LPG(液化石油ガス)とは?天然ガスとの違いと利用方法を徹底解説

LPG(液化石油ガス)は、家庭用のガスコンロや給湯器、自動車燃料、工業用エネルギーとして幅広く利用されているクリーンエネルギーです。
一般的に「プロパンガス」として知られていますが、都市ガスや天然ガスとは異なる特性を持っています。
LPGは可搬性に優れ、都市部だけでなく地方の家庭や工業施設でも活用される重要なエネルギー源です。
本記事では、LPGの定義や成分、用途を詳しく解説するとともに、都市ガスや天然ガスとの違い、安全性やコスト面の特徴についても掘り下げます。
また、LPGを燃料とする車両(LPG車)のメリット・デメリットについても紹介し、環境負荷や経済性の観点からその有用性を検証します。
LPGについて正しく理解し、自身の生活やビジネスに最適なエネルギー選択をするための参考にしてください。

LPGの基本情報
定義と成分
LPG(液化石油ガス:Liquefied Petroleum Gas)は、常温・低圧の気体を圧縮・冷却して液体にした可燃性ガスです。
主成分はプロパン(C₃H₈)とブタン(C₄H₁₀)で、これらが単独または混合された形で供給されます。
LPGは原油の精製過程や天然ガスの採掘時に副産物として得られ、主に家庭用燃料、工業用途、車両燃料として利用されます。
LPGの特徴として、液化時に体積が約250分の1に圧縮されるため、持ち運びや貯蔵がしやすく、都市部だけでなく地方の家庭や業務用施設でも利用されています。
また、燃焼時に硫黄酸化物(SOx)をほとんど排出せず、比較的クリーンな燃料とされています。

▼出典:財団法人 エルピーガス振興センター 1.LPガスってなあに?
LPGの種類と用途
LPGには主にプロパンガス(C₃H₈)とブタンガス(C₄H₁₀)の2種類あり、それぞれ異なる特性を持ちます。
- プロパンガス:沸点が低いため寒冷地でも気化しやすく、家庭用のガスボンベや業務用厨房、産業用ボイラー、ガスエンジン発電などに広く使われます。
- ブタンガス:プロパンに比べて沸点が高く、気化しにくいため、主に温暖な地域での利用が多く、ライターやカセットコンロ、エアゾール製品の噴射剤として使われます。
また、LPGは用途によっても分類されます。
- 家庭用・業務用:ガスコンロ、給湯器、暖房器具
- 産業用:金属加工、セラミック・ガラス製造、食品加工
- 自動車用(オートガス):タクシーや配送トラックの燃料
- 発電用:分散型電源や非常用発電機
LPGはその特性から可搬性・エネルギー密度・燃焼時のクリーン性に優れ、エネルギー供給の多様化を支える重要な燃料として利用されています。
LPGと他のガスの違い
LPガスと都市ガスの違い
LPガス(液化石油ガス)と都市ガスは、成分・供給方法・熱量・使用機器の点で大きく異なります。

- 熱量の違い:LPガスは都市ガスの約2倍の熱量を持つため、同じ量でも強い火力を得られる。
- 供給方法の違い:都市ガスは導管網が必要なため、整備されていない地域では利用できない。
一方、LPガスはボンベ配送が可能なため、離島や山間部でも利用しやすい。
- 機器の違い:LPガスと都市ガスではガスの特性が異なるため、互換性がなく、専用のガス機器を使用する必要がある。
LPGとLNGの違い
LPG(液化石油ガス)とLNG(液化天然ガス)は、成分・液化条件・用途が異なります。

- 液化条件の違い:LPGは比較的容易に液化できるため、ボンベやタンクで貯蔵・輸送が可能。
一方、LNGは-162℃という極低温で液化するため、専用の冷却設備が必要。
- 用途の違い:LPGは分散型エネルギー(家庭用・業務用・自動車燃料など)として使われることが多いのに対し、LNGは大規模エネルギー供給(発電所や都市ガスなど)に適している。
- 供給方法の違い:LPGは配送・ボンベ供給が可能なため、導管が整備されていない地域でも利用できる。
LNGは大量供給が前提のため、パイプライン網や専用の貯蔵タンクが必要。


LPGの安全性とメリット
安全性と基準
LPGは、適切に取り扱えば安全なエネルギーですが、引火性が高く、空気より重いため、適切な基準のもとで管理されています。
各国では、厳格な安全基準が設けられ、家庭・業務用・工業用の各分野で安全に使用できるよう規制が整備されています。
主な安全対策・基準
- ガス漏れ防止対策:LPGには臭いのないガスが含まれているため、漏れを検知しやすくするために着臭剤(特有の臭いをつける添加物)が加えられています。
- 保安点検・設備基準:各国の法規制により、定期的な保安点検が義務付けられており、特に日本では「液化石油ガス保安規則」に基づき、ガス設備やボンベの点検・交換が求められています。
- ガス警報器の設置:LPGは空気より重いため、低い場所に溜まりやすい特性がある。
そのため、ガス漏れを検知するために床付近にガス警報器の設置が推奨されています。
- 耐震性の向上:地震が多い国では、耐震自動遮断装置が導入され、異常な揺れを感知すると自動的にガス供給を遮断する仕組みが普及しています。

