IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の役割と活動とは?

地球温暖化の影響は、もはや遠い未来の話ではなく、洪水や干ばつ、熱波などの異常気象としてすでに世界各地で顕在化しています。
こうした現象の原因や将来のリスクを科学的に整理し、各国の政策や企業の戦略に活用できる形で示しているのが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)です。

IPCCは1988年に国連機関によって設立され、世界中の研究成果をレビューして「評価報告書」を発表しています。
この報告書は、最新の科学的知見を体系化し、気温上昇や海面上昇の予測、緩和策や適応策の方向性を提示するものです。
過去にはパリ協定の目標設定にも活用されるなど、国際的な合意形成に欠かせない情報源となってきました。

2022年に公表された第6次評価報告書(AR6)では、すでに平均気温が産業革命前より約1.1℃上昇している現実が示され、1.5℃以内に抑えるには2050年までに実質ゼロ排出が必要と明言されています。
さらに、異常気象の頻度増加や途上国への影響も強調され、迅速な対策の必要性が強く訴えられました。

本記事では、IPCCの仕組みや評価報告書の作成プロセス、そして最新のAR6の要点や今後の動向をわかりやすく解説し、企業や社会がどのように気候変動対策に向き合うべきかを考えます。

目次

IPCCとは、キーワードは「科学的根拠」


IPCC(気候変動に関する政府間パネル、Intergovernmental Panel on Climate Change)は、1988年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が共同で設立した国際的な機関です。
その主な目的は、気候変動に関する最新の科学的知見を評価し、各国政府や政策立案者が信頼できる情報を基に効果的な対策を構築できるよう支援することにあります。

IPCCは独自の研究を行うのではなく、世界中の科学者が発表した膨大な研究を体系的にレビューし、気候変動に関する科学的な合意形成を促す役割を果たしています。
この合意形成は、科学者や政策立案者が同じ情報基盤のもとで行動を計画する上で重要です。

その中で、IPCCは定期的に「評価報告書(Assessment Report)」を発表しており、これは気候変動の科学的な現状、原因、未来の影響予測、ならびに緩和策や適応策の提案を含んでいます

IPCCの活動には、国連加盟国とWMO加盟国のすべてが参加可能であり、現在では195の加盟国が参加しています。
これらの国々は、IPCCの総会や作業部会に代表を送り、報告書の作成や承認プロセスに関与しています。
この広範な参加は、IPCCの報告書が世界的に受け入れられ、各国の気候政策に影響を与える要因となっています。

IPCCの構成


IPCCは主に3つの作業部会で構成されており、それぞれが異なる分野を担当しています。第1作業部会は気候変動の科学的基礎を、第2作業部会は影響、適応、脆弱性を、第3作業部会は緩和策について扱います。

これらの作業部会は、世界中の多くの専門家や科学者の協力を得て、各テーマに関する最新の知見を集約します。また、各評価報告書には「政策決定者向け要約(Summary for Policymakers)」も含まれ、一般的な理解を促すための要約が提供されています。

上記の動きを受けて、先進国と途上国から選ばれた執筆者が報告書を作成し、専門家や政府関係者が査読を行います。
査読編集者によって査読コメントが確認され、最終的な報告書(それぞれの部会で作られた報告書と、その三つの報告書を統合した「統合報告書」で構成)が完成、IPCCの公式ホームページに掲載されます。さらに掲載後も専門家のコメントを求めます。

一方、インベントリ・タスクフォースは温室効果ガスの排出目録作成の査定、普及、及び改訂を担当しています。多くの国から専門家が集まり、協力しながら中立性と科学的根拠に基づいた評価報告書が作成されているのです。

(参照:気象庁|気候変動に関する政府間パネル(IPCC https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html

評価報告書の役割


IPCCは2つの評価報告書には、5〜6年ごとに発表され、気候変動に関する最新の科学研究成果をまとめた「定期評価報告書」のほか、特定のテーマに焦点を当ててまとめられ、気候変動に関する方法論の指針も含まれる「特別評価報告書」の2種類があります。

いずれの報告書も特定の国・地域が有利になることなく中立な状態で作られており、各国の環境政策の決定や見直し、国際交渉の際に基礎情報として使用されています。

2015年のパリ協定で定められた目標もIPCCが発表した評価報告書の内容を参考にしたものです。定期評価報告書は1990年の第1次から2002年の第6次まで、これまで6回にわたって発表されています。

