SBT取得だけが進まない…数年越しの悩みが、一度の相談で一気に動き出した日

写真:野村様(右から2人目)
自動車や建設機械、住宅、設備機器などに使われるねじ製品の製造を手がける株式会社協栄製作所。奈良県の本社と埼玉県の工場の2拠点体制で高品質なねじの供給を支えつつ、2003年にはISO14001認証を取得し、早くから環境保全にも注力してきました。
そんな同社にとって、数年来の課題となっていたのが「SBT(Science Based Targets)認証の取得」でした。主要顧客からの推奨を受け、社内でもその必要性を認識しつつ、社内体制の複雑さから、なかなか前に進めない日々が続いていました。
今回は、協栄製作所様がScopeXの支援を受けてSBT認証をどのように取得されたのか、その背後にあった悩みや決断、ScopeXとの出会い、そして取得後に見えてきた変化や具体的な脱炭素の取り組みについて、お話を伺いました。
脱炭素へ取り組むきっかけとSBT認証取得の背景
野村様)弊社は、もともと2003年にISO 14001の認証を取得しており、その頃から環境保全の取り組みを体系的に行ってきました。それ以来、当社独自でCO2排出削減目標を掲げ、毎期取り組んできました。
しかし数年前、筆頭顧客から全サプライヤーに対し「SBT認証取得を推奨する」という方針が打ち出されました。これにより、既存のISOの取り組みに加えて、SBT目標に合致する目標を掲げて進める必要があると判断し、本格的にSBT認証取得に取り組むこととなりました。
企業理念が原動力:環境への責任と事業成長の両立を目指し
当社の企業理念は「我々の勤朗で豊かな生活を 社会で愛され貢献することは 社業の発展に通じる」です。豊かな生活を実現するためには、地球環境が重要であることは言うまでもありません。環境を守ることは社会からの要請であり、今回の顧客の取り組みにも強く共感しています。常に環境を意識し、顧客満足度を向上させていくことで企業として持続的に発展していきたいという想いが、私たちの原動力です。
また、企業の社会的責任として、環境に配慮し責任ある行動をとることが求められる一方で、企業は成長し続けなければならない使命もあります。SBTの要求に応えるプロセス自体が、当社にとって成長の機会になると考えています。SBTやISOは、認証の取得や継続が目的となりがちですが、当社ではそれらを企業成長のための手段として活用していきたいと考えています。
当社はメーカーであり、生産設備の更新などで環境対応を進めるには多額の費用を伴うため、計画的な推進が求められます。その中で設備投資を行いながら新たな取り組みも進めることで、これまでに無い発想やアイデアが社員の中から生まれ、成功体験を通じて社員自身の成長と、当社のさらなるレベルアップにつながることを期待しています。
SBT認証取得への道のり:立ちはだかる課題
SBT認証取得に向けて動き出す中で、いくつかの課題がありました。
CO2排出量の把握は既に実施済みでも、管理に課題
野村様)CO2排出量そのものは奈良・埼玉の2拠点で、ISOの取り組みの中で把握されていましたが、埼玉ではExcelを使った管理のなかで、数値の捉え方に差が出てしまう場面もあり、目標数値の一貫性に若干のやりづらさがありました。
社内における環境意識の「温度差」
野村様) ISO認証取得当初のメンバーが残る埼玉工場では、観測項目や記録方法がルール化されていますが、後から加わったメンバーにはその背景まで十分に伝わっておらず、取り組みに対する理解に差がありました。
他社の事例は参考にならず
野村様)主要顧客主催のサプライヤーミーティングでは、認証取得済み企業の事例が発表されていました。しかし、弊社が抱える課題を解決するような発表はありませんでした。普段から取引のある会社にも相談してみましたが、やはり解決にはいたりませんでした。