LPGのメリット
LPGは、利便性の高いクリーンエネルギーとして、さまざまな用途で活用されています。
- 供給の柔軟性:ボンベやタンクを使用するため、都市部だけでなく、ガス導管が整備されていない地方や離島でも利用可能。災害時にも代替エネルギーとして有効。
- 高いエネルギー密度:LPGは都市ガスの約2倍の熱量を持ち、少量で高い熱量を発生できるため、調理や暖房に適している。
- クリーンな燃焼特性:燃焼時に硫黄酸化物(SOx)や煤(すす)をほとんど発生しないため、大気汚染物質の排出が少なく、環境負荷が低い。
- 即時供給が可能:LPGは気化しやすいため、すぐに燃焼が可能。発電機や暖房器具において、点火までの時間が短い。
- 自動車燃料としての利点:LPG車は、ガソリンよりCO₂排出量が少なく、燃料コストが安いため、タクシーや配送車で多く利用されている。


▼出典:一般社団法人 全国LPガス協会 LPガス業界におけるカーボンニュートラル の対応について
LPGのデメリット
LPGには多くの利点があるものの、利用時に考慮すべきデメリットも存在する。
- 価格変動の影響を受けやすい:LPGは原油価格に連動するため、価格が変動しやすく、ガス代が安定しにくい。
- 貯蔵スペースが必要:ボンベやタンクを設置する必要があり、都市ガスのように地下配管で供給されるわけではないため、スペースの確保が必要。
- 供給の手間:家庭用の場合、定期的なボンベ交換が必要であり、都市ガスのように継続的な供給がされるわけではない。
- 漏れた際の危険性:LPGは空気より重いため、換気が不十分な場所では低い位置に溜まりやすく、ガス漏れが発生すると滞留しやすい。
そのため、適切な換気や警報器の設置が重要。

LPGの料金とコストについて
料金体系
LPG(液化石油ガス)の料金は、基本料金 + 従量料金の2つで構成されます。
- 基本料金:ガスメーターや供給設備の維持管理費にあたる固定料金。
一般的に月額で請求され、使用量に関係なく発生する。
- 従量料金:実際のガス使用量に応じて課金される。単位は円/m³(立方メートル)や円/kgで設定され、使用量が多いほど単価が変動することもある。
価格変動要因
LPGの料金は、都市ガスに比べて価格変動の影響を受けやすい。主な要因は以下のとおり。
・原油価格の変動:LPGは原油精製の副産物のため、国際的な原油価格に左右される。
・輸送コスト:LPGはボンベやタンクで個別供給のため、配送コストが地域や契約会社によって異なる。
・契約形態:プロパンガスは、自由料金制のため、ガス会社ごとに価格が異なる。
一方、都市ガスは政府や自治体が価格調整を行うため、比較的安定している。
都市ガスとLPガスの料金比較
LPガスと都市ガスは、料金体系や供給方法が異なるため、コスト面での違いがある。

▼出典:プロパンガス消費者センター 都市ガスとプロパンガスの4つの違い
- LPGの熱量は都市ガスの約2倍あるため、単純な単価比較はできない。1m³あたりの料金は高いが、使用量が少なくても同等の火力を得られる。
- 都市ガスは安価で安定供給できるが、ガス管が整備されている地域でしか利用できない。
一方、LPGは供給エリアに制限がなく、都市ガスが通っていない地方や山間部でも利用可能。
- LPGの価格は契約会社ごとに異なり、交渉や会社選びが料金に影響する
※プロパンガスの適正価格とは?
プロパンガス(LPG)の適正価格とは、供給コスト・市場価格・適正な利益を考慮した、公平かつ妥当な料金水準を指します。
しかし、プロパンガスは自由料金制のため、地域や販売店によって価格が異なり、明確な基準が存在しないのが特徴です。
LPGの使用料金を抑える方法
LPGの料金を節約するには、契約の見直しと日々の節約術が重要。
ガス会社を比較・見直す
- 契約会社を比較する:LPガスは自由料金制のため、会社ごとに価格が異なる。複数の会社を比較し、安価な業者を選ぶのが有効。
- 共同購入を検討する:近隣住民と共同で契約することで、ボンベ配送のコスト削減や価格交渉がしやすくなる。
▼参考:資源エネルギー庁 LPガスの契約を透明化!私たちにも影響する、法制度改正の中身とは?
ガス使用量を減らす
- 省エネ型のガス機器を導入:エコジョーズ(高効率給湯器)など、燃焼効率の高い機器に買い替えると、ガス使用量を大幅に削減できる。
- 調理方法の工夫:ガスコンロを使う際は鍋の底を火にしっかり当てる・余熱を活用するなどの工夫で、無駄なガス消費を抑えられる。
- 断熱効果を活かす:給湯器の温度設定を適切にする、浴槽に蓋をすることで熱を逃がさない工夫をすることでガス代を節約。
ガス使用の最適化
- オール電化との比較検討:家庭のエネルギー使用状況によっては、電気給湯器(エコキュート)やIHクッキングヒーターを導入することでガスの使用量を減らせる。
- 都市ガスが利用可能なら切り替えを検討:都市ガスが利用できるエリアなら、LPGよりコストが安定しやすいため、契約変更も選択肢になる。
LPG車について
特徴とメリット
LPG車(液化石油ガス車)は、ガソリンやディーゼルの代わりにLPGを燃料として使用する車両です。
主にタクシー・商用車・配送トラック・公用車として利用され、環境負荷の低さや燃料コストの安さが評価されています。

