海外で活用されている原単位紹介(ecoinventデータベース)

脱炭素経営やサステナビリティ経営が企業価値を左右する今、製品やサービスの環境影響を定量的に示すことは国際的な信頼獲得の前提条件になっています。
その中心的な役割を担うのが、スイス発の環境データベース「エコインベント(ecoinvent Database)」です。
ライフサイクルアセスメント(LCA)を行う際の世界的な標準ツールとして位置づけられており、ヨーロッパでは事実上の基盤データベースとして幅広く採用されています。
エネルギー、化学、輸送、農業、廃棄物処理など18,000件を超えるデータセットを収録し、製品のライフサイクル全体にわたるCO₂排出量や資源使用量を正確に算定可能。
データはすべてISO 14040/14044に準拠し、厳格な品質管理のもとで更新されています。
2024年11月の最新版「v3.11」では、再生可能エネルギーやバッテリー、プラスチック廃棄などの分野が拡充され、より現実的で高精度なカーボンフットプリント分析が実現しました。
いまや、ecoinventを理解し活用することは、グローバルで通用する環境データリテラシーを身につけることに等しく、脱炭素時代をリードする企業にとって欠かせない要素といえるでしょう。

エコインベント データベースとは、ヨーロッパでの位置付け
エコインベント データベース(ecoinvent Database)は、ライフサイクルアセスメント(LCA)を実施する際に欠かせない、世界でもっとも信頼性の高い環境データベースのひとつです。
スイス・チューリッヒに拠点を置く非営利団体「ecoinvent Association」によって運営されており、エネルギー、生産、輸送、農業、化学など、幅広い産業分野の環境データを体系的に収録しています。
ヨーロッパでは、エコインベントはLCA分野の“事実上の標準データベース”として確立されています。
多くの企業や研究機関、大学が、製品やサービスの環境影響を定量的に評価するための基盤としてこのデータを利用しています。
その高い透明性と科学的根拠に基づくデータ構造は、政策立案・企業戦略・研究開発などあらゆる分野で高く評価されています。
特に、EUではサステナビリティ報告や製品の環境性能開示(EPD、カーボンフットプリントなど)が重視されており、エコインベントを使用することが国際的な信頼性を示す証となりつつあります。
ヨーロッパ企業との取引や国際的なサプライチェーンでLCAデータの提出を求められた際にも、エコインベントを活用することで、データの整合性と信頼性を大幅に高めることができます。
今後、グローバル市場で脱炭素経営を推進する日本企業にとっても、エコインベント データベースを理解し活用することは必須のリテラシーと言えるでしょう。


エコインベントデータベースの概要
エコインベント データベース(ecoinvent Database)は、世界で最も包括的なLCA(ライフサイクルアセスメント)用データベースのひとつとして知られています。
エネルギー、生産、輸送、廃棄物処理、農業、化学製品など、あらゆる産業分野にわたる18,000件以上のデータセットを収録しており、製品やサービスのライフサイクル全体における環境影響を定量的に評価することが可能です。
各データセットには、CO₂排出量、エネルギー使用量、水使用量、廃棄物発生量などの詳細な情報が含まれています。これらは環境フットプリント(Environmental Footprint)の算定や、企業の脱炭素経営戦略の策定において欠かせない基礎データとなっています。
また、すべてのデータは国際規格ISO 14040およびISO 14044に準拠しており、国際的な比較や共同研究でも高い互換性を持ちます。
エコインベントの最大の特長は、透明性と精度の高さにあります。
すべてのデータは厳格な品質管理プロセスを経て公開され、科学的根拠と最新の産業データに基づいて継続的に更新されています。
さらに、地域別の特性を反映したデータが整備されており、各国のエネルギーミックスや産業構造の違いを考慮した評価が可能です。
これにより、ユーザーはより現実的かつ地域に即した環境評価を行うことができます。

また、エコインベントはSimaPro、openLCA、LCA for Experts (旧称 GaBi)など主要なLCAソフトウェアと互換性を持ち、スムーズに統合して使用することができます。
ヨーロッパをはじめ世界中の企業・研究機関・行政がこのデータベースを活用しており、製品開発や政策立案、環境報告書作成などにおける信頼性の高いツールとして定着しています。

