サステナビリティレポートとは?│作成方法と重要性を自社の取り組みを交えて説明 

サステナビリティレポートは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する取り組みを透明性を持って報告するための文書です。

その成り立ちは、企業が社会的責任(CSR)を果たすために、環境保護や社会的公平性への関心が高まった1990年代に遡ります。

当初は環境報告書が主流でしたが、1990年代後半にさらに情報開示が進み、主に企業の社会的責任(労働環境、法令遵守、社会貢献など)に焦点を当てた報告書であるCSRレポートを経て、2000年代以降、企業活動が多面的に評価されるようになり、環境のみならず社会貢献やガバナンスも含む「サステナビリティレポート」へと進化しました。

多くの企業がサステナビリティレポートを発表する中、各企業のHPから容易に閲覧することができ、また各社がランキング化するなどしているため良質なサステナビリティレポートに容易に触れることが出来るようになっている反面、各企業が独自性を出していくことが重要になってきています。

▼参考:法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki
サステナビリティレポート20選|ランキングで評価が高いレポートを解説

サステナビリティレポートは、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、持続可能な未来を築くための指標として活用されます。
しかし、何から始めれば良いのか迷う企業も多いでしょう。

本記事では、サステナビリティレポートを成功させるための基本的なステップを分かりやすく解説し、実践的なアプローチをご紹介します。

※弊社でも、サステナビリティレポート2025を公開しております。
▼参考:TBM 「Sustainability Report 2025」

(『働く社員の姿が見える』をこだわりのポイントとして作成しています)

目次

サステナビリティレポートの作成

1. 目的と範囲の明確化

最初に、レポートの目的を明確にし、どの範囲をカバーするのかを定めます。この段階では、以下の点を考慮します。

・目的の設定:報告することで何を達成したいのか

→利害関係者への透明性、企業の信頼性向上、投資家へのアピールなど

・レポートの範囲:レポートの対象期間(例:年度単位)、報告対象(全社、子会社も含めたグループ会社全体、特定事業部門、特定地域)など。

・自社におけるサステナビリティレポートの位置づけも定めます。

▼出典:花王 サステナビリティレポート2024

▼出典:積水化学グループ 統合報告書 2023

・基準の選択:GRIスタンダード、SASB、TCFD、環境報告ガイドライン2018年度版など、どの(国際)基準に従うかを決めます。
1つの基準のみを選択するのではなく複数を参照、参考にしていくことはほとんどです。
日本の企業では、GRIスタンダードと環境報告ガイドラインは選択されていることが多いです。

参照
GRIスタンダード:日本語版

SASB(Sustainability Accounting Standards Board)公式サイト
→業界ごとのサステナビリティ基準が確認でき、投資家向けのレポート作成に役立ちます。

TCFD終了!?新しい気候変動開示基準 IFRSと日本への影響について

環境報告ガイドライン2018年度版

2. ステークホルダーの特定

レポートの主要な読者(ステークホルダー)を特定し、彼らのニーズや期待を理解します。ステークホルダーには、以下が含まれます。

・投資家や株主

・顧客

・社員

・規制当局

・地域社会

3. 重要課題の特定(マテリアリティ分析)

次に、企業のサステナビリティに関連する重要課題(マテリアリティ)を特定します。このプロセスでは、企業の事業活動が環境や社会にどのような影響を与えるか、また逆にそれらの課題が企業にどのような影響を与えるかを評価します。多くの企業は、次のステップを実行します。

・リスクと機会の特定:環境的、社会的、ガバナンス(ESG)の観点から、企業にとってのリスクと機会を洗い出す。

・優先度の決定:利害関係者の意見や業界の動向を参考に、企業にとって最も重要な課題を選びます。

▼参考:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の役割と活動とは?

