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EUの開示基準なのに日本企業にも影響が!?CSRDとESRSについて解説

EUの開示基準なのに日本企業にも影響が!?CSRDとESRSについて解説

公開日2024年6月5日
更新日2025年2月6日
  • 脱炭素経営

CSRDやESRSという単語について、聞いたことはあるけど詳しくは分からない、という方が多いのではないでしょうか。
実は欧州連合(以下EU)のサステナビリティ報告基準の進展が、今やEUだけに留まらず、世界中に影響を与えようとしています。そのため、CSRDとESRSの導入は日本の企業にとっても無視できないテーマとなってきました。

本記事ではCSRDとESRSの内容について、日本企業に与える影響と合わせて詳しく解説します。ぜひ最後までお読みいただき、今後のサステナビリティ戦略に役立ててください。



EUのサステナビリティ報告基準の歴史

2014年:NFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)の施行

(2015年:EUだけでなく国際的な開示基準としてTCFDが設立)

2021年:NFRDの強化版としてCSRDが採択。2024年度の会計年度から適用開始。

2023年:CSRDのより具体的な開示基準としてESRSが採択

CSRDとは

CSRD施行の背景

CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)以前の非財務情報開示指令(NFRD)をバージョンアップしたもの。
NFRDは対象企業を絞り過ぎたり(EU域内における年間平均従業員500名超の大企業等、約1万社程度)、開示情報の量や質についても不足が多いという課題がありました。

CSRDの内容

CSRDはNFRDと比較して対象企業数が約5万社(EU域内企業数のみで)と大幅に増加しています。さらに開示要求項目についてもESRSに基づいて報告する必要があります。



ESRSとは

ESRSの概要

ESRS(European Sustainability Reporting Standards):欧州サステナビリティ報告基準
CSRDのもとで策定された報告基準です

ESRSの目的

企業のサステナビリティ報告を標準化し、報告の質と透明性を向上させることです。
具体的には、以下の点が挙げられます。

透明性の向上
企業が持続可能性に関する情報を明確かつ一貫性を持って開示することで、投資家やその他の利害関係者が企業の持続可能性パフォーマンスを正確に評価できるようにすること 

比較可能性の確保
異なる企業間でのサステナビリティ報告を比較可能にし、企業の持続可能性パフォーマンスのベンチマークを容易にすること 

信頼性の確保
報告内容の信頼性を高め、利害関係者が企業のサステナビリティに関する情報を信頼できるようにすること 

規制遵守の支援
企業がEUのサステナビリティ関連法規制に準拠するためのガイドラインを提供すること  

ESRSの主な内容

ESRS(European Sustainability Reporting Standards)の構成は以下の通りです

▼参考:ネイチャーポジティブとは?注目される理由や世界的な潮流とその背景

▼参考:企業に求められる資源循環とは? 廃棄物削減と温室効果ガス排出量抑制への道のり 

横断的な基準
全ての企業に適用される一般的な報告要件を定めています。企業のサステナビリティ戦略、リスク管理、ガバナンスに関する情報が含まれます。   

E(環境基準)
企業が環境に与える影響について報告するための基準です。気候変動、生物多様性、水資源の使用などが含まれます。

S(社会基準)
企業の社会的影響を報告するための基準です。人権、労働慣行、社会的包摂などが含まれます。   

G(ガバナンス基準)
企業のガバナンス構造と実践に関する情報を報告するための基準です。経営陣の役割、報酬方針、内部統制などが含まれます。


ESRS開発の流れ

2023年10月21日:ESRSの内容が正式に決定。EU官報にも掲載されました。
2024年1月1日~ :CSRDと共に企業は適用開始   
今後                    :横断的な基準の他に、特定のセクター(業界)に関するガイドラインも追加で発表予定
ISSBとの調整     :ESRSの開発には、ISSB(国際サステナビリティ基準委員会)が開発したIFRS S1号及びIFRS S2号に関する基準との整合性も考慮されています

   

