グリーンスチール導入でCO2削減!今すぐ知るべき4つのポイント

世界の二酸化炭素(CO₂)排出量の約7〜8%を占める鉄鋼業は、脱炭素社会に向けて最も難しい領域の一つとされています。
自動車や建築など基幹産業を支えるため、抜本的な排出削減なくして国際的なカーボンニュートラル目標は達成できません。

その切り札として注目されているのが 「グリーンスチール」 です。
製造過程でのCO₂排出を従来の高炉法より大幅に削減する新たな鉄鋼で、「低炭素鋼」「ゼロカーボンスチール」とも呼ばれますが、定義はまだ確立しておらず、技術・制度・市場の三位一体で進化しているのが特徴です。

欧州では水素還元製鉄が先行し、日本でも 国家戦略物資 として位置付けられ、日本製鉄・JFE・神戸製鋼 が独自ブランドを展開。
マスバランス認証や第三者検証によって透明性を担保し、日産や欧州メーカーなど需要家企業が長期契約に踏み出すことで市場形成が始まっています。

課題は、最大4割高とされるコストや再生可能エネルギー・水素の供給制約ですが、EUのCBAMやG7「気候クラブ」、国内の補助金やグリーン公共調達といった政策が普及を後押ししています。

つまりグリーンスチールは、環境対策にとどまらず、新たな産業や雇用を生む可能性を秘めた次世代の成長分野。
日本企業にとっても、国際競争力を左右する重要テーマとなりつつあるのです。

目次

グリーンスチールとは?定義と脱炭素社会での役割

グリーンスチールの定義と特徴

グリーンスチールとは、製造過程で排出される二酸化炭素(CO₂)を従来の製鉄より大幅に削減した鉄鋼材料を指します。

近年では「低炭素鋼」「ゼロカーボンスチール」「脱炭素鉄鋼」といった名称でも呼ばれていますが、どの程度の削減をもって“グリーン”とするのか、国際的に統一された基準はまだ存在しません。

この定義の曖昧さは課題でもありますが、一方で新しい技術や取り組みを柔軟に取り込める余地を残しており、市場の立ち上がりを支える役割も果たしています。

特に「マスバランス方式」と呼ばれる認証スキームでは、鉄鋼メーカーが達成したCO₂削減効果を証書化し、製品に割り当てることで、実際の排出削減と市場での取引をつなぐ仕組みが整いつつあります。
つまり、グリーンスチールは単なる技術ではなく、脱炭素社会を実現するための制度的枠組みや市場メカニズムと一体で発展しているのです。

▼出典:経済産業省 GX推進のためのグリーン鉄研究会事務局 事務局説明資料

世界と日本の現状と戦略的位置付け

世界の鉄鋼業界では、グリーンスチールの開発と商業化をめぐる競争が加速しています。
欧州では再生可能エネルギーを背景に、水素を還元剤として利用する「水素直接還元製鉄(H₂-DRI)」が先行。
スウェーデンのH2 Green Steel社や北欧の製鉄プロジェクトはその代表例です。

一方、中国やインドといった鉄鋼大国は、既存の高炉に水素を一部導入する方式を進め、段階的にCO₂排出を減らす独自の道を模索しています。
世界最大の鉄鋼生産国・中国が動けば、国際市場に大きな影響を及ぼすことは確実です。

日本では鉄鋼業が自動車や建設など基幹産業を支えるため、政府はグリーンスチールを半導体と並ぶ「国家戦略物資」と位置付けています。
GX(グリーントランスフォーメーション)戦略に基づき、研究開発資金の投入や税制優遇を通じて鉄鋼メーカーを支援。

▼参考:経済産業省が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)とは?政策・支援策を徹底解説

日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所といった国内大手は、水素還元や大型電炉の開発に注力し、国際競争力の確保を狙っています。
つまりグリーンスチールは、日本の産業構造そのものを左右する国家的テーマになっているのです。

▼出典:2023年度(令和5年度) 温室効果ガス排出量及び吸収量について

国際政策との関係性(IEA・経産省の方針)

グリーンスチールの普及は、世界的なカーボンニュートラル政策と密接に結びついています。

国際エネルギー機関(IEA)が公表した「Net Zero by 2050」ロードマップでは、鉄鋼業は削減が難しい「ハード・トゥ・アベート産業」とされながらも、水素還元やCCUS(CO₂回収・利用・貯留)の導入によって大幅削減が可能と指摘されています。