第1次評価報告書 1990年

第2次評価報告書 1995年

第3次評価報告書 2001年

第4次評価報告書 2007年

第5次評価報告書 2014年

第6次評価報告書 2022年

▼出典:環境省 IPCC第5次評価報告書の概要

第6回IPCC評価報告書内容


第6次IPCC評価報告書(AR6)は、2021年から2023年にかけて公表され、気候変動に関する最新の科学的知見を集約し、世界各国の政策立案者にとって重要な指針となる内容がまとめられています。

この報告書は、地球規模で進行する気候変動が人類の生存基盤を脅かすものであり、地球温暖化を抑えるために今すぐ大規模な対策を講じなければ、将来的に深刻なリスクが避けられないことを示しています。
特に、温暖化の進行を1.5℃以内に抑えるための行動が不可欠であり、今世紀後半までに実質的なカーボンニュートラルを達成することの重要性が強調されています。

AR6は、第1、第2、第3の3つの作業部会による報告書に分かれており、それぞれ異なる角度から気候変動の影響を検証しています。
第1作業部会の報告書では、気候変動の科学的基礎に焦点を当て、地球の平均気温が産業革命以前と比較してすでに1.1℃上昇している現状を明示しています。

この温暖化は人間活動がもたらした温室効果ガスの増加に起因しており、今後のさらなる気温上昇が予測されています。
報告書は、1.5℃以上の温暖化を回避するためには、2050年までにCO2排出を実質ゼロにする必要があるとしています。
また、極端気象の頻度や強度が増加し、洪水や干ばつなどの被害が多くの地域で顕著になっていると述べ、気候変動がもたらす即時的なリスクも示しています。

第2作業部会の報告書は、気候変動が人間社会および自然生態系に与える影響と、それに対する適応の可能性を中心に扱っています。
報告書では、気候変動がすでに人々の生活や健康、食料生産、経済活動に悪影響を与えているとし、特に途上国や沿岸部、島嶼国といった脆弱な地域で被害が顕著であることが指摘されています。

温暖化がさらに進行すれば、生態系の崩壊や生物多様性の喪失が加速し、人類にとっても重要な資源が危機にさらされることになります。
報告書はまた、適応策の限界も強調し、例えば水資源の管理や気候に対応した農業などの対策が求められる一方で、それらが十分に実行されなければ気候変動の影響を完全に緩和することはできないと述べています。

第3作業部会の報告書は、温室効果ガス排出を削減するための緩和策に焦点を当て、各国が具体的な削減目標を設ける必要性を説いています。
再生可能エネルギーの普及やエネルギー効率の向上、持続可能な産業構造への移行が求められており、産業、農業、都市、交通といった主要分野での低炭素技術の導入が急務とされています。

また、消費者の行動変容やサプライチェーン全体の脱炭素化といった社会全体での協力が重要であると指摘しています。
加えて、気候変動の影響が最も深刻である途上国や脆弱なコミュニティへの資金支援や技術移転も必要であり、国際協力を通じて公正な移行を支えるべきだとしています。

AR6全体を通じて、気候変動に対する「今すぐの行動」が強調されており、すべての国が協力して緩和策と適応策を進めるべきであるとしています。

この報告書は、気候変動が自然環境と人間社会に深刻な影響を与えることを示すと同時に、地球温暖化を抑えるための「残された時間がわずかである」ことを強調し、国際社会に向けて緊急の対応を求めています。

▼出典:環境省 参考資料(IPCCの概要や報告書で使用される表現等について) [PDF 339 KB]

▼参照:環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル

今後のIPCCの動き

第6次評価報告書(AR6)以降、IPCCはさらに気候変動対策を強化するため、次の第7次評価報告書(AR7)に向けた準備を開始し、国際社会における気候変動への対応を推進しています。
AR6以降のIPCCの動きは、特に影響を受けやすい地域や脆弱なコミュニティに対する適応策や支援に焦点を当てています。

沿岸部や小島嶼国、発展途上国などで深刻な影響が現れ始めている中、IPCCは早急な支援と適応策の強化を求め、再生可能エネルギーの普及、エネルギー効率の向上、持続可能な都市計画、森林保全など多角的なアプローチを推奨しています。
科学的な知見をもとに、各国の政策や取り組みに具体的な影響を与える形でサポートを行い、気候変動に対する耐性のある社会を築くための道筋を提示しています。