持続可能性が企業競争力の鍵となる今、エコインベント データベースのような高精度かつ国際標準に準拠した環境データ基盤は、脱炭素経営を推進するための“必須インフラ”といえるでしょう。
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エコインベント データベースの利点と主な用途
エコインベント データベースの最大の特長は、高い透明性と再現性を持つ詳細なデータ構造にあります。
すべてのデータセットには、出典情報・前提条件・地域や技術の適用範囲などが明確に示されており、分析結果の客観的な検証が可能です。
🔹 代表的な活用分野
学術・研究領域での活用
大学や研究機関では、環境科学・工学・経済学などの分野で、LCAモデル構築やシナリオ分析の基礎データとして活用されています。
特に、再生可能エネルギーや資源循環、脱炭素技術の研究においては欠かせない存在です。
製品・サービスのLCA(環境影響評価)
エコインベントを活用することで、原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄までの全ライフサイクルにおけるCO₂排出量や資源消費量を定量的に可視化できます。
これにより、企業は環境負荷の大きい工程を特定し、製品設計や製造プロセスの改善に役立てることができます。
サプライチェーン全体の排出量把握
Scope3(バリューチェーン全体)の排出量算定にも対応可能です。
どの工程で最も多くの温室効果ガスが排出され、どの資源が大量に使われているかを分析し、重点的な削減策を策定できます。

サステナビリティ報告・環境ラベル対応
企業の環境報告書やESGレポート、環境製品宣言(EPD)の作成にも活用されています。
ISO 14025やEN15804などの国際規格にも準拠しており、第三者認証の取得や国際的な信頼獲得を支える重要な基盤となっています。

政策立案・環境規制の基礎データ
政府や自治体も、気候変動対策や環境政策の策定時に、制度設計の根拠データとしてエコインベントを利用しています。
科学的裏付けのある数値データにより、政策の透明性と信頼性を高めています。
最新バージョン「ecoinvent v3.11」の更新ポイント
データベースは、2024年11月に最新版「v3.11」をリリースしています。
今回の更新は、各産業分野における環境データを最新化し、より精緻で実用的なLCA(ライフサイクルアセスメント)評価を可能にする大幅な拡張が特徴です。
このアップデートにより、これまで以上に再生可能エネルギー・サーキュラーエコノミー・Scope3算定などの分野での分析精度が向上。
国際的な脱炭素経営を進める企業や研究機関にとって、より実践的な意思決定を支える重要な基盤となりました。
▼参考:ecoinvent公式サイト ecoinvent v3.11
アップデートで拡張されたデータ領域
ecoinvent v3.11では、11の主要セクターにわたる大規模なデータ更新が行われました。
対象分野は以下の通りです。
- Fuels(燃料)
- Energy(エネルギー)
- Chemicals and Plastics(化学・プラスチック)
- Batteries(バッテリー)
- Building and Construction(建設・建材)
- Waste Management and Recycling(廃棄物処理・リサイクル)
- Agriculture(農業)
- Forestry and Wood(林業・木材)
- Pulp and Paper(紙・パルプ)
- Metals(金属)
- Transport(輸送)
これらの分野では、実際のサプライチェーンデータを反映するために供給・需要の関係が再構築され、新たに地域別の「マーケットデータセット」も導入されました。
これにより、ヨーロッパやアジアなど地域特性に基づいたより現実的なカーボンフットプリント評価が可能になっています。
また、製品ごとに乾燥質量・水分量・炭素含有量(化石/非化石)・価格情報など、少なくとも6種類以上の物性値が定義され、経済的配分(economic allocation)や資源効率評価の信頼性も大きく向上しました。
openLCAとの互換性強化と精緻化された炭素フロー
今回のv3.11では、オープンソースLCAツール「openLCA」との完全な互換性が実現しました。
これにより、データの変換や再構成の手間をかけずに、ecoinventデータを直接LCAソフトで活用することが可能となっています。
さらに、バイオ炭素フロー(biogenic carbon flows)の定義が全面的に見直され、森林・農業・木材関連の活動で発生する炭素吸収や放出が、より正確に評価できるようになりました。
従来の化石由来CO₂だけでなく、生物起源の二酸化炭素を含めた気候変動影響(extended climate change assessment)が可能となり、カーボンニュートラル製品の分析や、ネガティブエミッション技術(BECCS等)の評価にも対応しています。
まとめ
エコインベント データベースは、ヨーロッパで事実上のLCA標準データベースとして位置づけられ、世界中の企業・研究機関・政府が信頼を寄せる環境評価の基盤です。
スイスの非営利団体が運営し、エネルギー・化学・輸送・農業など18,000件以上の詳細データを収録。
すべてがISO 14040/14044に準拠しており、透明性・再現性・国際互換性に優れています。
企業はこれを用いることで、製品やサプライチェーン全体の環境負荷を可視化し、Scope3算定やEPD作成を正確かつ効率的に実施できます。
さらに、2024年11月公開の「v3.11」では、燃料・バッテリー・廃棄物処理など11分野が刷新され、再生可能エネルギーや炭素循環の分析精度が飛躍的に向上しました。
今後、ecoinventを活用できることは、脱炭素経営を実践するための国際的リテラシーとして欠かせないスキルになるでしょう。
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