ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)とは?加盟銀行や金融機関の脱退の動向と今後の課題

金融業界における脱炭素の動きの中で、特に注目を集めてきたのが NZBA(ネットゼロ・バンキング・アライアンス) です。

2021年に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が設立したこの枠組みは、2050年までに銀行の融資・投資ポートフォリオをネットゼロにすることを掲げ、世界の大手銀行が参加してきました。
各行は高排出セクターへの投融資見直しや2030年までの中間目標の設定を求められ、透明性のある報告や第三者レビューを通じて進捗を示す仕組みが整えられています。

そのためNZBAは、単なる宣言ではなく、金融業界全体に気候変動リスクを織り込ませる実効性のある枠組みと位置付けられてきました。
しかし近年、米国を中心に 相次ぐ大手銀行の脱退 が発生。

背景には、反ESG運動による政治的圧力や独占禁止法リスク、そして一律の基準が地域性を無視しているとの批判があります。
この動きは、世界の脱炭素金融の方向性に不確実性をもたらす一方で、欧州勢は残留を続けるなど地域ごとの対応の差も鮮明になっています。

日本でも大手金融機関の脱退が相次ぎ、今後は独自の気候戦略の実効性が問われる局面に入っています。
NZBAは依然として世界に約130行を擁する大規模な枠組みですが、その存在意義や運営方法が大きな転換点を迎えているのです。

目次

NZBA(ネットゼロ・バンキング・アライアンス)とは?

NZBAの概要

NZBA( Net-Zero Banking Alliance) は、2050年までに銀行の融資・投資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにする ことを目指す、国際的な金融機関の連携組織です。
2021年4月に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI によって設立され、パリ協定の1.5℃目標と整合する気候対策を推進すること を目的としています。

世界の大手銀行が加盟し、ネットゼロ目標の達成に向けた行動指針を設定するこのアライアンスは、グリーンファイナンスの普及ESG投資の加速 において、銀行業界の役割を強化するための重要な枠組みとなっています。

▼出典:一般社団法人環境エネルギー事業協会【大解剖】金融機関の脱炭素化を推進する国際イニシアティブ

NZBAの役割

NZBAは、単なる宣言ではなく、金融業界全体で脱炭素化を推進するための具体的な指針を示し、実行を監督する役割 を持っています。
以下のような活動を通じて、銀行が実際にネットゼロ達成に向けて行動することを求める 仕組みになっています。

1. ネットゼロ目標の設定と実行

  • 各加盟銀行は2050年までに融資・投資の排出量をネットゼロにする ことを約束。
  • 高排出セクター(化石燃料・電力・輸送・重工業など)に対する投融資の見直し を求められる。
  • 短期的な目標(2030年までの中間目標)を設定し、段階的に削減を進める。

2. 透明性の確保と進捗報告

  • 各銀行は自社の脱炭素戦略や進捗を定期的に公表 し、透明性を確保する必要がある。
  • 科学的根拠に基づいた削減目標(SBTiなど) を採用し、パリ協定の1.5℃目標と整合するかどうかも評価される。
  • 第三者機関によるレビューや監査 を通じて、グリーンウォッシュを防止する仕組みも導入。

3. 金融業界全体の脱炭素化の推進

  • 銀行の投融資戦略を通じて、企業の脱炭素化を促進する。
  • 気候変動リスクを考慮した金融商品の開発 や、サステナブルファイナンスの拡大 を推進。
  • 企業へのエンゲージメント(対話)を強化し、脱炭素経営を求める圧力をかける。

4. 政策・規制との連携

  • 政府や国際機関と協力し、持続可能な金融規制を整備する。
  • 各国の政策と整合性を持たせながら、銀行業界が気候変動対策の中心的な役割を担えるよう支援。
  • ESG投資の基準強化や、化石燃料関連企業への投融資方針の厳格化 も求められる。」

▼出典:環境省 銀行セクターの脱炭素イニシアティブ(NZBA) 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)

NZBA脱退の動向と影響の分析

ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)からの金融機関の脱退が相次いでいる ことが、国際金融市場や脱炭素戦略にどのような影響を与えるのか が注目されています。

脱退の主な理由

① 政治的・法的な圧力

米国では、一部の政治家や規制当局が「銀行が気候変動対策を理由に化石燃料企業への融資を制限することは、自由市場の原則に反する」として圧力を強めています。

  • 共和党を中心とする反ESG(環境・社会・ガバナンス)運動 により、NZBAへの加盟が政治的リスクと見なされるようになりました。
  • 一部の州では「気候変動対策のために特定業界(石油・ガス産業)への融資を制限する銀行とは取引しない」という法律が制定 され、NZBA加盟が銀行の事業リスクとなるケースが増えています。

