ドイツの再生エネルギー政策と温室効果ガス対策 | 取り組みと成果

気候変動への対応において、ドイツは世界でも先進的な取り組みを展開してきました。
産業・エネルギー・交通・建築など社会全体の構造改革を通じて、温室効果ガス排出の削減と持続可能な成長の両立を目指すこの国の姿勢は、国際的にも高く評価されています。
特に「気候行動計画2050」や再生可能エネルギーの飛躍的な拡大は、エネルギーヴェンデ(エネルギー転換)を象徴する成果です。
しかし2023年の排出予測報告書では、エネルギー部門での大幅な削減があった一方、交通・建築部門では依然として課題が残る現状も浮き彫りになりました。
ドイツが今後目標を達成するには、政策のさらなる強化と市民参加、技術革新が不可欠です。
本記事では、ドイツのこれまでの政策の軌跡と現在地、そして今後の展望を詳しく解説します。

これまでの気候変動に対するドイツの政策
ドイツの気候変動政策は、単なる温室効果ガス排出削減にとどまらず、産業構造やエネルギー供給、都市生活の在り方そのものを変革する包括的なビジョンを持っています。
この取り組みは、科学的根拠に基づいた明確な目標設定と、政策の透明性、持続可能な技術の促進を通じて進められており、国際的にも高く評価されています。
ドイツは、地球温暖化を1.5℃未満に抑えるパリ協定の目標を全面的に支持し、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。
その中核を成すのが「気候行動計画2050」です。
この計画では、2030年までに1990年比で55%の排出削減を達成する中間目標を設定し、エネルギー、交通、産業、建築、農業など各部門における具体的な施策を明示しています。
この計画の特徴は、科学的な分析に基づいた政策決定と、将来の社会経済構造の変化を見据えた柔軟な枠組みです。
また、透明性の高い進捗管理システムにより、達成状況を国民や国際社会と共有することで信頼性を確保しています。
交通セクターでの取り組み
特に、運輸セクターに関連する施策が注目され、航空税の引き上げや鉄道運賃の付加価値税の軽減などの取り組みが進められています。
航空税は、ドイツ国内やドイツ初のEU圏内の便に対しては高く長距離の航空便に対しては短距離運航には比べて低く設定し、鉄道に関しては、付加価値税を軽減し鉄道利用を促進しています。
上記から、長距離輸送では、鉄道輸送の強化により航空機利用の削減につながっています。高速鉄道のネットワーク拡大により、国内外の移動が環境に配慮した形で可能となり、交通部門全体の持続可能性が向上しています。
ドイツの都市政策は、交通部門での排出削減を中心に展開されています。
都市部では、公共交通機関の利用拡大や自転車インフラの整備が進み、低炭素移動手段への移行が促進されています。
また、ゼロエミッションゾーンの導入により、化石燃料車の使用を制限し、大気汚染の軽減にも寄与しています。
自動車産業では、電気自動車(EV)の普及に向けた大規模なインフラ整備が行われています。
政府は、EV購入者への補助金提供や全国的な充電スタンドネットワークの構築を推進し、化石燃料車からの移行を加速させています。
これにより、持続可能なモビリティの実現が進んでいます。
エネルギーヴェンデ(Energiewende)の革新
他にもドイツと言えば再生エネルギーを思い浮かべる方も多いと思いますが、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、1990年で3,4%、2000年では6%に過ぎなかったものが2023年上期53,7%に達しています。
▼参考:再エネ導入を考える企業必見|再生可能エネルギーの種類・導入方法・成功事例