さらに、IPCCは、2024年末に行われる国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)に向けて、各国が一層の削減目標を掲げることを促し、国際協力の重要性を訴えています。

特に、先進国が発展途上国に対して資金や技術支援を行い、すべての国が公平に温暖化対策を進めるための「公平な移行」を強調しています。
このように、IPCCは各国の政策決定において中心的な役割を担い、気候変動対策の推進を支えるべく活動しています。

第7次評価報告書(AR7)に向けては、さらに最新のデータと科学的知見を取り入れ、気候変動の進行状況を正確に把握し、新たなリスク評価や緩和策・適応策の更新を行う予定です。
AR7では、特に異常気象や極端現象が社会や経済に与える影響の深刻度が重点的に分析されると予想されており、また、技術革新や自然ベースの解決策(Nature-based Solutions)が、どの程度の効果を発揮できるかについても検証される見込みです。

IPCCは、この次の報告書で、さらに詳細なデータと分析を提供し、気候変動対策を次の段階へと進めるための科学的基盤を強化しようとしています。

▼参考:国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)ジャパン・パビリオンのウェブサイトを開設しました

COP29に向けてのジャパン・パビリオンのウェブサイト

▼出典:ソリューションを世界の隅々へ COP29 JAPAN PAVILION

COP29ジャパン・パビリオンは、2024年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催される第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)で、日本が世界に誇る気候変動対策や環境技術を幅広く紹介するための展示エリアです。

このパビリオンは、日本の先進的な取り組みを通じて、持続可能な未来を共に築くための国際的な協力を促進する場として設置されています。
日本政府、企業、研究機関が参加し、それぞれの分野における先端技術や実績が展示され、国際社会に日本の気候変動対策への貢献を示すものとなっています。

展示内容は再生可能エネルギー、省エネルギー技術、炭素リサイクル、気候変動に対する適応策、資源循環、生物多様性保全、汚染防止など多岐にわたります。

例えば、最新の太陽光発電技術、風力発電システム、エネルギー効率化技術、都市計画を活用した気候変動対応型の都市構築方法、気候変動の影響を軽減するための農業技術などが展示され、来場者が実際に体験を通じてこれらの技術や具体的な実施例を理解できるようになっています。

COP29の期間中には、ジャパン・パビリオンで多様なセミナーやワークショップも開催され、政策立案者、企業のリーダー、研究者、NGOが集まり、日本の気候技術の具体的な取り組みや成果、政策への応用可能性について発表と議論を行います。

セミナーのテーマには「脱炭素社会に向けた日本の技術革新」「持続可能な開発目標(SDGs)との連携」「気候変動に強い地域づくり」などがあり、オンラインでの参加も可能で、遠方の関心を持つ参加者もアクセスしやすくなっています。

また、セミナーやワークショップでは各分野の専門家が登壇し、国内外の気候対策の現状や将来的な展望についての具体的な意見交換が行われ、参加者の理解が深まる内容です。

さらに、日本が誇る技術や取り組みを世界中のより多くの人々に届けるために、バーチャル展示も実施されます。
現地に行けない参加者もオンラインでパビリオンを訪れ、各プロジェクトや企業の取り組み、技術紹介の動画や資料を自由に閲覧できます。

このオンラインプラットフォームにより、日本の気候技術や持続可能なイノベーションが地理的な制約を超えて広く認知され、地球規模の環境問題解決に向けた協力が期待されています。

COP29ジャパン・パビリオンは、日本が国際社会において気候変動対策でリーダーシップを発揮し、世界中の国や地域と連携しながら温暖化防止のための具体的なソリューションを共有する重要な場です。
日本の技術と知見を通じて、持続可能な未来を実現するための実践的な取り組みを提案し、より強固な国際的な協力体制を築く契機となっています。

まとめ


メディアで取り上げられない日はないほど、全世界が注目している気候変動。それによってもたらさせるリスクは何なのか、昔と今は何が変わったのか、これからどのように地球が変わってく可能性があるのか、数多くの疑問に答えるために世界各国が協力して作ったのがIPCC評価報告書です。

IPCC評価報告書を読むことによって企業の環境施策を作る指針にもなりますので、ぜひご一読ください。

IPCC第6次評価報告書の公表についてより政策決定者向け要約

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