② 法的リスクと独占禁止法(反トラスト法)

  • 米国の銀行が一致団結して化石燃料関連企業への融資を制限することは、独占禁止法に抵触する可能性があると指摘 されています。
  • これを受けて、JPモルガン・チェースなどの大手銀行はNZBAから脱退 し、独自の脱炭素戦略を採用する動きが進んでいます。

③ 柔軟性の欠如

  • NZBAは厳格な排出削減目標を設定しており、金融機関ごとの地域性や業務特性を十分に考慮できていない との批判があります。
  • エネルギー移行の進捗が異なる市場で一律の基準を適用することが現実的でないとしている金融機関もあります。

▼出典:環境省 銀行セクターの脱炭素イニシアティブ(NZBA) 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)

NZBA脱退の国際的な影響

① 脱炭素金融のリスク管理の変化

  • 米国の大手銀行の脱退は、金融業界全体の脱炭素方針に対する不確実性を高める要因となる。
  • これまで、ネットゼロ目標は業界のスタンダードになりつつあったが、主要銀行の離脱によって気候関連金融規制の適用がばらつく可能性が高まっている。
  • 一方で、欧州の金融機関は引き続きNZBAに残留し、より厳格な気候規制を受け入れる傾向が強い。

② 投資家の評価と金融機関のブランド価値

  • NZBA脱退を決定した銀行は、ESG投資家からの信頼を損なうリスクを抱えることになり、持続可能な投資資金の流れに影響を及ぼす可能性がある。
  • 逆に、脱退することで「市場競争の自由を守る」との立場を明確にし、特定の政治・経済グループからの支持を得る動きも見られる。

③ NZBAの方向性の再評価

  • 相次ぐ脱退を受け、NZBAのルールや運営方法の見直しが議論される可能性が高まっている
  • 例えば、銀行ごとの柔軟な目標設定を認めるかどうか化石燃料企業との関係をどの程度制限するか などの調整が求められる。
  • 今後、NZBAがこの動きを受けてどのように組織運営を変更するかが注目される。

NZBA(ネットゼロ・バンキング・アライアンス)の加盟金融機関と参加国の現状

NZBAには、米国の主要銀行の脱退後も、44カ国から130行前後が加盟しており、加盟行の総資産額は60兆ドルに上る とされています。

今後、NZBAは加盟基準の見直しや運営方針の変更を検討しており、金融機関の脱炭素戦略にどのような影響を与えるかが注目されています。

日本の加盟金融機関(2025年3月時点)

現在の加盟機関

・三井トラストグループ

脱退した金融機関

  • 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)(2025年3月4日脱退)
  • 野村ホールディングス(野村HD)(2025年3月12日脱退)
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)(2025年3月19日脱退)
  • 農林中央金庫(2025年3月25日までに脱退)
  • みずほFG(2025年3月31日脱退)

日本の大手金融機関は、独自の気候変動対策を進めるためNZBAを離脱する動きが続いています。

海外の主要加盟金融機関(2025年3月時点)

現在の加盟機関

  • HSBCホールディングス(イギリス)
  • BNPパリバ(フランス)
  • ドイツ銀行(ドイツ)

脱退した金融機関(2024年12月~2025年1月)

  • ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)(2024年12月20日)
  • シティグループ(Citigroup)(2024年12月31日)
  • バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)(2024年12月31日)
  • モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)(2025年1月2日)
  • JPモルガン・チェース(JPMorgan Chase)(2025年1月8日)

特に米国の大手銀行がNZBAを離脱する動きが顕著であり、背景には政府の規制方針の変化や気候変動に関する政治的圧力があるとされています。

まとめ

ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)は、銀行の投融資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までにネットゼロにすることを目指す国際的な枠組みです。
しかし、近年、米国を中心に脱退が相次ぎ、その影響が広がっています。

特に、米国の大手銀行が次々と脱退した背景には、政治的圧力や独占禁止法(反トラスト法)のリスクが関係 しており、さらにNZBAの厳格な基準が各銀行の戦略と合わなくなってきています。
日本でも、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)や野村ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、農林中央金庫、みずほFGが脱退し、独自の脱炭素方針を進める動きが強まっています。

一方で、欧州の銀行は引き続きNZBAに加盟し、金融業界全体の脱炭素化を推進 する立場を維持。
NZBA自体も、相次ぐ脱退を受け、今後の運営方針や加盟基準の見直しを検討する可能性が高まっています。

NZBAの未来は、各国の金融機関が脱炭素と経済性のバランスをどう取るか にかかっており、国際金融市場における影響も含め、今後の動向が注目されます。

SNSシェアはこちら
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次