写真:本社工場(奈良県)
ScopeXとの出会いと導入の決め手
野村様)このような状況の中で、弊社がScopeXに問い合わせるきっかけとなったのは、ScopeXのサイトに掲載されていたSBT認証取得のインタビュー記事でした。
「弊社が悩んでいた部分と重なる内容があり、相談すれば前に進むかもしれない」という期待から、問い合わせに至りました。
営業担当の方は、初めから非常に親しみやすく、話しやすいお人柄で、私たちの悩みも率直にお伝えすることができました。また、SBT対応にあたっては、弊社側に想定されるリスクについても丁寧にご説明いただき、その誠実な対応がとても印象的でした。
一緒に悩みに向き合い、さまざまなアドバイスをいただきながら前に進めそうだという安心感は、初回の面談からずっと変わらず感じていました。
こうしたやりとりもありましたので、他のCO2算定ベンダーや環境コンサルタントに問い合わせることはありませんでした。
ScopeXへの依頼を決めた理由は、まさにこの面談時の印象と、無責任に「できますよ」と言うのではなく、私たちと課題を共有しながら、丁寧に調査・対応してくれる姿勢にありました。
SBT認証取得の成果と今後の展望
野村様)ScopeXのサポートを受けて弊社は無事、中小企業版SBT認証を取得できました。
この数年間は、SBTを認証するということ自体が目標みたいになっていて、本来のCO2削減という本質から少しそれた取り組みになっていたかなと思います。そのくらい、SBT取得は根深い課題でした。しかし、今回晴れて認証を取得することができ、目標も明確に掲げている以上、その目標に向かって具体的なCO2削減に取り組んでいかなければいけないという思いが強くなりました。長年モヤモヤしていたSBTの問題が解決したことで、脱炭素活動の具体的な推進に、より前向きに取り組むことができます。
温井 社長)長年の課題だったSBT認証がやっと取得できたので、非常に気持ちが良く、今の気分もハイになっています(笑)。早速本社工場のウェルカムボードに、SBT認証取得を掲示しました。吉野川の風景や吉野山の桜、雪景色など、地元の美しい写真の下に「CO2削減で地球を守っています」といったメッセージを添えることで、来訪客にも自分たちの活動を身近に感じてもらいたいと思っています。

写真:本社厚生棟
会社全体での具体的な脱炭素活動
会社としての脱炭素活動についてお伺いしたところ、既に多くの取り組みを進めておりました。
永尾様)今回の中小企業版SBT認証取得よりも前から、弊社は様々な脱炭素活動に取り組んでいます。
設備更新時の環境配慮
・省エネ、高効率のモーター導入
これまでの価格重視から地球環境に配慮した製品の検討を進めています。特に、消費電力の大きいモーターは高効率な省エネモーターに順次更新中です。
・工場照明のLED化
本社工場内の水銀灯を、すべてLED照明に更新済みです。また、埼玉工場でも更新が計画されています。
・コンプレッサーの集中管理化
従来、各製造現場に個別に設置されていたコンプレッサーを、工場外に集中管理する方式に変更しました。これにより、熱源を外部に出し、最適な切り替え制御を行うことで、消費電力の削減に成功しています。
・複合機のペーパーレス化促進
ファクスの受信をプレビューで確認できる機能を有した複合機を導入し、必要なものだけ印刷するように、無駄な紙の使用を削減しています。また、社内の印刷物もPDFでのデジタル完結を推奨し、ペーパーレス化を推進しています。
・排水処理設備の更新
薬品で鉄の表面加工を行う工程で発生する排水について、環境負荷の低い状態にするため、先に奈良工場、その後に埼玉工場で最新の排水処理設備を導入しました。これにより、工業用下水に流す際も、pH管理や成分チェックを行い、十分な安全基準を満たした状態にしています。
個人的に取り組んでいる環境活動
会社全体としての取り組みに加え、従業員個人のレベルでも環境活動に意識的に取り組まれています。
永尾様)プラグインハイブリッド車に乗り換える際に、自宅の電力契約を「グリーン電力」に切り替えました。正直なところ、プライベートでは環境よりもコスト優先の考え方が強いですが、それでも納得のいくご提案だったので切り替えました。
野村様)私は食べることも料理することも好きなので、普段からフードロスを意識しています。具体的には、家庭菜園で採れる野菜を無駄なく食べるために、調理法を調べたり、保存が効くレシピを試したりしています。農薬をあまり使わないため、虫食いの野菜が多いときもありますが(笑)
協栄製作所様は、中小企業版SBT認証取得という節目を迎え、これまでの環境活動をさらに前進させるスタートラインに立たれました。企業全体、そして働く一人ひとりが、持続可能な社会の実現に向けて、さらなる環境価値創出への歩みを進めています。