CSRD(およびESRS)の対象企業

2024年1月1日~
主にEU域内の大企業や上場企業、EU内で実質的な事業を展開する非EU企業が含まれます。
例)日本の企業でEUに子会社を持つ企業でも、基準を満たす場合は早くて2025年度から開示の対象となります。

2025年~
中小企業も対象となり、上場している中小企業も報告義務が発生します。

2026年~
EU域内での全ての上場企業に報告義務が拡大されます。また、非EU企業であっても、EU市場において一定の売上や従業員数を持つ企業はCSRDの対象となります。

2028年~
さらに対象企業を広げる計画があり、EU内外で実質的な事業を行う全ての企業が対象(報告義務を負う)となります。最終的には約5万社を対象とする見込みです



CSRD(およびESRS)対応のメリット

これらの規制は、単なる報告義務の強化にとどまらず、企業の透明性向上、リスク管理の強化、競争力の向上といった長期的な価値創造に直結する重要な要素となっています。

まず、透明性の向上 という点が挙げられます。
CSRDでは、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する詳細な情報を開示することが求められます。
これにより、投資家や消費者、規制当局といったステークホルダーが企業の持続可能性に関する実態をより深く理解できるようになります。

特に、近年はESG投資の拡大が進んでおり、投資家は企業の財務情報だけでなく、環境負荷の削減や社会的責任に対する取り組みを重視する傾向が強まっています。
そのため、CSRD対応によって透明性が確保されることで、企業の信頼性が高まり、資本市場での評価向上にもつながります。

次に、リスク管理の強化 という側面も重要です。
ESRSでは、企業が気候変動や生物多様性の損失、人権リスクなどにどのように対応しているかを具体的に報告することが求められます。このプロセスを通じて、企業は自社のリスクを体系的に分析し、適切な対策を講じる機会を得ることができます。
特に、気候変動に関連するリスクは、事業継続性に直結する可能性があるため、早期に対応することで、将来的なコスト増加や事業の不確実性を軽減できるでしょう。
さらに、サプライチェーン全体の環境・社会リスクを可視化することで、持続可能な調達戦略の構築にもつながります。

また、競争力の向上 も見逃せないメリットの一つです。ESGに積極的に取り組む企業は、顧客や取引先からの評価が高まり、新たなビジネスチャンスを創出しやすくなります。
特に欧州市場では、持続可能性を考慮した製品・サービスの需要が高まっており、CSRDに対応することで、規制対応を求める企業との取引機会を拡大することが可能です。
例えば、サプライヤーとして選定される際に、環境負荷の低減や人権尊重の取り組みが評価基準となることが増えています。
そのため、CSRDへの適合が、企業の市場競争力を高める重要な要因となるのです。

さらに、ステークホルダーとの関係強化 も期待できます。
従業員、投資家、消費者、地域社会など、さまざまな関係者に対して、企業の持続可能性に対する真摯な姿勢を示すことで、信頼関係を構築することができます。
特に、労働環境やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関する開示は、優秀な人材の確保や従業員のエンゲージメント向上にも寄与します。持
続可能性を重視する企業文化を醸成することで、従業員のモチベーションを高め、長期的な企業成長を支える基盤となります。

最後に、規制対応コストの削減 というメリットもあります。CSRDはEU域内で統一的な報告基準を提供するため、
これまで企業が個別に対応していた複数のESG報告義務を整理し、一元化することが可能になります。
これにより、重複した報告の負担を減らし、より効率的なコンプライアンス管理を実現できるでしょう。また、今後のESG規制強化を見越して早期に対応することで、将来的な対応コストの増加を抑えることができます。

このように、CSRDおよびESRSへの対応は、単なる規制順守にとどまらず、企業価値の向上、リスク低減、新たなビジネス機会の創出など、多面的なメリットをもたらす ものです。特に、ESGが企業経営の中心課題となりつつある今、積極的な取り組みを進めることが、企業の持続的成長と競争力強化に不可欠な要素となるでしょう。


CSRD(およびESRS)デメリット

CSRDおよびESRSへの対応は、企業にとって多くのメリットをもたらす一方で、いくつかのデメリットも考慮する必要があります。
特に、中小企業やグローバル展開を行う企業にとっては、規制対応の負担や実務上の課題が発生する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

