サステナブル調達とは?SAQを活用しての基盤作り

サステナブル調達は、企業が環境・社会・経済の持続可能性を考慮しながら商品やサービスを調達する戦略的な取り組みです。
近年、ESG投資の拡大や各国の規制強化により、企業のサプライチェーンにおける透明性や責任ある調達の重要性がますます高まっています。

本記事では、サステナブル調達の基本概念や環境負荷の軽減、人権尊重といった企業の取り組みを解説するとともに、グリーン調達との違い自己評価質問票(SAQ)の活用ESG経営の推進方法について詳しく紹介します。
さらに、海外企業との取引におけるSAQの重要性や、サステナブル調達の実施に役立つセルフアセスメントツールの活用方法についても解説します。

企業の持続可能な成長を実現するために、サプライチェーン全体でどのようなアクションが求められるのかを学び、実践につなげていきましょう。

目次

1. サステナブル調達とは?―企業競争力を底上げする“調達イノベーション”

サステナブル調達とは、環境・社会・経済の三側面を同時に満たす調達判断を、原材料の調達から製品・サービスの提供まで一貫して行う企業プロセスです。
資材コストや納期だけを指標にした従来型の購買活動とは一線を画し、気候変動対策、人権尊重、資源循環といった地球規模課題を自社バリューチェーンの意思決定に組み込む点が特徴です。

1. 環境視点:ライフサイクルで排出を抑える

  • 再生可能エネルギー利用工場の部材を優先調達
  • リサイクル樹脂・再生金属への切り替え
  • サプライチェーン全体の輸送効率や梱包削減を数値管理

こうした取り組みが温室効果ガスや資源消費を体系的に削減し、同時に“環境配慮型ブランド”としての市場価値を押し上げます。

▼参考:企業に求められる資源循環とは? 廃棄物削減と温室効果ガス排出量抑制への道のり 

2. 社会視点:人権・労働基準の担保

EUの「企業持続可能性デューデリジェンス指令」をはじめ、各国規制はバリューチェーン全体に人権監視を義務付けています。
企業は取引先の労働安全、適正賃金、児童・強制労働の有無を第三者監査やSAQで評価し、契約条項に人権保護を明記。
公正な取引は地域社会の雇用創出につながり、ブランドの信頼性を高めます。

3. 経済視点:コスト最適化とリスクヘッジ

  • 省エネ機器導入による運用コスト削減
  • 再生材活用で原料価格変動リスクを緩和
  • サステナブル製品需要の取り込みで競争力を向上

再生可能エネルギー100%のサプライチェーンを構築したIT企業では、電力コストを20%以上削減しながら顧客支持を拡大した事例もあります。

4. 実装の鍵は“見える化”ツール

ツール / プロセス目的活用ポイント
SAQ(自己評価質問票)取引先のESG対応自己申告人権・環境リスクを初期段階で絞り込む
第三者監査独立機関による実地検証高リスク拠点の実態を客観把握
トレーサビリティ・システム原料起点から製品までの追跡デジタル台帳でリアルタイム可視化

これらのデータは、CDP回答やTCFD報告といったESG開示に直接連動し、規制当局や投資家への説明責任を強力に裏付けます。

▼出典:東洋炭素株式会社 サステナブル調達

2. サステナブル調達とグリーン調達の違い

サステナブル調達とグリーン調達は、一見すると同じような概念に思えますが、実はカバーする範囲や目的に違いがあります。

グリーン調達は、環境への負荷を減らすことを最優先とした調達の考え方です。
例えば、再生可能エネルギーを使用した製品、リサイクル可能な素材、CO₂排出量の少ない物流手段を選ぶことが主な要素になります。
企業がカーボンニュートラルを目指す中で、グリーン調達は具体的な手段のひとつとして重視されています。

一方、サステナブル調達は環境に加えて「社会」と「経済」の側面も考慮した、より広範な概念です。
例えば、調達する製品が環境に優しいだけでなく、それを生産する過程で児童労働がないか、公正な労働条件が守られているか、地域社会に貢献しているかといった点も評価の対象になります。
また、持続可能なビジネスの観点から、短期的なコスト削減だけでなく、長期的な安定供給や倫理的な取引関係の構築も重視されます。

