水素の色とは?グリーン水素からブルー水素まで徹底解説!温室効果ガス削減の鍵

地球規模での温暖化対策が急務となる中、次世代エネルギーの主役として「水素」に熱い視線が注がれています。
燃焼時にCO2を排出しない究極のクリーンエネルギーとして、日本も世界に先駆けて国家戦略を策定し、巨額の投資を行うなど、官民を挙げてその活用に大きな期待を寄せています。
しかし、その輝かしいイメージの裏で、実は「どのようにつくられたか」によって環境への影響が全く異なるという事実は、まだ広く知られていません。
現在、水素はその製造方法によって「色」で区別されるのが世界のスタンダードです。
再生可能エネルギーからつくるグリーン水素、化石燃料からつくる際に発生したCO2を回収・貯留するブルー水素、そしてCO2を排出しながらつくる従来型のグレー水素。
他にもターコイズやホワイトなど、その種類は多岐にわたります。どの色の水素を社会の主軸に据えるかが、真の脱炭素化を達成できるかを左右するのです。
この記事では、複雑で分かりにくい水素の種類とその製造方法、それぞれのメリット・デメリットを網羅的に解説します。
さらに、最新の動向として、飲料メーカーのサントリーが山梨県で開始した国内最大級のグリーン水素プロジェクトを深掘り。
国内で初めて製造から販売までを一貫して手掛けるこの挑戦が、日本の水素社会にどのような未来をもたらすのかを考察します。
エネルギー転換の最前線と課題を正しく理解し、私たちの未来を考えるための一助となれば幸いです。


水素とは?
水素は無色、無味、無臭で、室温と常圧での状態は気体です。
宇宙に存在する物質の約75%は水素であり、最も豊富な元素としても有名です。
水素を燃焼させると、副産物として水が生成されるだけで、二酸化炭素などの温室効果ガスは排出されないため、環境に優しいエネルギー源としての利用が期待されています。

▼出典:「水素」ってどんなエネルギー? 水素をエネルギーとして活用する意義とは?
そのため、2030年、2050年の温室効果ガス削減に大きく寄与すると期待されており、日本では2017年に世界で初めてとなる水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定し、2022年までに日本を含む26の国、地域が水素戦略を策定しています。
▼参考:水素基本戦略 令和5年6月6日 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議
また、日本でカーボンニュートラルに向けて創設されたグリーンイノベーション基金2兆円の中、約8,000億円が水素関連技術に割り振られたり、今後15兆円規模を段階的に投資していくことを想定しており、ユーロでも水素関連の技術に2030年までに50億兆円規模を投資ていくことを表明。
アメリカでも4,000憶近くになる気候変動対策費の多くがグリーン水素に振り分けられると言われています。
水素は、燃料電池を通して車やバスの動力としてや水素発電に使われたりしていて脱炭素化に向けて期待されていますが、用途や取扱いを増やしていく未来が求められています。
現在の用途や未来に向けて期待されることは、環境省の水素サプライチェーンプラットフォームで詳しく説明されています。
技術の革新という壁は勿論、取扱いの難しさからインフラの整備という面は切り離せない今後の課題だと言えます。


▼出典:脱炭素化に向けた水素サプライチェーンプラットフォーム
水素の色分けについて
以上のように多くの面で期待されている水素ですが、水素の製造方法で6~7,8種類で色分けがされています。(ドイツ政府は6種類)
水素の製造段階で温室効果ガスが多く出ていたら意味が無いため、そういった水素と区別するために必要とされてきています。
グレー水素
グレー水素は、化石燃料を原料に生成される水素で、製造過程で大量の二酸化炭素(CO₂)が排出されるため、環境負荷が高いとされています。
天然ガス改質が主な生成方法で、水素供給の大部分を占める一方、1トンの水素生成ごとに約9~10トンのCO₂を排出します。
工業分野では重要な役割を果たしますが、気候変動対策の観点からグリーン水素やブルー水素への移行が求められています。
炭素価格や再生可能エネルギーの推進を通じ、持続可能な水素経済への転換が不可欠です
また、グレー水素の中でも。石炭を原料として製造される水素はブラウン水素と呼ばれることもあります。

グリーン水素
グリーン水素は、再生可能エネルギーを利用して水を電気分解することで生成され、製造過程で二酸化炭素(CO₂)を排出しない環境負荷の低い水素です。
この特性から、脱炭素社会を実現する鍵として注目されています。