まず、コストの増加 という課題が挙げられます。CSRDでは、従来の非財務情報開示よりも詳細なデータ収集・報告が求められ、環境負荷の定量的な算定や、人的資本・サプライチェーンのESGリスクに関する詳細な開示が必要になります。
そのため、これまでESG報告に取り組んでこなかった企業ほど、新たなシステム導入、データ収集・分析の強化、外部コンサルタントの活用 などに多額の投資を強いられることになります。
特に、サプライチェーン全体のGHG排出量(Scope 3)や人権デューデリジェンスを求められるため、取引先との連携や情報収集の負担が増大することが予想されます。

また、人的リソースの確保 も大きな課題となります。
CSRD対応には、財務報告とは異なる専門知識を持つ人材が必要であり、ESGデータの管理や開示に精通した担当者の育成・採用 が不可欠です。
しかし、多くの企業ではESG関連の専門部門が十分に整備されていないため、社内体制の構築に時間を要することが懸念されます。。

さらに、開示義務の厳格化に伴うレピュテーションリスク も考慮すべき点です。
CSRDによって、企業のESGに関する透明性は高まりますが、それは同時に、ネガティブな情報も明るみに出やすくなる ということを意味します。
たとえば、温室効果ガス(GHG)排出量が他社と比較して高い、あるいはサプライチェーンで人権問題が発覚した場合、その情報が報告書を通じて公になることで、投資家や消費者からの評価が低下するリスク があります。
特に、欧州市場ではESGコンプライアンスの厳格化が進んでおり、ESGスコアが低い企業は取引機会を失う可能性 もあるため、慎重なリスクマネジメントが求められます。

また、規制の変更や解釈の難しさ もデメリットの一つです。
CSRDやESRSは新しい枠組みであり、今後、EUや各国の当局が詳細なガイドラインを示すことで、基準の解釈や適用方法が変わる可能性 があります。
そのため、企業は継続的に規制の動向を注視し、必要に応じて開示内容を更新する必要があります。
特に、グローバルに展開する企業にとっては、EU以外の国・地域でも異なるESG規制が適用されることがあるため、各国の規制を統一的に管理する難しさ も伴います。

最後に、短期的な業務負担の増加 も無視できません。CSRDに対応するためには、ESGデータの収集・整理・報告に膨大な時間と労力を要します。
特に初期対応の段階では、社内の異なる部署間での連携、サプライヤーへの情報開示要求、監査プロセスの確立 など、多くの作業が発生します。
企業によっては、短期的にはESG関連業務にリソースを割かれることで、本来の事業活動に影響が出る可能性もあります。

CSRD(およびESRS)が日本に与える影響

日本の企業も対象に
CSRDは段階的に対象を拡大するため、日本のグローバル企業(特にEUに子会社や事業拠点を持つ企業)も対象となってきます。

日本企業では、2025年1月からの開始が1つ目のタイミングですが、このタイミングで対応する必要がある欧州の子会社は、連結で純資産残高2,500万うユーロ、純売上高5,000万ユーロ、年間平均従業員250人という3つの基準のうち、いずれか2つの基準を満たす場合CSRDの対応が必要になってきます。

第三者保証が必須に
CSRDは第三者保証が必須のため、日本企業は信頼性の高いデータ収集と保証プロセスを導入する必要があります。報告の信頼性は向上しますが、追加コストが発生する可能性があります。


ダブルマテリアリティの導入
CSRDはダブルマテリアリティ(財務的影響と企業の社会的影響の両方を評価する)を強調しているため、日本の企業はESG要素をより包括的に評価し、報告する必要があります。


まとめ

ご覧の通り、CSRDはEUのサステナビリティ情報開示指令ではありますが、今後は段階的に対象企業を広げていきます。さらにESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に対応するためには細かい情報が必要になるため、その準備にも時間がかかります。
そのため日本の企業でもEUに拠点がある場合は、「自社はCSRDの対象になるか」、今のうちからしっかりと確認をお願いします。

出典:
ESRS草案1
EFRAG Double Materiality

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