企業に求められる資源循環とは? 廃棄物削減と温室効果ガス排出量抑制への道のり

資源循環は、地球規模での持続可能な成長を実現するための重要な取り組みです。
企業が排出する廃棄物の多くは、リサイクルや再利用が可能であるにも関わらず、適切に管理されない場合があります。
その結果、環境への負担が増大し、企業の社会的責任が問われることになります。
特に、近年ではScope3排出量として、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減が求められるなど、企業の資源循環への取り組みが社会的にも注目されています。
本記事では、資源循環の基本、直面する課題、そしてその解決策について解説します。

資源循環の基本とその重要性
資源循環の基本的な考え方
資源循環とは、製品のライフサイクル全体を通じて廃棄物を最小化し、使用済み資源を可能な限り再利用または再資源化する仕組みです。
これにより、有限な資源の消費を抑え、廃棄物の適切な処理と環境保全を同時に実現します。
具体的には、以下の3R(リデュース、リユース、リサイクル)がその基本的な要素となります。
リデュース(Reduce):廃棄物を削減するために、製品設計や製造工程の最適化を行います。
リユース(Reuse):一度使用された製品や部品を再利用することで、新たな資源の投入を減らします。
リサイクル(Recycle):廃棄物を再資源化し、新たな製品の素材として活用します。
リサイクルについては、廃棄物を燃料としてエネルギーを回収するサーマルリサイクル、材料として再利用するマテリアルリサイクル、化学処理により材料を再生成するケミカルリサイクル等の分類があります。
また、上記以外の資源循環を実現する手法として、製品設計段階での資源効率向上させるエコデザインや、製品・サービスの共有を促進するシェアリングエコノミー等があります。
資源循環の重要性
資源循環を推進することは、持続可能な社会の構築において欠かせません。その重要性を以下の3つの観点から考えます。
1. 環境への貢献
廃棄物の適切な管理とリサイクルにより、新たな資源や埋立地の使用を減少させ、温室効果ガスの排出を抑制します。例えば、廃棄物処理時に発生するCO2・メタンガスの削減や、新規資源採掘の回避によるCO2排出量の抑制が期待できます。
▼参考:Scope 3 カテゴリ5-事業の廃棄物 | 算定の手順とポイントを解説
2. 経済的な利点
資源循環はコスト削減や新たなビジネス機会を創出する可能性を持っています。例えば、リサイクル材の販売や廃棄物処理費用の削減などです。また、資源の効率的な利用は、長期的な供給リスクの回避にもつながります。
3. 社会的責任とブランド価値
資源循環への取り組みは、企業の社会的責任としての評価を高め、消費者や投資家からの信頼を得る要因ともなり得ます。

▼参考:3R・資源循環推進フォーラム
資源循環において企業が直面する主な課題
一方で、資源循環を推進するためには、企業にとってはハードルがあることも事実です。例えば以下のような課題があります。
コスト
資源循環を実現するためには、初期投資や運用コストが伴います。
自社のみで実施する場合、リサイクル設備や新たな技術の導入など、他社と連携して実施する場合でも、オペレーションの変更や従業員教育の実施など、収益に直接的な影響を与える可能性があります。
また、リサイクルした材料の品質が新規資源に比べて劣る場合、製品の競争力に影響することもあります。
結果として、持続可能な取り組みが短期的な利益圧迫と見なされ、実践が後回しにされることも考えられます。
技術的な制約
現在の技術では、資源循環が難しい素材や製品も存在します。たとえば、複数の素材が複雑に組み合わさった製品や、分解・再利用が困難な製品は、効率的な資源循環の妨げになります。
また、新素材や特殊加工が普及する中、それらを処理するための技術開発が追いついていない状況もあります。
さらに、リサイクル施設の地域的な偏在や能力不足が、リサイクルの効率化を妨げる一因ともなっています。
これにより、企業が発生させる廃棄物が適切に処理されないケースも考えられます。
業界・サプライチェーン全体の連携不足
資源循環は、企業単独で完結するものではなく、業界やサプライチェーン全体での協力が不可欠です。
しかし、多くの企業にとって、資源循環を達成するためのサプライチェーン構築はまだまだ道半ばなことも多いです。
材料の調達にとどまらず、廃棄・資源循環のプロセスを担当するパートナーも含めたサプライチェーン構築が急がれます。
また、消費者の行動も重要です。回収システムが整備されていない製品は、使用済み製品が適切に処理されない可能性があります。
これに対処するためには、自治体などと連携した回収網の整備に加え、消費者教育やインセンティブの提供などが求められます。

