の大幅な削減を目指しています。

製造されたバイオエタノールは、主にSAF(持続可能な航空燃料)の原料としての活用が期待されています。
さらに、ガソリン混合燃料や化学品原料としての利用も視野に入れており、幅広い分野での応用が見込まれます。

また、本事業はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業にも採択されており、国内初の木質バイオリファイナリーの確立を目指して研究開発が進められています。さらに、森林資源の持続的な利用を考慮し、成長が速く花粉量の少ないエリートツリー苗の普及も同時に推進する予定です。

各企業の役割についても明確に定められており、
日本製紙は、木質バイオマスを活用した総合バイオマス企業としての展開を進め、持続可能な資源利用の拡大を図ります。
住友商事は、国内SAF供給基盤の確立とグローバル展開を視野に入れた事業展開を進めます。
GEIは、非可食バイオマスを活用した商業生産を実現し、バイオものづくりの社会実装を推進します。
という形で推進されるとのことです。

▼参考:木質バイオマスを原料とするバイオエタノール等の製造販売を行う合弁会社設立へ

まとめ

SAF(持続可能な航空燃料)は、航空業界のカーボンニュートラルを実現するための重要な技術です。

廃食用油やバイオマス、さらにはCO₂を原料とし、従来のジェット燃料と同等の性能を持ちながら、ライフサイクル全体で最大80%のCO₂削減が可能とされています。

既存の航空機やインフラをそのまま活用できる互換性が大きな利点で、導入障壁が低い点も強みです。
一方で、製造コストの高さや原料供給の制約、政策支援の不足などが普及を妨げる要因となっています。

日本でも2025年度からJAL・ANAが国産SAFを導入予定で、国内生産体制の整備が進んでいます。
今後は技術革新や国際的な協調、政策による後押しが不可欠であり、SAFは航空業界の脱炭素化を支える切り札として期待されています。

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