TISFDとは? 企業が知っておくべき背景・目的・今後の展望

ESG投資が拡大し、企業の社会的責任が問われるようになってきています。
環境問題に加え、人権問題やサプライチェーンにおける労働環境など、企業はあらゆるステークホルダーからその対応を求められています。

▼参考:EcoVadis(エコバディス)の活用法 | サプライチェーンの持続可能性を評価する方法

そんな中、新たな情報開示フレームワークとして注目されているのが「TISFD」です。
本記事では、TISFDの概要から企業にとっての重要性、そして今後の展望までを詳しく解説していきます。

▼参考:TISFDのHP

目次

TISFDとは? 背景と目的をわかりやすく解説

TCFD・TNFDに続く情報開示フレームワーク

TISFDとは、「Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures」の略称で、日本語では「不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれます。

企業活動が人々や社会に与える影響、そしてその影響が企業自身にもたらす財務的リスクと機会を、投資家を含む様々なステークホルダーに適切に開示するためのフレームワークを策定することを目的としています。

すでに多くの企業が取り組みを進めている気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に続く、新たな国際的な情報開示の枠組みとして注目されています。

TCFDやTNFDがそれぞれ気候変動と自然資本に関する情報開示を扱うのに対し、TISFDは、より広範な社会課題を網羅している点が特徴です。

情報開示のためのガイダンスは、まだ公開されていないためこれから徐々に情報が明らかになっていく予定です。

▼参考:TNFDとは│TCFDやCDPの整合性を最新情報と合わせて解説

社会課題に取り組む企業の透明性を高めるTISFD

では、TISFDは具体的にどのような社会課題を対象としているのでしょうか?

TISFDは、企業に対して、人権問題や労働環境、サプライチェーンにおける人権デューデリジェンス、多様性と包摂性など、幅広い社会課題への取り組み状況を開示することを推奨しています。

例えば、

  • 人権問題:児童労働や強制労働の排除、差別やハラスメントの防止、労働者の安全確保など、企業活動における人権尊重の責任を果たしているか。
  • 労働環境:適正な賃金の支払い、労働時間の管理、労働組合との団体交渉など、労働者にとって適切な環境を提供しているか。
  • サプライチェーンにおける人権デューデリジェンス:原材料の調達から製品の製造、販売に至るサプライチェーン全体において、人権侵害のリスクを特定し、適切な予防・救済措置を講じているか。
  • 多様性と包摂性:性別、年齢、人種、宗教、性的指向など、多様な属性を持つ人々が、差別なく活躍できる環境を構築しているか。

といった項目が考えられます。

TISFDは、これらの項目に関して、企業が自社の取り組み状況を具体的な指標やデータを用いて開示することで、ステークホルダーからの信頼獲得、ひいては企業価値の向上に繋げることを目指しています。

▼出典:一般財団法人 日本経済研究所 研究員リポート TISFD始動にみる社会関連情報開示の展望

TISFDが企業にとって重要な理由

1. 投資家・消費者・従業員からの期待の高まり

企業は、従来のように財務情報だけを開示すれば良い時代は終わり、非財務情報、特にESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報開示の重要性がますます高まっています。

  • 投資家:ESG投資の拡大に伴い、企業のESGパフォーマンスは、投資判断における重要な要素となっています。
    ESG情報を積極的に開示している企業は、投資家からの評価が高まり、資金調達を有利に進められる可能性があります。
  • 消費者:倫理的な消費行動を重視する消費者が増加する中、企業の社会貢献活動や倫理観は、商品やサービス選択の重要な判断基準となっています。
    社会課題に積極的に取り組む企業のイメージアップ、ブランド価値向上に繋がり、競争優位性を築くことが期待されます。
  • 従業員:特に若い世代を中心に、企業の社会貢献活動や倫理観を重視する傾向が強まっています。TISFDへの対応は、企業理念への共感や、働きがいのある企業として魅力を高め、優秀な人材の確保・定着に繋がる可能性があります。

2. 法規制リスクへの対応

世界各国で、企業のサプライチェーンにおける人権デューデリジェンスを義務付ける法規制が強化されつつあります。

例えば、EUでは、2024年4月に「企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」案が採択されました。
この指令は、EU域内で事業を行う企業に対し、サプライチェーン全体における人権・環境リスクの特定、予防、 是正 、説明責任を果たすことを義務付けています。

TISFDの情報開示フレームワークは、こうした法規制への対応を進めるために役に立つガイダンスになると考えられています。

3. 企業価値向上への貢献

TISFDへの対応は、企業にとって単なるコストではなく、企業価値向上のための投資と捉えることができます。適切な情報開示を通じて、以下のような効果が期待できます。

  • 資金調達:投資家からの評価が高まり、より有利な条件で資金調達が可能になる。
  • 人材採用:企業理念への共感から優秀な人材を獲得しやすくなる。
  • ブランド価値向上:社会的に責任ある企業として認知され、ブランド価値が高まる。
  • リスク管理:潜在的な社会関連リスクを早期に特定し、適切な対策を講じることで、企業の安定的な事業継続に繋がる。
  • イノベーション:社会課題の解決に貢献する製品やサービスの開発を促進する。

TISFDの今後:発足までの流れと企業への影響

TIFDとTSFDの統合からTISFD誕生へ

TISFDは、当初は「不平等関連財務情報開示タスクフォース(TIFD)」と「社会関連財務情報開示タスクフォース(TSFD)」という2つの組織が、それぞれ活動していました。
しかし、両者の活動領域には重複が多く、より効果的に目的を達成するために統合され、2024年9月にTISFDとして正式に発足しました。

開示フレームワーク策定の現状と今後のスケジュール

TISFDは、現在、世界中の専門家や関係機関と協力しながら、具体的な開示項目や指標、ガイダンスなどを盛り込んだ情報開示フレームワークを策定中です。
2025年以降に、その詳細が発表される見込みです。

TISFDがもたらす未来と企業への期待

TISFDの活動が本格化することで、企業は、これまで以上に社会課題への責任と透明性が問われる時代を迎えます。
TISFDは、単なる義務的な情報開示の枠組みではなく、企業が自社の事業プロセスを根本から見直し、社会課題の解決に貢献しながら、持続的な成長を実現するための羅針盤となるでしょう。

まとめ:TISFDへの対応は企業の持続可能な成長に不可欠

これからガイダンスは作成されますが、前身がTIFDとTSFDのため基本的な考えは変わらないです。TISFDの基本方針では、下記のように記載されています。

 不平等及び社会に関連する課題に関して公表されている国際的な原則・行動規範(ビジネスと人権に関する国連指導原則、OECDの多国籍企業向けガイドライン、多国籍企業と社会政策に関する国際労働機関(ILO)の三者構成の原則等)との整合性を確保する。

そのため全く新しい取り組みというわけではなく、今までの取り組みを見直す機会としてもらうといいのではないでしょうか。
これから対応を進める企業にとっては、企業価値向上と持続可能な社会の実現に向けた大きなチャンスと言えそうです。

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