このように、グリーン調達はサステナブル調達の一部といえます。
グリーン調達が「環境への配慮」を軸にしているのに対し、サステナブル調達は「環境」「社会」「経済」のバランスを取りながら、持続可能なビジネスを実現するための包括的な考え方です。

企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが求められる現在、単にグリーン調達を行うだけでなく、サステナブル調達へと視野を広げることが、より信頼される企業経営につながるでしょう。

▼参考:株式会社NTTドコモ サステナビリティ調達(紛争鉱物への対応やグリーン調達)

▼出典:環境省 グリーン購入法基本方針説明会資料

3. サステナブル調達におけるSAQの重要性


サステナブル調達を実現するためには、企業単独の努力では不十分であり、サプライチェーン全体での協力が必要不可欠です。
ここで、SAQがその効果を発揮します。

SAQは、サプライヤーが自身の環境、労働、倫理、ガバナンスの取り組みを自己評価するツールです。
この評価によって、企業はサプライチェーン全体の状況を把握し、潜在的なリスクや改善の余地を特定することができます。

SAQの活用は単なるリスク管理に留まりません。
評価を通じて得られたデータを基に、企業はサプライヤーに対して改善支援や教育を提供し、双方が持続可能性の向上に向けて協働する道を開きます。

このアプローチは、サプライヤーの能力向上を支援するだけでなく、サプライチェーン全体での環境負荷削減や倫理的行動の促進に繋がります。
例えば、評価の結果から具体的な改善計画を策定し、進捗を定期的にモニタリングすることで、着実な改善を実現する企業も増えています。

また、SAQを通じて収集されたデータは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報開示のための重要な基盤となります。
透明性の高いデータを基に、企業は投資家や顧客、さらには地域社会に対して、自社が持続可能性を重視していることを明確に伝えることができます。

この透明性は、信頼性を高め、ブランド価値を向上させる上で極めて重要です。
特にESG投資が拡大する現在では、これらのデータが企業評価の基準として活用されることが一般的になっています。

サステナブル調達とSAQの取り組みは、環境や社会における課題解決を図ると同時に、企業にとって多くのメリットをもたらします。

例えば、調達先の改善によるリスク軽減、規制遵守の効率化、さらには顧客からの信頼獲得や市場シェア拡大への寄与です。
これらの成果は、単なるコスト削減を超え、企業全体の競争力を強化する原動力となります。

結論として、サステナブル調達とSAQは、持続可能な未来を目指す企業にとって不可欠な要素です。
これらの取り組みは、単に社会的責任を果たすためのツールに留まらず、企業が長期的に成長し、社会との調和を図るための戦略的手段といえます。

企業はこの枠組みを活用することで、環境負荷を削減し、社会的課題に対応しながら、より多くのステークホルダーと共に価値を創出することが求められています。
その結果、持続可能性を重視した経営モデルが、未来の標準となるでしょう。

4. SAQ回答準備の基本ステップ


4-1. 社内体制の構築と情報収集

効果的なSAQ回答には、全社的な協力体制が不可欠です。サステナビリティ推進部門を中心に、関連部署との連携を強化し、必要な情報を効率的に収集できる体制を構築しましょう。

4-2. 現状分析と改善点の特定

収集した情報を基に、自社のサステナビリティ活動の現状を分析します。
SAQの各項目に対する回答を準備する過程で、取り組みが不十分な領域や改善が必要な点を特定し、今後のアクションプランを策定します。

5. セルフアセスメントツール(無料)で調べてみよう


GCNJ(Global Compact Network Japan)のCSR調達セルフアセスメントツールを活用し、自社のサステナビリティの取り組み状況を可視化してみましょう。
主要な項目と回答方法を解説します。このツールは、企業、組織、およびそのサプライチェーンにおけるCSRの取り組みを評価するための包括的な枠組みを提供しています。

5-1. SAQのダウンロード

下記ページにいき、ページの下にある「申し込みフォームへ」からダウンロードが可能です。

▼参考:CSR調達セルフ・アセスメント・ツール・セットお申込みページ

申し込み後に、自動返信メールでダウンロードURLが届きますので、URLをクリックすると自動でダウンロードされます。
中国語、英語、日本語の資料がそれぞれ用意されており、その中にあるExcelの質問票を開いて回答をおこなっていきます。

