B Corp(B Corporation)認証の現状と認証取得の流れ

企業の社会的責任や持続可能性への関心が高まるなか、注目を集めているのが 「B Corp認証」 です。
2006年に米国の非営利団体B Labによって設立されたこの制度は、単に利益を追求するのではなく、社会や環境に配慮した経営を行う企業を国際的に評価する仕組みです。
評価は ガバナンス・従業員・コミュニティ・環境・顧客 の5つの領域で行われ、B Impact Assessment(BIA)で80点以上を獲得し、さらに法的要件や売上規模に応じた認証費用を満たすことが求められます。
認証取得までには審査や追加資料の提出、場合によっては現地調査などもあり、相応の労力が必要ですが、そのプロセス自体が企業の改善点を明確にする貴重な機会となります。
現在、世界では8,000社以上、日本でも50社を超える企業が認証を取得し、ブランド価値向上や人材採用力の強化、ネットワーク拡大、経営改善といったメリットを享受しています。
B Corp認証は単なる資格ではなく、持続可能な企業経営の国際的なお墨付き と言えるでしょう。

B Corp認証の認証基準とプロセス
B Corp認証は、企業の社会的・環境的パフォーマンスを包括的に評価します。具体的には、以下の5つの主要領域で評価が行われます。
- ガバナンス:企業の倫理、透明性、説明責任に関する評価。
- 従業員:労働環境、従業員の福祉、職場の文化に関する評価。
- コミュニティ:地域社会への貢献、多様性、公平性、インクルージョンに関する評価。
- 環境:環境への影響、持続可能な資源利用、エネルギー効率に関する評価。
- 顧客:製品やサービスの社会的な価値、顧客に対する責任に関する評価。
認証プロセスは以下のステップを経て進められます。
・B Impact Assessment (BIA)
企業はオンラインでB Impact Assessmentを完了できます。この評価は約200の質問からなり、B Corp基準に沿って社会的責任や持続可能性の観点からどのように事業運営を行っているかを評価します。
『社会的、環境的にポジティブなインパクトを与えることは、自社にとって重要かどうか』、『社会的・環境的影響を事業の成功の主要な尺度として扱い、それが収益性に繋がらない場合でもあっても優先させているかどうか』、『事業やミッションに関連した社会過大や環境問題の社員教育を実施しているか』『社会問題や環境問題を組み込んだ社員評価の実施有無』などの質問に答えていき80点以上を目指します。
・スコアの検証
B Labの審査チームがBIAの結果を確認し、必要に応じて企業に追加情報を求めます。最終的に、企業は80点以上のスコアを獲得する必要があります。
事前の取り組みが相当行われていないと、最初から80点以上を獲得することは難しく提出時に80点の自己採点であっても提出した情報を元にインタビューが複数回行われたりと事務局とのやりとりで、要件を満たしていると考えていた点の活動が足りなく失点し80点未満になることもあります。
その中で、80点に満たない企業は弾かれるということではなく、答える過程で設問の要件を達成していくにはこういった事例を参考にすると良いという提示などもあり、80点以上を満たせるようにフォローがあります。
スコアリングにより、どういった視点が必要なのか、企業は自社の社会的および環境的インパクトを定量的に把握でき、改善すべき領域を特定できます。
・法的要件の遵守
企業は、そのガバナンス構造を変更し、ステークホルダーの利益を考慮することを定款に明記することが求められる場合があります。これは企業の形態や所在地に依存します。
企業がB Impact Assessmentの評価スコアで認証に必要な80点以上を達成したとしても、法的要件を満たしていなければB Corp認証を取得することはできません。
企業は、法的要件を満たすための変更を、認証取得プロセスの一環として一定期間内に行う必要があります。この期間内に法的な変更が完了しない場合、認証が保留される可能性があります。
ステークホルダー全体を考慮した意思決定の義務化や社会的および環境的な影響の報告といったことを定款に加えていき、B Corp認証を受けた後も、企業はこの法的要件を継続的に遵守することが求められます。定款に変更があった場合や、新たな法規制が導入された場合、企業はそれに対応してガバナンス構造を更新する必要があります。
・認証費用の支払い
企業は年間の認証費用を支払います。この費用は企業の売上高によって異なります。
B Corp認証の費用は主に以下の2つに分かれています。
- 認証取得時の費用(取得時の費用)
- 年間認証費用(毎年の更新費用)
費用は、企業の年商によって異なり、スライディングスケール方式で設定されています。以下は、2024年時点の一般的な費用範囲です(具体的な費用はタイミングによって異なる可能性があるため、B Labの公式サイトで最新情報を確認することをお勧めします)。
売上と年間認証費用の目安:
- 売上 $1,000,000未満の企業: 年間認証費用 $1,000
- 売上 $1,000,000〜$10,000,000未満の企業: 年間認証費用 $1,500~$3,000
- 売上 $10,000,000〜$50,000,000未満の企業: 年間認証費用 $5,000〜$12,500
- 売上 $50,000,000〜$500,000,000未満の企業: 年間認証費用 $15,000~$30,000
- 売上 $500,000,000以上~$1,000,000,000未満の企業: 年間認証費用 $37,500~$45,000
▼出典:B Corpポータル B Corp認証を取得するのには料金がかかりますか?