▼参考:企業ガバナンスを強化する様々な委員会の種類について

4. データ収集と分析

サステナビリティに関連するデータを収集し、分析します。これには、以下が含まれます

・環境データ:温室効果ガス排出量、水使用量、エネルギー消費量など。

・社会データ:労働環境、従業員の多様性とインクルージョン、社会貢献活動など。

・ガバナンスデータ:企業のコンプライアンス、倫理、リーダーシップの透明性など。

5. レポートの作成

集めたデータを基に、わかりやすくレポートを作成します。

全体の構成→ページ構成という形で作成を進めますが、この段階では、次のポイントに注意します。

・目標と実績の対比:設定したサステナビリティ目標と、実際の進捗を明確に示します。

・重要マテリアリティ、課題を分かりやすく示す。

・図表の活用:データを視覚的に理解しやすくするために、グラフやインフォグラフィックを用います。

・成功事例の紹介:成功した取り組みやプロジェクトを具体的に紹介します。

6. 外部評価・レビュー

信頼性を高めるために、第三者機関によるレビューや認証を受けることを検討します。
GRIなどガイドラインに沿ってサステナビリティレポートのレビューは行なわれ、レポートの正確性と透明性を保証し、利害関係者に対する信頼感が向上します。

レビューでは、他社比較や次に取り組む内容についての提案なども組み込まるケースが多いです。

7. 公表・利害関係者との対話

最終的なレポートは、企業のウェブサイトやプレスリリースなどを通じて公表します。
また、利害関係者との対話やフィードバックを通じて、次年度の報告に反映するための改善点を見つけます。

8. 改善サイクルの実施

サステナビリティは継続的なプロセスです。レポート作成後、結果を踏まえて次年度に向けた改善策を計画し、PDCAサイクルを回すことで持続的な進化を目指します。
上記の段階を経て、企業のサステナビリティへの取り組みを透明に、かつ効果的に伝えるレポートを作成できます。

GRIスタンダードについて

日本の企業で、多く採用されているGRIスタンダードは、本部がオランダのアムステルダムにおかれており、企業や組織がサステナビリティに関する情報を報告するための国際的なフレームワークです。

環境、社会、経済における企業の影響を測定し、透明性をもってステークホルダーに伝えることを目的としています。
GRIスタンダードは、さまざまな業界や企業規模に適応でき、グローバルに広く採用されている報告基準です。

基準は柔軟であり、報告内容を組織の状況に合わせてカスタマイズ可能です。
何百ページあるガイドラインの中から自社で採用できるところを参照していくことがスタートになります。

GRIスタンダードの最大のメリットは、さまざまなステークホルダーにとっての信頼性と比較可能性が高い点です。
企業のサステナビリティ戦略や実績を透明に示し、投資家や消費者、規制当局に対して信頼を築くために役立ちます。

GRIスタンダードを参照した場合は、レポートのどの部分を参照しているかの対照表を作ることで参照している部分を明確にします。

▼参考:三菱地所グループHP GRIスタンダード対照表

参考にしたいサステナビリティレポート他

・株式会社メルカリ

説明の簡潔さ、価値創造プロセスなどビジュアルの分かりやすさ

▼出典:株式会社メルカリ Impact Report2023

ページデザインの分かりやすさで

Apple Inc.

Amazon.com, Inc.

サステナビリティレポートと共にサステナビリティレポートのダイジェスト版サステナビリティアクションブックも同時に発刊

ソフトバンク

サステナビリティレポートではなく統合報告書ですが、

・株式会社丸井

協力会社のメッセージや社員の声、役員のフロー体験談などのコンテンツ

▼出典:丸井グループ 共創経営レポート 2023

サステナビリティレポートとCSRレポートや各種報告書との違い

サステナビリティレポートは、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)に関連する取り組みを総合的に報告する文書です。
他の各種報告書との違いを以下にまとめます。

・CSRレポート

主に企業の社会的責任(CSR)に焦点を当て、社会貢献活動や倫理的行動を強調します。
サステナビリティレポートはCSRレポートを含み、さらに環境やガバナンスの要素も報告します。

・環境報告書

環境影響(エネルギー使用、廃棄物管理など)に特化しています。
サステナビリティレポートは、環境だけでなく社会やガバナンス要素も網羅します。

・統合報告書

財務情報とESG情報を統合して提供する報告書。
サステナビリティレポートは主に非財務情報に焦点を当てる一方、統合報告書は財務情報も含めて企業の全体的な価値創造プロセス(ストーリー性を問われます)を説明します。

・年次報告書(アニュアルレポート)

企業の財務実績や業績を中心にまとめたもので、ESG要素は補足的に扱われることが多い。
サステナビリティレポートは非財務情報を中心に、ESGに関する取り組みと成果を詳細に記述します。

サステナビリティレポートのメリットと重要性

サステナビリティレポートは、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する取り組みを体系的に整理し、外部に伝えるための戦略的な情報開示ツールです。

