持続可能なエネルギーと自然環境の両立:太陽光発電と生物多様性の調和を考え

脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの主役として急速に普及が進む太陽光発電。
温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーというイメージが強いですが、その一方で、私たちの足元にある自然環境や生態系に、意図せぬ影響を与えているという側面を見過ごすことはできません。

特に、広大な土地を必要とするメガソーラーの建設は、森林伐採や大規模な土地造成を伴い、そこに暮らす動植物の生息地を破壊・分断してしまうリスクをはらんでいます。

クリーンなはずのエネルギーが、地域の生物多様性を脅かすという矛盾。
この「エネルギーと環境のジレンマ」を、私たちはどう乗り越えていけば良いのでしょうか。

本記事では、太陽光発電が生物多様性に与える影響について、その光と影の両側面から深く掘り下げます。
国が示す「環境配慮ガイドライン」が求める具体的な対策を分かりやすく解説するとともに、ドイツの垂直型パネルや羊による除草など、国内外で実践されている先進的な共存事例を豊富に紹介。

エネルギー確保と自然保護を両立させるためのヒントを探ります。真に持続可能な未来を築くために、今私たちが知るべき課題と可能性を、この記事から見つけてください。

▼出典:環境エネルギー政策研究所 2023年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)

目次

太陽光発電が生物多様性に与える影響

メガソーラーと生態系への影響

メガソーラー施設の建設は、多くの場合、広大な土地の整地を伴います。
これは必然的に、森林や草原の伐採、または里山といった環境の改変を引き起こし、生息地の喪失や分断につながります。

日本ではスギやヒノキの人工林がメガソーラーのために伐採される例が増えていますが、これらの森林は動物や昆虫が移動や生息に利用する重要な生態系の一部でした。
こうした生息地の破壊や分断は、地域の生物多様性に影響を与える可能性があります。

▼出典:国立環境研究所 太陽光発電施設による土地改変-8,725施設の範囲を地図化、設置場所の特徴を明らかに-

また、太陽光パネルの設置による環境変化は、微気候や土壌生態系にも影響を及ぼします。パネルが地面を覆うことで、日射量が減少し、土壌の湿度が上昇する一方で、パネル間の隙間では乾燥が進む「モザイク状の環境」が形成されることがあります。

この環境変化により、土壌微生物や植物群落の構成が変化し、それに依存する昆虫や小型動物の生態系にも影響が出ることが懸念されます。

こうした問題に対処するためには、メガソーラー施設の計画段階での配慮が不可欠です。
まず、設置場所の選定では、環境影響評価を徹底的に行い、生態系への影響が最小限となる土地を選ぶことが重要です。

既存の荒地や産業廃棄地を活用する例は、これに適した取り組みの一つといえます。
また、施設の設計にも工夫が求められます。

たとえば、太陽光パネルの間に草地や植生を残すことで、小動物や昆虫が移動・生息できる空間を確保することが可能です。
これにより、生物多様性を保ちながらエネルギーを生産することが現実のものとなります。

太陽光発電の環境配慮ガイドライン

太陽光発電の環境配慮ガイドラインは、環境省が再生可能エネルギーの普及を進める一方で、地域の生態系や自然環境への影響を最小限に抑えることを目的に策定されています。

このガイドラインは、環境影響評価法や自治体の条例の対象とならない規模の太陽光発電施設においても、事業者が自主的に環境配慮を行うための指針となるものです。

設置と目的

太陽光発電は、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギー源として地球温暖化対策の柱とされています。
しかし、太陽光パネルの設置による森林伐採や土地造成は、生態系への影響や景観の変化を引き起こす可能性があります。

このため、環境配慮ガイドラインは、地域住民や生態系との調和を図りながら、持続可能なエネルギー開発を進めるために策定されました。

このガイドラインは、事業者が事前に環境影響を評価し、適切な計画や運営を行うことを求めています。
また、地域住民や専門家との対話を重視し、透明性のあるプロセスで事業を進めることが期待されています。

ガイドラインの主要な内容

  • 事前調査と環境影響評価
    事業者は、施設を設置する地域の環境条件を十分に調査し、生態系や景観への影響を評価することが求められます。
    これには、土壌の特性、動植物の生息状況、地下水の流れなどの要素が含まれます。
    特に、絶滅危惧種の生息地や重要な生態系の保護が重視されます。
    また、調査結果などから地域の皆様との綿密なコミュニケーションも求められます。
    住民説明会の開催や意見を反映した計画変更など、透明性の高いプロセスが求められます。
  • 土地の安定性環境配慮の第一歩として、適切な設置場所を選ぶことが挙げられます。
    森林伐採を行うのか、平らな土地をどのように作るのか、また、傾斜地では土壌流出を防ぐ設計が求められます。
  • 濁水
    土壌造成の方法や設置場所の土質によっては降雨時の土砂の流出や濁水が流れ込んだりする可能性があります。また、排水先に漁業権が設置されていないか確認が必要になります。
  • 騒音設置後に、パワーコンディショナや空調機器からの騒音が周りに影響を及ぼさないか、事前にカタログなどでどれぐらいの騒音が発生するかを把握し、近隣に住居などがある場合はなるべく遠くへパワーコンディショナを設置する。
  • 反射光
    見通せる範囲に、住宅等の「まぶしさ」を懸念する建物・施設等があるかどうかのチェック、事前の反射光のチェックなどが推奨されます。