▼出典:Koto Online サーキュラーエコノミーで何ができる?5つの企業事例を紹介
資源循環の実践的アプローチ
資源循環を実現するための手法としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
モノの使用状況や廃棄物の見える化
資源循環を効果的に進めるためには、モノの使用状況や廃棄物の流れを「見える化」することが重要です。企業はこれにより現状の課題を正確に把握し、適切な改善策を講じることができます。
見える化の第一歩として、購入・仕入れしている物や廃棄物の量を定期的に確認・記録することが必要です。これにより、廃棄物の発生量や種類をより正確に把握することが可能になります。
ボリュームが多い場合や種類が多岐にわたる場合などは、センサーやデータ管理システムなどを活用し、廃棄物の発生量や種類をリアルタイムで監視する仕組みを構築します。
これらの情報を充分に集約した上で、表計算ソフトやデータ分析ツールを活用して廃棄物データを可視化し、どのプロセスが最も大きな改善余地を持つかを特定します。
見える化によって得られるデータは、企業の意思決定を支える基盤となり、社内関係者の意識醸成や外部ステークホルダーとの連携にも活用することができるでしょう。
▼参考:フードロスよ、さようなら!食品ロスを削減する需要予測AIの活用事例まとめ
廃棄物削減のための取り組み
企業が最初に取り組むべきステップは、廃棄物を生じさせない仕組みづくりです。製品設計段階での工夫や、製造工程での歩留まり改善などが具体例として挙げられます。
- エコデザイン:製品設計段階で、リサイクルしやすい素材の使用や部品の分解容易性を考慮する。
- プロセス最適化:生産工程の効率を高めることで、不良品や副産物を最小化する。
特に、製造業では副産物を活用する手法が身近です。たとえば、食品業界では製造時に発生する端材を飼料や肥料として再利用する取り組みが進んでいます。
リユースとリサイクルの促進
使用済み製品や廃棄物を再利用するための仕組みづくりも重要です。
- 回収ネットワークの構築:消費者や取引先から使用済み製品を回収するシステムを構築する。
- リサイクル技術の活用:素材や用途に応じて、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを選択する。
たとえば、家電業界では、製品の素材を分解・分類し、高純度なリサイクル素材として再利用するケースが増えています。また、自治体や他企業と連携して地域全体でのリサイクル効率化を目指す動きも見られます。
▼参考:環境省 環境ビジネスの先進事例集

▼出典:一般財団法人 家電製品協会 日本の家電リサイクルの特徴は?
資源循環に向けた意識醸成と啓発活動の重要性
資源循環を成功させるには、技術やプロセスだけでなく、従業員や関係者の意識改革も欠かせません。
1. 社内教育の推進
企業全体で資源循環を推進するためには、従業員一人ひとりがその重要性を理解し、行動に移すことが必要です。例えば、以下のようなアクションが考えられます。
- 研修プログラムの実施:資源循環の基本や自社の取り組みを学ぶ場を提供する。
- 成功事例の共有:他社や社内の成功事例を共有し、事例の横展開を推進する。
このような取り組みを、自社のコーポレートサイトの環境ページに掲載している企業もあります。
▼参考:株式会社NTTデータグループ NTTデータの社員の環境活動
▼参考:脱炭素とサステナビリティ教育 | 社内取り組みとその重要性
2. ステークホルダーとの連携
企業単独ではなく、サプライチェーン全体で資源循環を推進するためには、取引先や消費者との連携が不可欠です。
- 取引先との協力:廃棄物削減やリサイクル率向上のための目標設定や、共同プロジェクトを実施する。
- 消費者への啓発:製品の回収やリサイクルへの参加を促すキャンペーンを展開する。
具体例として、小売業界では、リサイクルキャンペーンを実施し、消費者が使用済み製品を持ち込むことでポイントを獲得できる仕組みを導入しています。このような取り組みは、資源循環を進めるだけでなく、企業のブランド価値向上にもつながります。
参考:サントリーホールディングス株式会社 サントリーグループのサステナビリティ

資源循環推進のための具体的ステップとツール
資源循環を推進する際に直面する課題を克服するためには、体系的なアプローチと適切なツールの活用が重要です。
1. 現状分析
資源循環の取り組みを始める前に、自社の現状を正確に把握することが必要です。
- 廃棄物監査:廃棄物の種類や発生源を特定し、課題を洗い出す。
- ライフサイクルアセスメント(LCA):製品のライフサイクル全体での環境負荷を評価する。
これにより、優先的に改善すべきポイントが明確になります。たとえば、食品業界では、原材料廃棄の割合を削減するためにサプライチェーン全体を見直す取り組みが行われています。
2. 改善計画の策定
現状分析に基づき、資源循環を推進するための具体的な目標と計画を設定します。
- KPIの設定:廃棄物削減率やリサイクル率など、進捗を測定する指標を明確化する。
- ロードマップの作成:短期・中期・長期のゴールを設定し、各段階で必要なアクションを明確にする。
3. ツールとテクノロジーの活用
資源循環の取り組みを効率化するために、最新のテクノロジーやツールを活用します。
- 廃棄物管理システム:廃棄物の種類や量をリアルタイムで追跡できるシステム。
- データ分析プラットフォーム:廃棄物データを可視化し、改善の優先順位を決定する。
まずはExcelやスプレッドシート等の表計算ソフトを用いて可視化し、詳細の分析や自動化が必要そうな場合には別のツール導入も検討してみるとよいでしょう。
4. モニタリングと改善
計画を実施した後も、継続的なモニタリングと改善が必要です。
- 定期的なレビュー:KPI達成度を評価し、必要に応じて戦略を修正する。
- フィードバックの収集:従業員や取引先からの意見を取り入れ、取り組みをブラッシュアップする。
企業が資源循環を持続可能な形で推進するためには、このようなプロセスを繰り返し実施することが重要です。

▼出典:一般社団法人 プラスチック循環利用協会 LCA(ライフサイクルアセスメント)
まとめ
資源循環の導入や推進にはさまざまな課題がありますが、それを乗り越えることで企業の持続可能性を高め、廃棄物の削減や温室効果ガス排出量抑制に貢献することができます。
企業が資源循環を実施するためには、社内の協力やサプライチェーン全体での連携が不可欠であり、啓発活動や教育を通じて意識の醸成を図ることも重要です。
まずは、現状把握として調達している材料や廃棄物のボリュームなどの現在地を可視化したうえで、資源循環に取り組むことで自社にどのような効果があるのかを確認し、自社に合った資源循環に向けた取り組みを推進していくことが一歩目となることでしょう。