主な特徴
- 燃料はLPG(プロパン・ブタン)を使用し、気化器(ベーパライザー)でガスを気化させてエンジンに供給。
- LPG専用エンジンまたはバイフューエル車(LPG+ガソリン併用)として設計される。
- 燃料タンクは高圧耐性のある特殊な容器を使用し、安全対策が施されている。
- 国内ではタクシーや業務用車両で広く普及しており、給油設備が限られるため一般ユーザー向けのLPG車は少ない。

▼出典:日本LPガス協会 LPG車の特長
LPG車のメリット
・燃料コストが安い
LPGはガソリンより価格が安定しており、ランニングコストが抑えられる。
燃料価格は地域差があるが、1リットルあたりの単価はガソリンより30〜50%程度安価。
・排出ガスがクリーン
CO₂排出量が少なく、ガソリン車より約10〜15%削減可能。 窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)をほぼ排出しないため、大気汚染対策にも貢献。
・エンジンの寿命が長い
LPGは燃焼時にススやカーボンの堆積が少ないため、エンジン内部の摩耗が抑えられる。 エンジンオイルの劣化が遅いため、メンテナンスコストが削減できる。
・静かでスムーズな走行
LPGは燃焼時の振動が少なく、エンジン音が静か。 特にアイドリング時の騒音が小さいため、タクシーや都市部の車両に適している。

▼出典:日本LPガス協会 LPG車の特長
デメリット
LPG車には多くのメリットがある一方で、燃料供給のインフラやエンジン性能の制約といったデメリットもある。
LPGスタンドの数が限られる
- 日本全国のLPGスタンドは約1,500か所(2024年時点)で、ガソリンスタンドより圧倒的に少ない。
- 一般向けのスタンドはほぼなく、タクシーや公用車向けの施設が中心。
航続距離が短い
- LPGはエネルギー密度がガソリンより低いため、同じ体積では走行距離が短くなる。
- LPG専用車はガソリン車より燃費が劣るため、長距離走行には不向き。
一般向け車両の選択肢が少ない
- LPG車は商用車やタクシー向けが主流で、一般向けの新車販売はほとんどない。
- バイフューエル車(LPG+ガソリン)は一部のメーカーが提供しているが、日本国内では販売台数が少ない。
初期コストが高い
- LPG車はガソリン車よりエンジンや燃料システムの改造が必要で、導入コストが高め。
- 企業や自治体向けには補助金があるが、個人での導入にはハードルがある。
LPG車の燃費と経済性
LPG車の燃費
- LPGはエネルギー密度が低いため、燃費はガソリン車より10〜20%程度悪い。
- 一般的なLPGタクシー(1.5Lクラス)での実燃費: LPG車:約7〜10km/L 同クラスのガソリン車:約10〜13km/L

▼出典:LPガス自動車普及協議会 経済性
燃料コスト比較(2024年の参考価格)

→ LPG車はガソリン車より燃費は劣るが、燃料価格が安いためコストメリットがある。
LPG車の経済的メリット
- 走行距離が多いほどコストメリットが大きいため、タクシーや配送車に適している。
- エンジン寿命が長いため、長期的なメンテナンスコストが低減。
- 自治体によってはLPG車の導入補助金があるため、事業者にとって有利。
まとめ
LPG(液化石油ガス)は、プロパンやブタンを主成分とする可燃性ガスで、家庭用燃料や工業用途、自動車燃料として幅広く利用されています。
都市ガスとは異なり、ボンベやタンクで供給されるため、地方や災害時でも活用しやすい特徴を持ちます。
LPGは熱量が高く、燃焼時の排出ガスがクリーンである一方、価格変動が大きく、貯蔵スペースが必要といった課題もあります。
都市ガスと比較すると料金が高めですが、エネルギー密度が高いため、少ない量で効率的に熱を得られる点がメリットです。
LPG車は燃料コストが安く、排ガスが少ないため、タクシーや業務用車両として普及しています。
ただし、燃費がガソリン車より劣ることや、LPGスタンドの数が限られている点が課題です。
総じて、LPGは環境負荷が低く、供給の柔軟性が高いエネルギー源として有望ですが、利用コストや供給インフラの状況を考慮し、最適な選択をすることが重要です。