工事に関する 粉じん等、騒音・振動
大規模な造成を伴う工事の場合、粉じん等や騒音・振動により影響が生じる可能性のある住宅 等の有無を確認や工事用車両の主な走行ルートについて、沿道に住宅や病院、学校、図書館等、特に配慮が必要な建物が無いかのチェック。

景観
眺望景観(特定の場所から目に映る景色のことで、人々がその場に立ったときに視覚的に得られる風景全体)への影響、地域の景観法の参照を確実に行う。
立地する市町村だけでなく、周辺の市町村に 存在する眺望点や景観資源についても調べる必要があります。

・動物・植物・生態系
重要な動植物の保全に当たっては、専門的な知見が必要です。地域の有識者、コンサルタントなどの専門家に相談し、適切な対策を行うことが推奨されています。

・自然との触れ合いの活動の場
自然との触れ合いの活動とは、自然観察会やハイキング、キャンプなど、その地域における自然環境の様々な特徴に応じて行われる活動のことであり、例えばキャンプ場、海水浴場、公園、登山道、遊歩道、自転車道等が挙げられます。
そういった施設や設備が設置場所の近隣に無いかをチェックします。

▼出典:太陽光発電の環境配慮ガイドライン(令和2年3月)

課題と展望

環境配慮ガイドラインは、持続可能なエネルギー開発に向けた重要な枠組みですが、いくつかの課題も存在します。
特に、中小規模の事業者にとっては、ガイドラインを遵守するためのコストや技術的なハードルが高い場合があります。
また、地域ごとの生態系特性に応じた柔軟な対応が必要であり、現場ごとに適応管理を行う仕組みが求められます。

一方で、最新の技術を活用したモニタリングや、地域住民との連携を強化することで、エネルギー供給と環境保全の両立が可能になると期待されています。

環境への配慮を行っているメガソーラー事例

◇ドイツでは、自然保護強化のために生物多様性太陽光発電というカテゴリーを導入し、太陽光を垂直に建てることで地表への影響を少なくする、アグリ太陽光発電システムの自然保全対策を推進しています。

▼出典:Habeck: „Mehr Tempo und weniger Bürokratie beim Solarausbau“ – Solarpaket steckt Kurs ab für Verdreifachung des Zubautempos

◇米国や欧州では、太陽光パネルやその周辺で在来の植物を育てている事例も多く出てきております。生物多様性を守った太陽光発電に対する電気買取価格のUPなどの措置も検討されているようです。

▼参考:太陽光発電所は生物多様性に貢献できる? 交錯する光と影、研究者と開発業者の言い分

▼参考:パネル周囲が昆虫の家に、太陽光発電の「農業と生物多様性」にもたらすメリット

◇錦海ハビタットでは、太陽光の周りの環境を整えることで、鳥類や水性植物、小動物など様々な生態系への配慮が実現しています。

▼出典:くにうみアセットマネジメント株式会社 メガソーラーと自然との共生を目指す「錦海ハビタット」完成

▼参考:メガソーラービジネス 235MWの国内最大メガソーラー、まちづくりと環境保全に貢献

◇パシフィコ・エナジー古川メガソーラー発電所

宮城県大崎市にあるパシフィコ・エナジー古川メガソーラー発電所では、パネル下の草の除去に、除草剤や農薬を使用せずに羊を活用しています。

▼出典:パシフィコ・エナジー株式会社 古川メガソーラー発電所で、羊による除草を始めました。

太陽光発電と生物多様性の今後

太陽光発電は、気候変動対策として重要な役割を果たしますが、その拡大には生物多様性への影響を十分に考慮する必要があります。
これを実現するには、設計や運用における革新的な取り組みが不可欠です。

農地との共存モデルや立地選定の工夫、生態系を保護する政策を推進することで、クリーンエネルギーと豊かな自然が調和する未来が実現するでしょう。

まとめ

太陽光発電は、脱炭素社会に不可欠なクリーンエネルギーですが、その一方で、メガソーラー建設に伴う森林伐採や土地改変が、地域の生物多様性を脅かすという重要な課題も抱えています。
しかし、このエネルギーと環境のジレンマは、決して乗り越えられない壁ではありません。

解決の鍵は、国の「環境配慮ガイドライン」に基づいた慎重な計画を前提とし、国内外で広がりつつある先進的な共存モデルにあります。

羊による除草や、生態系に配慮したパネル配置、在来植物の育成といった取り組みは、発電効率を維持しながら自然環境を守ることを可能にします。

もはや、単にエネルギーを生産するためだけに土地を消費する時代は終わりを告げました。これからの太陽光発電に求められるのは、「自然と共生する発電所」という新しい価値観です。

事業者、行政、そして地域社会が連携し、賢明な土地利用と技術革新を進めることで、クリーンなエネルギーと豊かな生態系の両方を未来へと引き継いでいくことができるのです。

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