参加レポート│東洋経済主催【この統合報告書がすごい!】

― 統合報告書の“勝ち筋”を読み解く:企業価値を語るレポートづくりとは ―

統合報告書は、ここ数年で「CSR報告書の延長」から「企業価値を語る財務ドキュメント」へと大きく進化しました。一方で、

  • ESG投資への逆風
  • 欧米を中心とした規制緩和の動き
  • 日本におけるSSBJ開示の段階的導入

といった背景から、「今、統合報告書は本当に読まれているのか?」と疑問を持つ実務担当者も増えています。

本記事では、東洋経済新報社主催の「この統合報告書がすごい!」統合報告書ナイトに参加し、

  • 投資家が本当に評価する統合報告書のポイント
  • 形式論に陥らない“財務ストーリー”の作り方
  • トップメッセージ・制作体制の実務論
  • AI時代に必須となる統合報告書の設計要件

を、作り手・審査側双方の視点から学んできました。
統合報告書を、「分かっている」から「投資家に伝わる」レベルへ引き上げたい方に向け、今日から実務に使える要点を厳選して解説します。

※当日のスライドおよびセミナー内容の詳細については共有不可のため、本記事では要点のみの掲載としております。あらかじめご了承ください。

目次

1. なぜ今も統合報告書は重要なのか

― 逆風下でも“確実に読まれている理由”

統合報告書の発行企業数は、International Integrated Reporting Council(IIRC)ガイドライン公表(2013年)以降、約10年で10倍規模に拡大。2025年には約1,300社に達すると見込まれています。

確かに、

  • ESG投資への反動
  • サステナビリティ疲れ
  • 制度先送り感

といった「逆風」は存在します。
それでも登壇者が口を揃えていた結論は明確でした。

「統合報告書は、投資家が最初に読む資料である」

◆投資家が統合報告書を見る理由

  • 四半期報告書・有価証券報告書では見えない中長期の経営ストーリーが分かる
  • 複雑な事業ポートフォリオを一望できる
  • 新規投資検討時の入口資料として使われる

つまり、
逆風=読まれないではなく、 逆風下だからこそ「差」が評価に直結するのが統合報告書なのです。

統合報告書の開示状況

▼出典:統合報告書における非財務資本情報の定量化


2. 統合報告書の本質は「サステナビリティを織り込んだ財務報告」

◆CSRの延長では投資家に刺さらない

本セッションで最も重要だったメッセージは次の一文に集約されます。

統合報告書とは、サステナビリティを組み込んだ“財務報告”である

これは、

  • 企業の取り組み紹介
  • CSR活動の実績集

ではありません。

重要なのは、
「その取り組みが、将来キャッシュフローにどう影響するのか」

気候変動対策、人材戦略、サプライチェーン、事業ポートフォリオ──
これらを「社会のためにやっています」で終わらせず、

  • どのリスク・機会に対応しているのか
  • どの事業価値を高めるのか
  • どの財務指標に効くのか

まで踏み込む必要があります。この考え方は、経済産業省が示す「稼ぐ力の強化」とも完全に一致しています。

▼参考:経済産業省_「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスについて

3. 投資家の“腹落ち”を生む2要件

◆独自性│差別化を恐れずに

開示基準に忠実になるほど、統合報告書は画一化します。
だからこそ必要なのが「独自性」。

ただし、作られた独自性はグリーンウォッシュの温床になります。
本物の独自性の源泉は、企業の実態です。

特に重要なのがトップメッセージ。

  • 経営者の価値観
  • 市場に対する見立て
  • 痛みを伴った意思決定
  • 価値創造プロセスの本音

これらが語られて初めて、「その企業らしさ」が伝わります。

◆コネクティビティ|戦略は一本の線でつながっているか

IIRCが重視するコネクティビティとは、

  • 過去 → 現在 → 未来
  • サステナビリティ → 事業戦略 → 財務成果

が一本のストーリーで結ばれている状態。

  • なぜそのマテリアリティを選んだのか
  • 事業戦略とどう連動しているのか
  • 経営資源配分にどう反映されたのか
  • 結果として、どの財務価値が伸びるのか