5-2. 各項目の回答を行う

「Level 1」「Level 3」「Level 5」の3段階で回答ができるようになっていますので、取り組みの状況に応じて数値を入力していきます。

▼出典:CSR調達 セルフ・アセスメント・ ツールセット(回答の手引書)

5-3. スコアを確認

全大項目の集計結果がレーダーチャートで表示されます。
点数の低いところを重点的に改善する方法を検討していきましょう。

SAQを行うことで、自社の取り組みの実効性を示すことができます。
また、課題がある項目については、今後の改善計画を用意することで、取引先から質問票が届いたときにも継続的な改善への姿勢をアピールすることができます。

6. SAQ回答を通じたESG経営の推進


6-1. SAQ結果の活用と継続的改善

SAQの回答結果は、自社のESG経営の進捗状況を示す重要な指標となります。
結果を詳細に分析し、弱点の改善や強みの更なる強化に活用することで、ESG経営の質を継続的に高めていくことができます。

6-2. ステークホルダーとのコミュニケーション強化

SAQの回答内容は、投資家や取引先とのコミュニケーションツールとしても活用できます。自社のESGへの取り組みを積極的に開示し、ステークホルダーとの対話を深めることで、信頼関係の構築と企業価値の向上につながります。

7. 海外企業との取引におけるSAQの重要性


多国籍サプライチェーンのリスク管理と規制対応――SAQが果たす防波堤

複雑化するグローバル・サプライチェーンでは、EUの「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」や米国の関税法、アジア各国の独自基準など、国・地域ごとに異なるルールが企業を取り巻いています。

SAQ(自己評価質問票)は、こうした断片化した規制を“統合的に可視化”する初動ツールです。
各取引先に共通様式で回答を求めることで、労働安全衛生・人権対応・環境負荷などを定量・定性の両面から把握でき、法令逸脱の芽を早期に摘み取ることが可能になります。

特に製造業やアパレル業界のように「現地拠点の監査コストが高い」領域では、SAQ活用がコンプライアンス・コストの最適化サプライチェーン全体の健全性向上を同時に実現する鍵となります。

▼出典:サステナブルファッション―これからのファッションを持続可能に―

透明性と信頼構築を生むデータ基盤――SAQが企業価値を高める理由

SAQで得られる一次情報は、CDP回答やTCFD報告、統合報告書のESGセクションを裏打ちする“証拠データ”として機能します。

たとえばサプライヤーの温室効果ガス排出実績や労働基準遵守率を数値化し、改善計画とセットで開示すれば、投資家や顧客から見た企業のデューデリジェンス能力と透明性が飛躍的に向上します。
さらに、評価結果を基にトレーニングや技術支援を施せば、取引先は持続可能性レベルを引き上げ、単なる購買先から共創パートナーへ格上げされます。

このプロセスはブランドレピュテーションを高めるだけでなく、規制強化が進む国際市場での入札要件クリアや資本コスト低減にも直結します。
要するにSAQは、企業が社会的責任と経済的リターンを両立させるための、戦略的インフラなのです。

まとめ


サステナブル調達は、環境負荷の軽減や社会的課題への対応を通じて企業の社会的責任を果たすだけでなく、経済的利益や競争優位性をもたらす重要な戦略です。

この取り組みを実践することで、企業は規制対応やリスク軽減に加え、社会全体にポジティブな影響を与えながら、持続可能な未来を築くリーダーシップを発揮することができます。
企業がサステナブル調達を成功させることで、地球規模の課題解決に貢献し、未来の標準となる新たな価値基準を創造していくことが期待されます。

また、サステナブル調達とSAQへの適切な対応は、ESG経営の推進と海外取引の成功に必須と言えます。今回ご紹介した準備方法や重要性を踏まえ、自社のサステナビリティ活動を継続的に改善し、グローバル市場での競争力を高めていってください。

SAQは単なる評価ツールではなく、企業価値向上と持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みの一つとなります。無料で取り組めるものとなっていますので、積極的に活用していきましょう。

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