このようなレポートが企業にもたらす主なメリットは以下のとおりです。

1. 透明性と信頼の向上

サステナビリティレポートは、企業が環境保全や社会的責任にどのように取り組んでいるかを具体的に示す手段です。
誠実で一貫した情報開示は、投資家や顧客をはじめとする多様なステークホルダーとの信頼関係を構築する礎となります。

2. リスクマネジメントの可視化

気候変動や人権問題といった非財務リスクの影響が高まる中、企業がそれらにどう対応しているかを示すことは、将来の経営安定性を担保するうえで欠かせません。
サステナビリティレポートは、こうしたリスク対応の枠組みを明文化し、経営判断の透明性を高めます。

3. 競争力の向上とブランド価値の強化

持続可能なビジネスモデルを持つ企業は、消費者・投資家・求職者から高い評価を受ける傾向にあります。
レポートによって環境や社会課題への取り組みを可視化することで、企業イメージの向上や市場での差別化が図れます。

4. 規制遵守と法的リスクの軽減

ESGに関する規制は年々強化されており、法令への適切な対応は企業にとって重大な責務です。
レポートを通じてコンプライアンス体制を明確にすることにより、将来的な罰則や風評リスクの回避に繋がります。

5. 資金調達における優位性の獲得

ESG投資が世界的に拡大する中、サステナビリティへの姿勢が投資判断の重要な要素となっています。
具体的な成果や計画をレポートに示すことで、ESG投資家の信頼を得やすくなり、資金調達の円滑化が期待できます。

加えて、サステナビリティレポートが果たす本質的な役割として、以下の4つの重要性が挙げられます。

1. 持続的成長のための経営基盤の確立

環境破壊や社会的格差といった地球規模の課題に企業が真摯に向き合うことは、長期的な企業価値の維持・向上に直結します。
サステナビリティレポートは、その実践の成果を体系的に表現し、持続可能な成長戦略の土台を支えます。

2. 説明責任の遂行と社会的信頼の獲得

今日の企業は、単なる収益性だけでなく、その活動が社会や環境に与える影響についても説明を求められています。
レポートは、企業がどのように責任ある行動をしているかを明示し、多様なステークホルダーの信頼を獲得する鍵となります。

3. 社会的インパクトの可視化と評価

企業が社会にどのような貢献をしているのかを、定量的・定性的に記録・公開することは、自社の価値を正しく理解してもらうために不可欠です。
インパクトの見える化は、消費者との関係深化や、社会的信頼の醸成に貢献します。

4. 国際競争力の維持・強化

持続可能性はもはや一過性の流行ではなく、国際的な経済秩序の中核となりつつあります。
多国籍企業やグローバル市場での競争においては、ESGの観点からの情報発信が求められます。
サステナビリティレポートは、そうした国際的要請に応えるための必須要件です。

▼参考:Z世代の関心も高いサステナビリティレポートとは? | 一般社団法人リジェネレーション(Re-Generation)

まとめ

サステナビリティレポートは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する取り組みを透明性を持って報告するための重要な文書です。
その起源は1990年代の環境報告書に遡り、2000年代以降はCSR(企業の社会的責任)と統合され、企業活動の持続可能性を包括的に示すレポートへと進化しました。

本記事では、サステナビリティレポートを作成するための基本的なステップを解説しました。まず、目的と範囲の明確化を行い、どの基準(GRIスタンダード、SASB、TCFDなど)に準拠するかを決定します。

次に、ステークホルダーの特定とマテリアリティ分析を通じて、企業にとっての重要課題を抽出。
データ収集・分析を進め、分かりやすいレポート構成を作成し、第三者評価を受けることで信頼性を確保します。
最終的には、公表・対話を通じて継続的な改善を促し、PDCAサイクルを回していきます。

また、サステナビリティレポートは単なる情報開示ではなく、企業の競争力向上投資家へのアピールリスク管理ブランド価値の向上にも貢献します。
透明性を高め、社会的責任を果たすことで、企業の持続可能な成長を支えるツールとなるのです。

サステナビリティレポートは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを明確にし、ステークホルダーとの信頼関係を築くために不可欠です。
適切なフレームワークを活用し、実践的なアプローチを採ることで、効果的なレポートを作成し、企業価値を高めることができます。

SNSシェアはこちら
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次