この「線」が明確なほど、投資家の理解は深まります。

4. 実務で差がつく制作プロセス

◆トップメッセージは“1回の取材”では作れない

優れたトップメッセージに共通するのは、複数回の対話

  • 良いサンプルを見せて“イメージを掴んでもらう”
  • 新入社員時代や転換点になったエピソードを聞く
  • 戦略を語る前に“価値観”を掘り下げる
  • 下書きを見せて再度深掘りする

この反復が、独自性を生みます。

◆制作体制の最適解は「3名」

  • 実務担当:2名
  • 経営企画(調整役):1名

この最小構成が、最も効率的とされていました。

◆情報が集まらない問題は“外部編集者の司令塔化”で解決

  • 部門にToDoと期限を明示
  • リマインドは外部編集側に“敢えて”担わせる
  • 社内政治を避けつつ締切管理を実現

これは多くの企業に刺さるはずです。

5. AI時代に必須となる「AIフレンドリー」設計

近年、投資家は分析の一部をAIに委ね始めています。
AIが読めない統合報告書=存在しない報告書とさえ言われます。

◆AIに嫌われるNG例

  • 画像に埋め込んだテキスト(PDFコピペ不可)
  • 装飾過多の図版だけで重要情報を完結させる
  • 複雑なフォント・色による装飾
  • ロックされたPDF

◆AIフレンドリーにするポイント

  1. 主語と動詞が明確な短文構造
  2. 重要情報はテキスト+数値セットで開示
  3. 検索可能PDFを必須化
  4. PDFをロックしない
  5. 英語版はAI翻訳を前提に設計(トンマナ精度は人が担保)

AIフレンドリーは “投資家ファースト”の基本要件になりつつあります。

▼出典:【統合報告書×AI】“読む時代”から“読ませる時代”へ──208社の調査が示す次の開示戦略

6. 優れた統合報告書の共通点【事例から学ぶ】

東洋経済が挙げた優良事例には共通点があります。

  • 読者体験を設計(旭化成)
  • エピソードで読者を惹きつける(伊藤忠)
  • 「外の声」で信頼性を高める(横浜FG)
  • 数値比較で説得力を出す(ぐるなび)
  • 仕組みを可視化(花王)
  • 時系列で変革を語る(富士フイルム)
  • 財務コミットメントを明確化(日本郵船)
  • 社会的価値の定量化(KDDI)
  • PDFとウェブの役割分担(積水化学、オムロン)

結論:優れたレポートほど “伝えたいこと” が整理され、“読ませる導線” も丁寧に設計されている。

▼出典:GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」 

7. 制作現場のよくある課題と解決策

◆課題1:情報が投資家視点にならない

投資家OBのレビュー導入が最も効果的。

◆課題2:せっかく作っても“読まれている実感がない”

広報導線の強化

  • ストックボイス等への記事広告
  • SNSやウェブへの露出
  • 読者アンケートで関心データを取る

統合報告書は「作るだけ」で終わらせてはいけません。


8. 総括:良い統合報告書とは“企業の未来を語る財務ドキュメント”である

統合報告書の本質は、企業が未来にどう価値を生み出すか、投資家と対話するための“長期戦略の設計図”。単なる活動の羅列ではなく、

  • 価値創造ストーリー
  • 稼ぐ力の根拠
  • 経営の意思
  • 財務・非財務の連動
  • AI対応

    を備えて初めて「投資家に届くレポート」になります。

◆良い統合報告書の5つの要点

  1. 一貫した価値創造ストーリー(コネクティビティ)
  2. 投資家を中心に据えた構成
  3. 独自性のあるトップメッセージ
  4. AIフレンドリーであること
  5. 社内を巻き込む制作体制

統合報告書を発行し続けることは、
“開示に後ろ向きではない”という投資家へのシグナルでもあります。

まとめ|「分かっている」から「伝わる」統合報告書へ

統合報告書の重要性は、多くの企業がすでに理解しています。
それでも実務では、限られた時間や体制の中で「本当に投資家に伝わる形」にまで落とし込むことが難しいのが現実です。
今回のセミナーで得られた知見は、統合報告書を形式的な開示物ではなく、企業価値を語る財務ドキュメントへと進化させるためのヒントに満ちていました。本記事が、日々悩みながら報告書づくりに向き合う皆さまにとって、次の一手を考えるきっかけになれば幸いです。

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