▼出典:ドレスデン情報ファイル 再生可能エネルギー拡大目標と達成状況
再生エネルギーの割合は、風力や太陽光、バイオマスといったものが割合として多く、今後も増やしていく計画になっていますが、原発を停止した中、送電網の拡充を含めた再エネコスト高とのバランスをどのように取っていくかが今後の課題になっていきます。
▼参考:持続可能なエネルギーと自然環境の両立:太陽光発電と生物多様性の調和を考え
また、足元の割合では2%ほどと少ないですが、ドイツは水素技術への投資に力を入れており、水素分野でのリーダーの地位を確立させようとしています。
2030年までの水素分野への投資は4,300億ユーロにも上ると言われており、2050年には水素による割合を13~14%へ上げていく目標を立てています。
水素には、生成方法により色で区別されており、
グリーン水素:太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを用いて、水を電気分解することにより生産される水素を指します。CO2の排出がないため、環境に優しい水素として注目されています。
グレー水素、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を原料として生産される水素を指します。この方法では、CO2が排出されるため、環境への影響が懸念されます。
ブルー水素:グレー水素の生産過程で発生するCO2を回収・貯留する技術を利用して生産される水素を指します。これにより、CO2の排出を大幅に削減することが可能です。
ターコイズ水素:天然ガス(厳密にはメタン)をプラズマ照射や触媒下で加熱することにより生成される水素を指します。この方法では、CO2の排出がなく、代わりに固体の炭素が生成されます。
以上のような種類がありますが、
ドイツでは取り分けグリーン水素に力を入れており、国内だけでは需要を賄えないので(7割の需要を輸入と言われています)輸入の経路についても合わせて研究されながら将来的な技術の確立を進めています。
特に、製鉄や化学産業など高排出量のセクターでは、グリーン水素を活用した新技術の導入が進められています。
▼参考:水素の色とは?グリーン水素からブルー水素まで徹底解説!温室効果ガス削減の鍵
炭素価格と規制の強化
温室効果ガスの排出を抑制するため、ドイツは炭素価格の導入を積極的に進めています。2021年には、燃料に対する炭素価格を設定し、家庭や企業が排出する二酸化炭素量に応じたコスト負担を求める制度が始まりました。
この仕組みは、排出削減へのインセンティブを与え、再生可能エネルギーや省エネルギー技術の普及を促進する重要な手段となっています。
▼参考:カーボンプライシングとは?メリットとデメリット:企業が知っておくべきポイント
さらに、炭素価格は段階的に引き上げられる予定であり、これにより経済全体での脱炭素化を促進すると同時に、持続可能なイノベーションを誘発する効果が期待されています。
市民参加と教育の重要性
ドイツの気候政策は、国民の理解と参加を重要視しています。学校教育では気候変動問題を重点的に取り上げ、若い世代の環境意識を高めています。
また、地域レベルでの再生可能エネルギープロジェクトへの参加を促進する仕組みを整備し、市民が直接エネルギー転換に貢献できる機会を提供しています。
さらに、政府は広報活動を通じて気候政策の重要性を訴え、市民一人ひとりの行動変容を促す取り組みを展開しています。
ドイツ2023年温室効果ガス排出予測報告書の内容
ドイツの2023年温室効果ガス(GHG)排出予測報告書では、エネルギー、交通、建築物といった主要部門ごとの排出状況を分析し、ドイツの2030年および2050年の気候目標達成に向けた進捗が包括的に述べられています。
2023年のドイツにおける温室効果ガス排出量は、前年比約10%減少し、1990年比では40%以上の削減が達成されました。
これは過去最大級の削減幅であり、特にエネルギー部門での化石燃料利用の大幅な削減が寄与しています。
2023年の総排出量は約6億トンで、気候変動対策の具体的な成果を反映しています。
この結果は、再生可能エネルギーの利用拡大、エネルギー効率向上、そして一部の分野での省エネルギー努力によるものです。
エネルギー部門
エネルギー部門は2023年に最も大きな削減を記録した分野であり、全体的な成功を支える中核的な役割を果たしました。
石炭火力発電所の利用が削減され、再生可能エネルギーが電力供給の50%以上を占めるようになりました。
これにより、エネルギー部門の排出量は前年比5,000万トン以上減少し、約2億500万トンに抑えられました。
特に、風力発電と太陽光発電が重要な役割を果たしており、ドイツのエネルギーヴェンデ(エネルギー転換)の具体的進展を示しています。
この成功は、固定価格買取制度や大規模なインフラ投資の成果であり、同時にエネルギー供給の安定性を維持しながら気候変動対策を進めるモデルケースとなっています。
交通部門
交通部門は依然としてドイツの気候目標達成における大きな課題です。
2023年の排出量は約1億4,600万トンで、前年からわずかに減少しましたが、年間許容排出量を依然として超過しています。
特に内燃機関車の普及率が高いことが、電動モビリティの普及を阻む一因となっています。
一方で、電気自動車(EV)の普及に向けた充電インフラの整備や、公共交通機関の利用促進に関する取り組みは進行中であり、今後の排出削減に期待が寄せられています。
交通部門は短期的に成果を上げるための追加的な施策が急務とされています。
建築物部門
建築物部門では、2023年において前年比7.5%の排出削減が実現しました。この成果は、家庭でのエネルギー節約努力や温暖な気候条件によるものです。
しかし、建築物部門の排出量は依然として法定目標を上回っており、さらなる取り組みが必要です。
断熱性能向上や再生可能エネルギーを活用した暖房システムの導入が課題として挙げられており、政府はこれらの普及促進に向けた補助金制度や規制強化を検討しています。
▼参考:Finale Daten für 2023: klimaschädliche Emissionen sanken um zehn Prozent
今後の展望と課題
ドイツは2030年までに1990年比で65%の排出削減を目標に掲げていますが、この報告書は、現時点では目標達成が難しい可能性を示唆しています。
特に交通と建築物部門の遅れが顕著であり、これらの分野での革新的な政策の導入が必要不可欠です。
炭素価格の段階的引き上げや、再生可能エネルギーとグリーン水素の活用拡大は、排出削減の加速に向けた鍵となります。
また、国民の行動変容を促す教育や啓発活動も重要な要素として位置付けられています。
国際的なリーダーシップ
ドイツの気候政策は、EU内での調整役としての役割を果たすとともに、発展途上国への気候ファイナンスを通じて国際的な支援も行っています。
特に再生可能エネルギー技術の輸出や、持続可能なエネルギーインフラの構築支援が注目されており、世界的な排出削減におけるリーダーシップを強化しています。
2023年の温室効果ガス排出予測報告書は、ドイツの気候変動対策が多大な進展を遂げている一方で、特定の部門での遅れや2030年目標達成への課題を浮き彫りにしています。
エネルギー部門での成功は評価されるべき成果ですが、交通と建築物部門における抜本的な改革が求められます。
これらを踏まえた迅速かつ実効的な行動が、ドイツの気候目標達成と国際的なリーダーシップのさらなる強化に寄与するでしょう。
まとめ
世界的に見ても、気候変動対策、温室効果効果ガス削減に力を入れてるドイツでも2030年、2050年への目標達成は非常に難しいものとなっています。
今後、ドイツがどういった動きをするかは、周辺のEU各国は勿論世界全体で注視されていくことになります。