このように、企業の規模に応じて段階的な料金体系が採用されており、年間売上高が低い企業には負担が少なくなるよう設定されています。
・認証の取得
すべての要件を満たすと、企業は正式にB Corp認証を取得でき、認証証書が発行されます。
企業はこの証書を受け取ることで、正式にB Corpとして認められたことを証明できます。また、認証取得後、企業は「Certified B Corporation」としてロゴを使用する権利を得て、自社のウェブサイトやマーケティング資料でこれを表示することができます。
一連のプロセスを紹介しましたが、やはりスコアの検証部分が非常に工数がかかる部分で、情報提出後に追加の資料を求められたり、必要に応じて現地調査があったりと対応していく形となります。
日本におけるB Corp認証の現状
現在、B Corp認証を受けている企業は、全世界で96か国にわたり、162の業界にまたがっており、8,000社以上に上ります。
そんな中、日本でもB Corp認証を受ける会社は増えており現在51社になっています。(2025年1月現在)
▼参考:B Lab Global Site 認証企業検索ページ
以前は、英語でのサポート体制のみでしたが、現在では、B Labの日本支部(B Lab Japan)が立ち上げられており、日本企業に特化したサポートや、セミナーやワークショップなどを通じて、企業の認証取得を支援しています。
▼参考:BMBJサイト
https://bcorporation.jp/
サイトでは、B Corp認証に関する資料やガイドラインが日本語で提供されており、企業がプロセスを理解しやすいようになっています。
また、日本のB Corp認証企業間でのネットワーキングイベントやコミュニティ活動が盛んで、ベストプラクティスの共有や協力の機会が多くあります。
日本でB Corp認証を取得している企業には、以下のような事例があります。
・オンラインショップの商品ページで、温室効果ガスの削減割合を表示されているヴィーガンクッキーの株式会社ovgo社
▼参考:株式会社ovgo HP 【B corp🌏】ovgo BakerはB corpを取得しました
・長野県東御市を拠点に活動しているオンラインストアおよびリアル店舗にて日々の暮らしに寄り添う丁寧な製品を取り扱っている株式会社わざわざ社
これらの企業は、B Corp認証を通じて以下のようなメリットを享受しています。
・ブランド価値とレピュテーションの向上
B Corp認証は、社会や環境に配慮した経営を行っている証拠として、消費者やステークホルダーから高い評価を受けるきっかけとなります。
特にサステナビリティに関心のある層に対して、認証取得は信頼性を高める重要な要素です。このような信頼は、企業イメージの向上だけでなく、競合との差別化にも寄与します。たとえば、消費者が社会的に責任のある商品やサービスを求める中で、B Corp認証を取得した企業は選ばれる機会が増えるでしょう。
・優秀な人材の採用と定着
認証を取得することで、企業は「社会的意義のある仕事場」としてのイメージを確立できます。特に若い世代やミレニアル世代においては、自身が働く企業が社会や環境にどのように貢献しているかが重要な判断基準となるため、B Corp認証は優秀な人材を引きつける大きな力となります。
また、既存の従業員にとっても、自分の仕事が持続可能性や社会課題の解決に貢献していると実感することで、モチベーションや仕事への満足感が向上します。結果として、離職率の低下や生産性の向上が期待できます。
・取引機会の拡大
B Corp認証を取得することで、他の認証取得企業やサステナビリティを重視する企業とのネットワークを活用できるようになります。このネットワークは、新たな取引先の発見や共同プロジェクトの実現を促進し、新たなビジネスチャンスを生み出す土台となります。
・経営改善の推進
認証を取得するためのプロセスは、企業の経営全般を見直す貴重な機会となります。認証基準の厳格さは、企業の社会的・環境的なパフォーマンスを客観的に評価し、改善すべき点を浮き彫りにします。
これにより、企業は自社の強みをさらに伸ばすとともに、課題を解決することで持続可能な経営基盤を構築することが可能になります。たとえば、エネルギー効率の向上やサプライチェーンの改善など、認証取得プロセスを通じて経営全体の効率性と透明性を高めることができます。
グローバル展開における信用力の向上
B Corp認証は国際的に認知された基準であり、海外市場への進出を考える企業にとって重要な信用力の裏付けとなります。
認証を通じて、企業はグローバルなB Corpコミュニティへのアクセスを得られるため、国際的なパートナーシップを構築する上で有利な立場を築くことができます。また、各国での消費者や規制当局からの信頼を得やすくなるため、事業展開がスムーズに進む可能性が高まります。
持続可能性の推進と企業価値の向上
最も重要なのは、B Corp認証の取得そのものが、企業としての存在意義を再定義し、持続可能性を重視する経営の一環として位置付けられる点です。
この取り組みは、社会的責任を果たすだけでなく、長期的には企業価値の向上につながります。認証の維持には継続的な努力が必要ですが、それが企業の成長と革新を促す原動力ともなります。
まとめ
B Corp認証は、利益の追求にとどまらず社会や環境への責任を果たす企業を評価する国際的な仕組みです。
認証を得るには、ガバナンス・従業員・コミュニティ・環境・顧客の5領域で審査を受け、B Impact Assessmentで80点以上を獲得し、必要に応じた法的要件や売上規模に応じた認証費用を満たす必要があります。
審査は厳格ですが、プロセスを通じて経営の改善点が明確になり、組織の持続可能性を高められる点が特徴です。
現在は世界で8,000社以上、日本でも50社超が認証を取得しており、ブランド価値の向上、人材確保、取引機会の拡大、海外展開での信用力 など多くのメリットを享受しています。
B Corp認証は、企業が持続可能な成長を実現し、ステークホルダーからの信頼を獲得するための強力な指標といえるでしょう。