IEAは2050年に「ニア・ゼロ・エミッション鋼」の市場が5億トン規模に成長する可能性を示しており、巨大なビジネス機会として位置付けています。

▼参考:IEAが世界のエネルギー政策に与える影響とは?最新動向と課題も解説

日本政府も同様に「2050年カーボンニュートラル」「2030年度温室効果ガス46%削減」という目標を掲げ、鉄鋼業を最重要セクターと明言。
経済産業省が主導するGX戦略のもとで、官民合わせて150兆円超の投資を喚起し、革新技術への資金投入を強化しています。

▼参考:【2025年最新】カーボンニュートラルとは?現状と今後のトレンド

加えて、グリーンスチールの採用を評価する税制や補助金制度も整備され、政策・市場・技術が三位一体で進展している状況です。

▼出典:「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ

鉄鋼業が直面する課題とグリーンスチールの必要性

鉄鋼業のCO₂排出構造と脱炭素の必然性

鉄鋼業は世界の二酸化炭素(CO₂)排出量の約7〜8%を占める、最大規模の産業排出源です。

日本国内ではさらにその比率が高く、産業部門全体の約4割を鉄鋼業が占めています。
これは自動車や建設といった基幹産業を支える規模の大きさゆえに避けられない構造ですが、同時に脱炭素化を進めなければ国の気候目標が達成できないことを意味します。

とりわけ問題となるのが、現在主流の「高炉・転炉法」です。
鉄鉱石は自然界では酸化鉄の形で存在しており、鉄を取り出すためには酸素を除去する「還元反応」が必要になります。

このとき用いられるのが石炭から作られるコークスで、鉄鉱石を還元する過程で大量のCO₂を発生させます。
鉄1トンを生産するたびにCO₂が不可避的に排出されるため、抜本的にプロセスを変えない限り、大幅な排出削減は実現できません。

つまり、鉄鋼業の脱炭素化は「選択肢の一つ」ではなく「避けられない必須課題」なのです。

▼出典:「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ

グリーンスチール普及を阻む4つの壁

グリーンスチールは有望である一方、普及を阻む大きなハードルが存在します。
それは コスト・技術・インフラ・市場受容性 の4点です。

  1. コストの高さ
     グリーンスチールは従来材に比べて最大で4割高いとの試算もあり、水素還元炉や電炉の新設には巨額の設備投資が必要です。
    さらに、グリーン水素や再生可能エネルギーといった高価なエネルギー源がコストを押し上げています。
  2. 技術的な成熟度不足
     水素還元技術の基本原理は確立されていますが、商業規模で安定的に高品質な鋼材を生産するには多くの課題が残されています。
    炉内の熱バランス制御などは従来法とは全く異なり、現場での実装には時間がかかります。
  3. エネルギー・インフラの制約
     大量の再生可能エネルギーとグリーン水素の安定供給が前提ですが、日本では土地やコストの制約から再エネ拡大が思うように進んでいません。
    このインフラ不足は技術の商用化を遅らせる大きな要因となっています。
  4. 市場受容性の不透明さ
     製品コストが高くなった場合、それを市場が受け入れるかどうかが不確実です。
    自動車や建築といった需要家が「グリーンプレミアム」を支払う意思を持たなければ、メーカーは投資回収の見通しを立てられません。

この4つの課題は互いに絡み合っており、技術が進まなければコストは下がらず、インフラが整わなければ市場も広がらないという「鶏と卵」の構造に陥っています。
そのため、企業単独の努力では限界があり、政府による産業政策や市場全体の協調が不可欠とされています。

▼参考:経済産業省が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)とは?政策・支援策を徹底解説

国内外市場の動向と期待される経済効果

課題は大きいものの、グリーンスチール市場には明るい展望も見えています。
調査によれば、世界市場は2024年時点で約7,000億ドル規模とされ、2030年には9,000億ドルを超えると予測されています。

さらに国際エネルギー機関(IEA)は、2030年までに世界の粗鋼生産の約5%が「ニア・ゼロ・エミッション鋼」に置き換わる可能性を指摘しており、新たな巨大市場の創出が期待されています。