電力需要が低い時期に余剰電力を水素として貯蔵し、高需要時に再利用するエネルギー貯蔵手段として機能するほか、鉄鋼、化学、航空、海運といった高排出分野の脱炭素化にも活用が期待されています。
最大の課題はコストで、再生可能エネルギーの拡大や電解槽技術の改良が進まない限り、グレー水素やブルー水素より割高です。
また、供給インフラや再生可能エネルギーの安定供給の不足も普及の妨げとなっています。
しかし、欧州連合(EU)をはじめ各国は、グリーン水素の生産拡大やインフラ整備に向けた投資を加速しており、将来的なコスト低下が見込まれます。
例えば、太陽光や風力発電で作られた電力で水を電気分解して作られた水素はグリーン水素と言えますが、グリーン水素は、再生エネルギーを使うことからもどうしても割高になってしまったり、また運送面での課題もあります。
しかし、世界中の多くの国で、温室効果ガス削減とエネルギーの安定供給を同時に実現できる持続可能な技術として、エネルギー転換の中心的存在になることが期待されています。
オーストラリアのクイーンズランド州、ドイツのブンジーデル、バイエルン州、アフリカのナミビア、中国の庫車などで具体的なプロジェクトが進んでいます。
日本では、山梨県が8つの企業と協力してプロジェクトを進めています。


▼出典:山梨県HP グリーン水素とは?将来性や山梨県における取り組みについて解説
現在、官民で力を入れているメタネーションにおいてもグリーン水素の供給が非常に重要な鍵となっています。
※メタネーションとは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を反応させてメタン(CH4)を生成するプロセスで、炭素循環を活用した持続可能なエネルギー変換技術の一つです。
この技術は、主に再生可能エネルギー由来の電力を利用して水を電気分解し水素を生成し、その水素を用いてCO2を変換することでメタンを得る仕組みになっています。
得られたメタンは天然ガスと同様の用途で使用でき、既存のガスインフラをそのまま活用できる点が大きな利点です。

ブルー水素
ブルー水素は、化石燃料を原料に生成される水素の一種で、製造過程で発生する二酸化炭素(CO₂)をCCUS(炭素回収・貯留)技術を用いて削減することで、環境負荷を低減しています。
天然ガス改質など従来の方法で生成されるグレー水素と比べ、CO₂排出を60~90%抑えられるため、脱炭素化の過渡的な解決策として注目されています。
ブルー水素は既存の化石燃料インフラを活用できる利点があり、産業や輸送など高排出分野で重要な役割を果たしています。
ただし、CCUS技術のコストの高さやCO₂貯留の長期的な安全性への懸念が課題であり、完全なゼロエミッションではありません。
また、化石燃料依存を延命させるリスクも指摘されています。
短中期的には化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を支える重要な技術ですが、グリーン水素が主力となる未来に向けて、技術革新と政策支援が不可欠です。
ブルー水素は、脱炭素社会への橋渡しとして、その役割を果たしています。
ここまで紹介した3つの水素については、資源エネルギー庁で紹介されている画像が分かりやすいので載せておきます。

▼出典:経済産業省 資源エネルギー庁 次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?
ターコイズ水素
ターコイズ水素は、メタン分解を用いて生成される水素で、製造過程で二酸化炭素(CO₂)を排出しない点が特徴です。
この方法では、メタンを高温で分解し、水素と固体炭素を生成します。副産物の固体炭素は、建材や電池材料などに活用可能であり、環境負荷が低く、経済的にも利点があります。

このプロセスは、天然ガスやバイオメタンを原料とし、CCUS(炭素回収・貯留)が不要なため、グリーン水素やブルー水素を補完する技術として注目されています。
さらに、再生可能エネルギーを用いて反応エネルギーを供給することで、全体の持続可能性を高めることができます。

課題としては、メタン分解の効率的な制御技術の確立や、生成された固体炭素の需要確保が挙げられます。
また、天然ガスインフラを利用する際のメタン漏れ管理も重要です。
フィンランドのスタートアップHycamiteでは、いち早くターコイズ水素の量産技術を開発しており、カーボンニュートラルは勿論、さらにカーボンネガティブの可能性も探っています。
イエロー水素
イエロー水素は、原子力発電を利用して水を電気分解し生成される水素であり、その過程で二酸化炭素(CO₂)を排出しないため、環境負荷が低いクリーンな水素とされています。
原子力発電の特長である安定的な電力供給を活用することで、気象条件に左右される再生可能エネルギーと比較して、安定した水素の生産が可能となります。
この特性は、エネルギー需要が変動する状況や水素の安定供給が求められる産業分野において、大きな利点を持ちます。
イエロー水素の利点として、既存の原子力インフラを活用できるため、大規模な新規設備投資が不要である点が挙げられます。
また、脱炭素社会を目指す中で、原子力発電の余剰電力を効率的に活用する手段としても注目されています。
一方で課題もあります。原子力特有の課題である核廃棄物の処理問題や施設の安全性、また原子力への社会的な懸念を払拭する必要があります。
さらに、原子力を利用することが本当に「クリーンエネルギー」として認められるのか、持続可能性の観点から議論が続いています。
ウラン鉱石精製の過程の濾過液から得られるウラン含量の高い粉末、イエローケーキが名前の由来になっています。
以前は、バイオマス由来の水素を指していたパープル水素も原子力由来の水素をさす場合もある。