規制面では、EUの「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」が強力な追い風となっています。これは鉄鋼製品に含まれるCO₂排出量に基づいて事実上の関税を課す仕組みで、脱炭素化を進めていない国の製品は競争力を失うリスクがあります。

こうした動きは、輸出を重視する日本やアジア各国にとって、グリーンスチール導入を加速させる大きな要因となっています。

さらに、この転換は単なるコスト増ではなく、新たな経済機会も生み出します。
再生可能エネルギー、水素供給、CO₂回収利用(CCUS)、高度リサイクル技術など、多様な関連産業に波及し、雇用や投資を呼び込む効果が期待されています。

▼参考:再エネ導入を考える企業必見|再生可能エネルギーの種類・導入方法・成功事例

つまり、グリーンスチールは環境対策にとどまらず、産業構造を変革し次世代の成長エンジンを育てる可能性を秘めているのです。

▼出典:「トランジションファイナンス」に関する 鉄鋼分野における技術ロードマップ

グリーンスチールを実現する製造方式と技術革新

製造方式の比較:電炉・水素還元・マスバランス

グリーンスチールを実現するアプローチは、大きく分けて「製造プロセスの転換」と「会計・認証上の工夫」の2種類があります。

代表的な方式を以下にまとめました。

製造方式仕組みCO₂削減効果主な課題
電炉法(EAF)鉄スクラップを電気で溶解して再利用する方式。高炉法より大幅に低排出。電力が再エネ由来ならさらに削減可能。スクラップの量・品質に限界があり、高級鋼材には不向き。
水素還元製鉄(H₂-DRI+電炉/高炉水素還元)鉄鉱石を水素で還元し、電炉で製鋼。既存高炉ではコークスの一部を水素に置換。再エネとグリーン水素を使えば排出ほぼゼロ。大量の安価な水素と再エネ確保が不可欠。設備投資も巨額。
マスバランス方式削減したCO₂量を証書化し、製品に割り当てる認証手法。実際の削減努力を市場で可視化できる。実物は従来鋼と同じで、透明性確保が課題。

電炉は「循環型社会」に直結する技術、水素還元は「抜本的な革新」、そしてマスバランスは「移行期の現実的解決策」として役割を分担しています。
次世代技術については様々な研究が現在進行形で続いています。

▼参考:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスに おける水素活用プロジェクト

国内メーカーの技術開発とブランド事例

日本の大手鉄鋼メーカーも独自の強みを活かしてグリーンスチールの開発に取り組んでいます。

  • 日本製鉄:NSCarbolex™
    「高炉水素還元」「大型電炉」「100%水素直接還元」の三本柱で研究開発を進めています。
    ブランドでは、マスバランス方式による 「NSCarbolex Neutral」(CO₂削減価値を付与した鋼材)と、省エネ性能を備えた 「NSCarbolex Solution」 を展開。
    国内橋梁工事や日産自動車向けに供給され、社会実装が始まっています。

▼参考:日本製鉄 NSCarbolex®とは

▼出典:日本製鉄 NSCarbolex® Solutionとは

  • JFEスチール:JGreeX™
    高炉から出るCO₂を再利用する「カーボンリサイクル高炉」や、直接水素還元技術を研究。
    ブランド 「JGreeX™」 はオフィスビル「水道橋PREX」の鉄骨に採用されるなど、建築業界で注目を集めています。

▼参考:住友商事が開発するオフィスビル「(仮称)水道橋PREX」における グリーン鋼材「JGreeX」の採用について ~不動産・建築業界におけるグリーン鋼材初採用~

  • 神戸製鋼所:Kobenable® Steel
    世界的に展開する MIDREX®法 を活用し、直接還元鉄(HBI)を高炉に多量投入してCO₂排出を抑制。
    国内初の商品化ブランド 「Kobenable Steel」 を展開し、100%削減割り当ての「Premier」と50%の「Half」を提供。
    日産をはじめ自動車業界で採用が進んでいます。

▼参考:Kobelco Kobenable® Steel

これらの事例は、単なる研究開発にとどまらず、実際の社会実装やサプライチェーン全体の脱炭素化につながっている点に特徴があります。

認証と透明性を担保する仕組み

グリーンスチールの価値を保証するうえで欠かせないのが 認証制度の信頼性 です。
特にマスバランス方式では、実物は従来鋼と同じであるため「どの程度CO₂削減に貢献したのか」を明確に示す仕組みが重要です。