ホワイト水素
ホワイト水素は、自然界に存在する天然由来の水素で、火山活動や地殻内部の化学反応などによって生成され、地表付近に蓄積されます。
人工的な生成プロセスを必要としないため、二酸化炭素(CO₂)を排出しない完全なゼロエミッションの水素として注目されています。
この特性により、採取さえできれば、非常に低コストかつ環境負荷の少ない持続可能なエネルギー源となる可能性があります。
主な利点は、生成時のエネルギーコストが不要で、温室効果ガス排出がゼロである点です。地域のエネルギー自給率を向上させる可能性もあり、持続可能な水素経済の一部として重要な役割を果たすことが期待されています。
一方で、ホワイト水素の分布や存在量に関するデータが限られており、採取が持続可能かどうかは不確かです。
また、効率的で地質環境への影響が少ない採取技術の開発が課題とされています。

▼出典:ロシア・欧州:石油ガス収入上のドル箱・欧州が進める脱炭素化(水素戦略及び国境炭素税導入)の 動きとロシアの対応(発表された 2035 年までの長期エネルギー戦略を中心に)
サントリーの挑戦:国内最大級のグリーン水素プロジェクト
今回注目を集めているのが、サントリーHDが山梨県北杜市で進めるグリーン水素プロジェクトです。
これは、国の「グリーンイノベーション基金事業」にも採択されている国家的なプロジェクトの一環でもあります。
- 国内最大級の生産能力:建設中の製造施設では、年間最大2,200トンのグリーン水素を生産する計画です。これは国内でも最大規模の生産能力を誇ります。
- 再生可能エネルギーを活用:山梨県の豊富な日照時間を活かした太陽光発電や水力発電など、100%再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解し、グリーン水素を製造します。
- 自社工場での利用と外販:「サントリー天然水 南アルプス白州工場」ではボイラーの熱源として、「白州蒸溜所」ではウイスキーの蒸留工程での利用を検討しており、自社の脱炭素化を推進します。
- 首都圏への供給拠点へ:さらに、2027年以降は自社での消費分を除いた余剰分を、山梨県内や東京都内の工場など、他の事業者向けに販売する計画です。
産業ガス大手の巴商会と協力し、水素の輸送から供給まで一貫したサプライチェーンを構築します。
このプロジェクトにより、サントリーは国内で初めてグリーン水素の製造から輸送、販売までを一手に担う企業となる見込みです。
▼参考:サントリー、「天然水」やウイスキーに使うグリーン水素を製造・販売へ…最大年間2200トン生産
なぜサントリーが?なぜ山梨で?プロジェクトの意義
このプロジェクトは、単なる一企業の取り組みに留まりません。
サントリーは「水と生きる」を企業理念に掲げ、長年にわたり水のサステナビリティや水源の涵養活動に取り組んできました。
今回のプロジェクトは、その企業姿勢をエネルギー分野にも展開した、まさにサントリーらしい挑戦と言えます。
また、舞台となる山梨県は、日照時間が日本一長く太陽光発電のポテンシャルが高いことに加え、豊富な水資源にも恵まれており、グリーン水素の製造に最適な土地です。
さらに、大消費地である東京に隣接しているという地理的優位性も、水素の供給網を構築する上で大きな強みとなります。
山梨県とサントリー、そして関連企業が一体となることで、「やまなしモデル」とも言える地産地消型のグリーン水素サプライチェーンを構築し、それを首都圏にまで拡大しようとしているのです。
これは、日本の他の地域にとっても、水素社会を実現する上での大きなヒントとなるでしょう。

▼出典:サントリーグループの企業理念
まとめ
脱炭素社会実現の切り札として、世界的に水素エネルギーへの期待が高まっています。
しかし、一言で水素と言ってもその製造方法によって環境負荷は大きく異なり、「色」による分類を理解することが不可欠です。
製造時に二酸化炭素を排出しないグリーン水素が究極のクリーンエネルギーとされる一方、排出されるCO2を回収・貯留するブルー水素や、安価ですが環境負荷の高いグレー水素など、多様な選択肢が存在します。
こうした中、飲料大手のサントリーが山梨県で国内最大級のグリーン水素プロジェクトを開始したことは、日本の未来を象徴する動きです。
豊富な再生可能エネルギーと水資源を活かし、製造から輸送、販売までを一貫して手掛ける国内初のビジネスモデルを構築。
自社工場での利用に加え、2027年からは首都圏への供給も目指します。
企業の理念を社会課題解決とビジネスに繋げるこの先進的な「やまなしモデル」は、日本の水素社会への移行を力強く後押しする試金石となるでしょう。