日本鉄鋼連盟は「グリーンスチールに関するガイドライン」を策定し、

  1. GHG排出原単位の算定
  2. 削減実績の確定
  3. 証書の発行と割り当て

という3段階を統一ルールとしました。

さらに、ClassNK(日本海事協会) などの第三者機関がISO規格に基づき検証を行い、二重計上を防ぎつつ国際的な信頼性を担保しています。
これにより、顧客企業はサプライチェーン排出量(スコープ3)の削減として正当に計上でき、投資家や社会からの評価にもつながります。

▼出典:グリーンスチールに関する ガイドライン 2025 年 4 月改訂

導入コスト・価格形成と普及の条件

コスト構造と「グリーンプレミアム」

グリーンスチールの最大の課題は、従来材と比べた価格の高さです。
試算では、同等の鋼材でも最大で約4割高いコストになるとされます。
この差額は「グリーンプレミアム」と呼ばれ、需要家が追加で支払う環境価値分と位置付けられます。

コスト増の要因は主に二つです。

  1. 水素価格 – 水素直接還元を実用化するには大量の水素が必要ですが、現状の「グリーン水素(再エネ由来水素)」は化石燃料由来の水素に比べて数倍高価です。
  2. 再生可能エネルギー価格 – 電炉や水素製造に使う電力を再エネで賄う必要があり、そのコストが直接的に鋼材価格へ跳ね返ります。

つまり、鉄鋼メーカーが技術を磨くだけでは限界があり、エネルギーインフラ全体の低コスト化とセットでなければ持続的な普及は難しいのです。

マスバランス認証による移行期の仕組み

本格的に水素還元や大型電炉が普及するまでの「移行期」には、マスバランス認証が重要な役割を果たします。

マスバランス方式では、鉄鋼メーカーが削減したCO₂量を証書として記録し、それを一定割合で製品に割り当てる仕組みを採用します。
これにより、従来製法でつくられた鋼材であっても「CO₂削減の価値」を持つ製品として市場に流通させることが可能になります。

需要家企業にとっては、この証書を取得することでサプライチェーン排出量(スコープ3)の削減として会計処理ができ、環境報告やESG投資の評価につなげられます。
つまり、マスバランス認証は「橋渡し役」として、グリーンスチールが社会に定着するまでの現実的な手段といえるのです。

▼参考:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスに おける水素活用プロジェクト

普及を後押しする政策と国際調達ルール

グリーンスチールの普及には、市場任せでは不十分であり、政策や国際ルールによる後押しが不可欠です。

  • 税制優遇・補助金
    日本政府はGX戦略の一環として、革新炉の建設や研究開発に対する補助金や減税措置を拡充しています。
    これにより、メーカーの投資負担を軽減し技術開発を促進しています。
  • グリーン公共調達
    公共事業でグリーンスチールを優先的に採用することで、需要を下支えする施策です。
    道路・橋梁・庁舎建設などで利用すれば、初期コストが高くても安定的な市場が形成されます。
  • 国際的な公平競争条件
    EUは「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」を導入し、CO₂排出の多い輸入鋼材に追加コストを課しています。
    さらに、G7で議論が進む「気候クラブ」では、排出削減に取り組む国同士での公平な競争条件づくりが進められています。
    日本にとっても、こうした枠組みに参加することで国際市場での競争力を維持できます。

▼出典:経済産業省 グリーンイノベーション基金事業について

まとめ

グリーンスチールは、製鉄過程でのCO₂排出を大幅に削減する次世代の鉄鋼であり、脱炭素社会を実現する鍵とされています。

世界排出の約7〜8%を占める鉄鋼業において、その必要性は極めて高く、日本でも国家戦略物資として位置付けられています。
水素還元・電炉・マスバランスといった多様な技術が並行して進み、日本製鉄・JFE・神戸製鋼が独自ブランドを展開。

コスト高や水素・再エネの制約といった課題は残るものの、マスバランス認証や公共調達、EUのCBAM、G7「気候クラブ」など国際政策が普及を後押ししています。

自動車や建築などの需要家が長期調達に動くことで市場形成が進み、将来的には持続可能な経済成長とゼロ・エミッション社会の実現に直結するでしょう。

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